私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

三十四話『最初と世界と巡回』

 ―――これで、ワシらは本当に力を手に入れれるんだな!?

 脳裏にその声がよみがえる。少年はその声を煩く感じたのか、思い出さないように声を握りつぶす。とん、と背を椅子にゆだねる。
 この者達のためにやったことでも、自分のためにやったことではない。

 全ては、この世界から『最強』という存在を消すためにやっていたことだ。そのためにビオフレオは必要不可欠……そう感じただけである。

「まあ、どうせ使い道がなくなれば裏切る。奴らに希望なんて与えないし、第一ゼウスの名を引き継いでいるのは彼女じゃない……」

「マスター、何のために彼女にそれを埋めつけたのか、エリスは分かりません」

「ビオフレオを操縦するためだ。使い道がなくなれば、すぐに壊すか利用するか。利用した方がいいんじゃないかって思ってね。どうせ使い捨てだし?」

 エリスは黙り込む。擬人化した場合でもナビの場合でも彼女には感情があり、それはマスターである北野永夜が与えたものでもある。
 最も、彼が北野永夜の名前を名乗ることはもうないのだが。

「シュレイ、様。ゼウスの名を、どうして引き継いでいるのですか?」

「……強制的に奪った方が正しい。僕の存在によって運命が壊れ、その隙の中では僕が何でもできる空間が生まれる―――その時に、ね」

 それは素晴らしい、とエリスは目を輝かせた。一瞬の隙、否、一瞬ですらない運命それの隙を見つけるなんて。と。
 だが、ビオフレオは存在していてほしい、と彼女は彼女なりに思っている。
 そして、勇気を出してそれを永夜に言うと「それも悪くない」と返される。

「だって一応僕に恩があるわけだし、残しておいた方がいい、ってことだろうけど。裏切ってからじゃあもう遅い」

「マスター……人間は信じられません。人間とはおそろしいものです。……っですが、ゼウスの名は―――」

「もういいよ。あの苦しみはもう味わいたくないしね」

 エリスはゼウスの名を奪うことの副作用を知っている。何せ神の力を奪うのだ、その器がなければ体はどうなるか安易に想像がつく。
 ではなぜ永夜が生きているのか、それはいくら聞いても教えてはくれない。

 恐らくは命をむしばまれ続け、命を糧に何とか生きているのだろう。それがエリスには耐えがたかった。むしろ感情がない方が良かったかもしれない。

「では、……マスターの希望が叶いますように。叶った後も無事御生存くださいませ。エリスの存在意義なのですから」

「もちろん、僕が全て終わった時にこの世界にいなかったら、この世界はあっという間に壊れてしまうからね……」

「この話は終わりにしましょう。ビオフレオ国王に渡したアレは何なのです?」

「ああ。魔化覚醒専用の薬だよ……神を悪魔にするってのが正しいけど、あれの場合神の力に悪魔の力を足すんだ」

「ですがそのようなことをしてしまえば」

 エリスの問いを遮り、永夜は一口コーヒーを啜った。

「勿論、理性を失う。最も、彼女ならそれを止められると思うし」

「元から国王に期待はなさっていなかったのですね」

「うん。ビオフレオ国はもっと名君が治めるべきだ、僕の最後の情けだよ」

 素晴らしいです、御主人様。とエリスが目を煌めかせながら言うと、永夜は一度目を閉じた。そして何処からともなく杖を出す。

「これでも君は倒せないだろう―――フィリア。僕は君を倒すんじゃない、引き入れることが大切だと思っている」

「乙女の純真の心を利用する気ですね?」

「言い方にも程があるよね……まあ、間違ってはいないんだけど認めたら大変なことになる気がするんだ……」

 真顔でそう冗談を言ったエリスだが、それがあまり冗談に聞こえず永夜は肩をすくめる。フィリアを利用するつもりでも殺すつもりでもない。
 ただ、チートでなくなればいい、それだけなのだ。
 チートなど、複数人が持っていたらどれだけの人の人生を潰していくことか。

「マスター。エリスはずっとマスターのそばに居ます。離れません。ですから、一度は自分のために生きてみませんか?」

「まだ早いよ……この愚かな世界は終わらせないと。まあ勿論その時は僕もいないから大丈夫。何か最近何処に向かってるのか分かんなくなってきたな」

「エリス達だけの世界にして、生き残りしたチートはエリス達の奴隷にして、エリス達が満足した者達は側近に置く」

「ああそういえばそんなことを言っていたな……じゃあそうするよ。チート殺し以外にすることもないんだから、ちょっとした遊びに、ね」

 そういいながら人差し指を唇に当て、神妙な笑みを浮かべる。これほど残忍なことを平然と言ってのけたエリスも、あれだけ残忍なことを遊びだといってのけた永夜も、狂った人外だということは確定事項。
 二人もそれを自覚しているからこそ、自分達を犠牲にしてチートを殺している。

 よく居る「かっこいい敵キャラ」になろうとは思わない。だが、この愚かな世界を殺戮で満たし、神から天罰が下るまでは―――

 しっかりとこの世界の最後を見届けなければならない。

「世界は1000年で一度巡回を迎える。だから、僕がその巡回を迎える時に必ず起こる大破壊を起こさなくてはならない」

「大破壊が起きなかった場合、どうするのですか?」

「巡回が起きない。この愚かな世界のままになってしまう。僕がこの世界を守る神となれば、そのようなことは起きない」

「素晴らしいです! マスター! なんて美しいのでしょう……」

 感嘆の声を漏らすエリスを一瞥し、永夜は手を額の上にかざしたのだった。

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