僕の彼女は……です。後輩「何言ってるんですか?先輩?」幼馴染「彼女?彼女って何?」

片山樹

【ヒロインを妹に設定しますか?】『YES / NO』 【『YES』を選択しました】

 僕には妹が一人いる。
だけど妹は引きこもりで全く家から出ようとしない。
 一度親達が無理矢理にでも出そうとしたのだが、泣き叫んで拒絶するだけだった。
 妹は小学四年生の頃までは普通だったのだが、五年生になって以来学校は不登校だ。
 親はいつも帰りが遅いし、朝も早い。
おまけに会社に泊まったりしているので僕や妹とも全く会話もできていない。だから夜はいつも僕達二人なんだけど、妹は部屋に篭っているので実質僕一人なのだ。

 だがそんな実質一人から二人になる出来事が起きた。

 停電である。
僕は妹の部屋の前にあった食器と僕の食べた食器を洗っていた。
 その瞬間、起きた停電。
それと共に蠢く雷鳴。
 外が激しい音を鳴らし、光った。

「うわぁゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎわゎゎわーーーーーーーーー!」

 二階から可愛らしい声がした。
妹――僕と妹は顔を全く合わせていない。
 一緒の家に居るのに合わせないなんて馬鹿らしく思えるけど、これが僕達二人の、僕達家族の現状なのだ。
 悲しい限りだけどね。

ともあれ、妹の叫び声。
 助けに行くしかあるまい。

「待ってろ。妹……すぐに助けに行くからな」

 手元にあった携帯の光を頼りに急いで階段を駆け上る。足を何回か段差にぶつけたがそんなことは気にしない。今は妹のことが心配だ。

 妹の部屋の前まで来た。

ドン! ドン! ドン!
 三回、部屋を叩く。

「開けろ! 妹! すぐに助けてやるから」

「い、いやぁ! 入って来ないでぇ! 来たらまじで殺すから! 入ったら、殺す!」

ガチャガチャガチャ。

 ドアノブを動かしてみる。
だが全く開かない。
 確か、僕の部屋のドアと構造は同じだったよな。
これは確か、爪を鍵穴に入れて……クイッと回せば。
 ほら、できた。

 僕はドアを開けようとする。

だが、開かない。
 動いては居るのだが、妹がドアの向こう側から引き返しているのだ。

「開けろ! 妹! 今、お兄ちゃんが助けてやるから」

「やめてぇ! やめて!」

 両者の引きがどのくらい続いたのだろう。
一分ぐらいだろうか。

 引きこもりの妹の身体は限界に近かった。

力は一気に無くなり、ドアは一気に開いた。

 僕は思い切り、開けようとしていたので身体がよろめいた。

 そして僕は目の前にいた妹を押し倒していた。
揉み揉み。手に柔らかい感覚があった。

「うぅー」
 妹の可愛らしい声がした。
なんか、声が艶っぽい。

 その瞬間、もう一度雷が鳴る。
僕の手にあったモノが見えた。
 デカイTシャツに身を纏った僕の妹。
下は履いていないのか、僕の目には映らなかった。

 そ、それよりも……。
僕の手にあったもの……それはおっぱいだった。

「ご、ごめん……。妹……」
 僕はすぐに体制を変え、妹に土下座する。
妹は僕に押し倒され痛かったのか、イテテと頭を擦っていた。
 その時、明かりが付き、元の状態に戻った。

「も、もう……だから来ないでって言ったじゃない」
 妹は自分専用のオフィスチェアに座り込んだ。
顔をぷくっと風船の様に膨らませていた。
 僕が目線をそちらに送ると目線を外してくる。
嫌われちゃったのかな?

「ごめんなさい。許してください……」
 僕は床に頭を付けて謝った。
妹に頭を下げるなんて、兄としての威厳が保たれないけど、妹に手を出したとなれば、威厳も何も無くなるからな。

「べ、別に……それはいい。だけど……もう妹が入っていいと言うまで絶対に入らないで」

 妹は自分を自分の名前で呼ぶ。
それは昔と全く変わらない。
 それにしても……妹は可愛くなった。
昔から可愛かったけど、成長して更に可愛くなった。

「妹……。お前、今中三だったよな?」

「う、うん。そうだけど、何?」

「学校に行ったらどうだ?」

 本来ならば、こんなことを言うのは逆効果になるかもしれない。だけど僕としては彼女に学校に行ってほしい。妹が過去に何があったのかは分からない。
 だけど、今の彼女が少しでも変わることができるんだったら、学校に行ったほうがいいと思う。
 まぁ、彼女が嫌と言えば無理にとは言わないけど。

「嫌だ」
 彼女の意思は変わらないらしい。昔からちっとも変わっていなかった。原因はやはり過去にあるのだろう。
 だけど、原因が分かったとしてもこの長い年月をかけて出来上がった彼女の傷を癒やすことは不可能だろう。

「分かったよ、妹。だけどさ、金曜日だけは一緒にご飯を食べないか? リビングで。別に話をしなくてもいいし、黙って一緒に居てくれればいい。勿論、僕が茶碗を洗うし。自分が食べ終わったら、部屋に戻っていいからさ」

「うん……分かった」

 それが僕達二人の兄妹としての絆が復縁した日だった。

✢✢✢
 あの日以来、僕と妹は金曜日だけは一緒に夕飯を食べている。できることなら毎日一緒に食べたい所だけど、まだ始まったばかりだし、最初はゆっくりゆっくりしていくのが大事だろう。それにしても気になるな。
 妹が何故学校に行かなくなったのか。
少し自分で調べてみるか。

 僕は色々と探ってみた。

といっても、本格的に妹と同じ年齢の人に話を聞くとかそんなものではなく、自分の家にあるアルバムとかを見るだけだ。
 僕と妹と父親と母親の四人家族。
そう思えば、この家を親が購入したのは僕が中学生に入ってからだった。ということは妹は僕の二学年下だから丁度小学五年生だったというわけか。
 昔住んでいた場所から少し離れ、僕の通うことになった中学から近い場所になった。今通っている高校も歩いて通える所なので良かったと思える。

 何か手がかりがあるとは思えないが、妹が昔通っていた小学校に行ってみよう。
 まぁー僕の母校でもあるんだけどね。

自転車に乗って、母校へと向かう。

 二十分ぐらい走らせていただろうか。
母校に着いた。僕が通っていた頃とは違い、新校舎になっているし、体育館とかも建て替えられていた。
 確かに体育の授業中とか古いと思っていたので、建て替えて正解だと思う。
 だがそれ以上何か手がかりは無かった。
建て替えが何か意味があるとは思えないし。

 僕は来た道を戻る。
本当に行って損した気分だ。
 何も見つからなかったのだから、仕方がないか。
それに何か手がかりがあると思って、来たけれど何もないというのは分かりきったことなのだ。
 同じ道を走らせて帰るのは少し嫌だったので気分転換に他の道を通ろうと思った。
 自分の住んでいる町だから色々と道を知っていると思っていたが、予想以上に知らない道が多かった。
 案外こんなことも起こるだろう。
ギコギコとペダルを回して、家に戻る。
 丁度ポケットに小銭が入っていたので、近くにあった自販機でジュースを買って飲んだ。
 缶ジュースだったので全部飲み干した。
空き缶をゴミ箱に捨てようと思った時、僕は気がついた。前からランドセルを背負った子供達がいることに。
 学校は僕側にあったはずだからこれは逆走となる。
それならば明らかにおかしいはずだ。
 僕はそう思って、ランドセルを背負った女の子に声をかける。
 髪をツインテールにしている可愛らしい女の子だ。
その女の子はランドセルの横に付いていたストラップに手を向けた。
 僕はそれを知っている。
これは防犯ブザーである。
 とっさに僕は言う。

「僕は怪しくない。僕は少し、質問があるだけなんだ」

「ん? 質問? だけど……知らない人には声をかけられたら、鳴らせってお母さんが……」

 僕はそんなに怪しいのだろうか。
一応、僕は高校生で見た目を悪くないと思うんだが。
 だがそれは主観の問題だ。
客観的に見たら、僕はそんなにも怪しい奴に見えるらしい。

「あ、そうだ。ジュースを奢ってあげるよ」

 いや、こっちの方が怪しいか。
普通に怪しすぎるだろ。

 と、思っていたのだが。
ランドセルを背負った女の子は目を輝かせていた。

「い、いいの!?」
 その目は真夏のビーチの太陽よりも輝いている。
無邪気な目には負けるな。

「うん。いいよ。じゃあ、どれにする?」

 自販機にトコトコと動き、どれにしようか迷って背伸びしている。可愛らしい。
 というか、お母さん。
怪しい人に声をかけられたら、注意するのはいいけど。
その前に知らない人にジュースを奢るよと言われたら、危ない人という注意をしましょうね。

「これにする!」
 女の子が選んだのはオレンジジュースだった。
僕はお金を入れて、ボタンを押した。
 女の子がしゃがんで、オレンジジュースを取り出し、満足そうに飲み始めた。
 女の子の嬉しそうな笑みを見れた。
缶ジュース一本でツインテール小学生の笑顔が見れるのなら悪くない。僕がそんなロリコン思想を頭の中で張り巡らせていた時、女の子が言った。

「美味しいよ! お兄ちゃん!」

 お兄ちゃん……。お兄ちゃんだって。
僕のことをお兄ちゃんだってさ。
 そう思えば、昔は僕の妹も「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とか言って、僕の後ろにずっと付いて来てたっけ。
 あぁー懐かしいな。
僕が小学六年生で妹が小学四年生の頃までずっと一緒に登校してたよな。それってめちゃくちゃ仲良いことだよな。

「そうか。それは良かった」
 そして女の子の頭の上に手を置くか、迷った。
だが、僕の手は何故か女の子の手に向かっていた。
「キャーロリコンよぉー」とか近所のおばさんが言うかもしれないが、そんなことは無いはずだ。
 僕が女の子の頭の上にポンと手を置き、撫でてあげるくすぐったいのか「ふふっ」と笑っていた。


「あ、それでさ。質問なんだけど。何故、君は学校と反対方向に歩いているわけ?」

「学校と反対? 何言ってるの? お兄ちゃん?
 学校はこっちだよ」
 女の子は僕の家の方向を指差した。
えっ? でも確かに僕の家とは反対側に学校があるはずなんだけど。というか、僕は直に行った。

「えっ? でもさ、学校はあっちにあるんじゃ?」
 僕は辿ってきた道を指差して言う。

すると女の子は言った。

「あぁー。そっちも学校があるけど。こっちにあるんだよぉー」

 言われてみればそうだ。
僕達の地域には小学校が二つあった。
 それに今僕が住んでいる家から僕が今日実際に行った小学校までは自転車で二十分かかった。
 小学生の足で考えると四十分はかかるだろう。
いや、もう少しかかるか。
 ひとまず、かなり時間がかかる。
それに比べ、もう一つの学校は僕の家からそんなに時間がかからなかったはすだ。
 なんで……僕はそんなことに気が付かなかったんだろう。
 そう思えば、新学期が始まる前の夕飯は親も居て。
僕と妹に「これから二人共、新しい生活になると思うが頑張ってくれ」とか言ってたよな。
 その新しい生活っていうのを僕は中学校生活で妹は新しい家の生活と思っていたけど、それは妹も学校が変わったからなのだろう。

 全てのパズルのピースが埋まった気がした。

僕は女の子に「ありがとう」と伝え、べダルを回した。

 家に到着した。真っ先に妹の部屋に向かおうと思ったが、行けずじまいだった。彼女に何かを言って解決するとは限らない。だが、何も言わなければ何も解決しない。
 ただ、妹が何故不登校になってしまったのかの原因が分かった。
 彼女は新しい環境に馴染めなかったのだ。
誰にだってそれはある。
 だから僕は兄として、人生の先輩として、妹に言うべきだろう。
 こんな気持ちを。こんな言葉を。

 僕は妹の部屋の前に立っていた。

 そして、言葉をかける。

「妹、起きてるか? まぁ、起きてなくてもいい。
 これは兄としての僕の言葉だ。
馬鹿らしいと思うが、聞いてほしい。
 まぁ、今の今まで妹のことを本気で考えてなかった僕がこんな言葉をかけるのは間違っていると思うけど。
 それでも聞いてほしい」

 僕は部屋の向こうにいる、一枚の板に挟まれた先にいる妹に向けて言葉をかける。

「僕は妹がどんな奴になったとしても、いつまでも、いつでも、僕はお前の味方・・だ。
 僕は妹が辛くなったときは助ける。だからさ、妹。
一緒に外に出てみないか? お前が嫌だと言っている外の世界は確かに汚いし、醜いこともある。
 だけど、そんな時は僕に頼ってほしい。
兄として、妹を守るのが僕の役割だからな」


「僕だけじゃない。父さんや母さんだって、妹の味方だ。僕達は四人家族なんだ。だから四人で乗り越えていかなければならないんだ。誰か一人が辛くなったら、皆で支える。それが僕達、家なんだよ!」

 臭いことを言ってしまったか。
あまりにも臭すぎるか。
 少し恥ずかしい。だけど達成感があった。
やりきった感があった。
 だけどその時、ドアが開いた。
そして妹が僕に抱きついてきた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と昔と変わらないブラコンの妹がそこには居た。

✢✢✢
 あれから一年という歳月が経った。
僕は高校三年生になり、妹は高校生になった。
 そして一緒に外に出る。
僕と同じ高校の制服を身に纏った僕の妹は言う。

「ありがとう、お兄ちゃん」と。

 そして続けざまに言った。

「わ、わたし、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい」と。

コメント

  • ノベルバユーザー255476

    はじめましてにしさんです

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