私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

二十話『必殺、満天の流星!』

 剣が幾度もぶつかり合う。私は小さな体に似合わずフラネスの剣を何度受けてもまるで効いていない。重いだとか色々聞いていたけれど、これで手こずっていたら魔王軍は終わるなとも思っていた。
 アスカさんにそれを言うと『それはフィリアの特権です』と真顔で言われてしまった。
 しかしアスカさんも同じことを思っているようだ。

「ねえ。そんなのが本気なの? 本気でふぃりあに剣をぶつけてきてる?」

「なん、だと……? ふざけるなよ貴様、効いていないわけがないだろう!?」

「ううん、全く効いてないよ? もうちょっと根性出しなよ」

 わざと冷たい言葉を投げかけるのは、魔王様を怒らせて傷つけた罰だ。本当はもっと罰を与えたいけれど、一番いいやり方がわからない。
 そう言うとフラネスも本気を出してきたようで、剣に魔力を纏わせる。

 私も同じように纏わせるが、纏う魔力は金色になっている。対してフラネスは真っ黒だ。

「本当はこの力を出したくなかったんだけどね……」

 フラネスの瞳が黒に染まった。彼が足に力を入れると、音速を超えて私に飛び込んでくる。しかし私には少し早くなったようにしか見えない。
 続いて、髪も黒く染まる。その時に振り上げられた剣は、結構速かった。

 アスカさんにとっては、きっとまだ余裕なのだろう。その表情は楽にしている。

「その力、何?」

「ん? 超越者になるための力だよ。凄く魅力的な力だと思って、貸してもらったんだ。じゃあ終わらせるとするかー」

「フィリア気を付けなさい、必殺技が来ますッ!」

 あれは《黒彩弾》だ。闇に人を包んで、包まれた者は即死―――魔王様でも私でも取得できていない、禁断の魔術だというのに。
 どうして使えるの、今はそれを問いたくて仕方がなかった。

 剣を構える。
 同じく禁断魔術の詠唱をする。これは私でも詠唱が必要な必殺だ―――。

「《天よ開け――流れる星は導く――煌めく星は――天に満ちりし時――人々を導く――救世主となるでしょう―――満天の流星》!!」

「《光よ終われ――今我らを導く者は――闇の指導者――全てを超える――超越者――全てを壊しつくせ―――黒彩弾》ッ!」

 ほんの少しだけ、私の方が早かった。
 煌びやかに光ってフラネスに向かう流れ星と、膨大に膨らむ闇の洞窟は、あらゆるものを吹き飛ばし空間を切り裂いた。
 流れ星が、少しずつ闇の洞窟を押していく。
 アスカさんの剣先から魔力で私の魔力と繫いで手伝ってくれている。

 魔力の連携は難しいが、私とアスカさんにとってはできて当たり前のことだ。

「魔王様はぁっ―――ふぃりあがッ、守るッ!!」

「づあっ! くっそぉ、殺してやるぅっ!」

 フラネスは流れ星により全身を切り刻まれながらも、私に向かって剣を振り回し、剣先から魔力の弾丸を打ち続ける。
 軽々と私はアスカさんと連携しながら避ける。

 体力があまりない今のフラネスに、私たちを抜けるとは思わない。

「サテラさん。リゼさん、ライトさん、アリアさん―――魔王様、ファルナさん。戦いに参加したみんな。全員の苦しみを、身に覚えさせてやるッ!」

 初めての感情、きっとこれは憎しみだ。腹の底から沸き上がる熱いものではなく、頭が急速に冷えていくような、冷気。
 冷気が体を纏い、冷たい目がフラネスをとらえる。

「《地獄氷剣》」

 冷気の氷が龍となり、凄まじい勢いで流れ星に勢力を加えていく。冷気により速度を増した流れ星は―――。
 そのままフラネスに突っ込んでいった。

 フラネスは懸命に剣で耐えようとするが、叶わず吹き飛ばされる。

「ここから先はまだ早いです。フィリアは先に帰ってください。あとは私が処理します」

「うん。分かった。じゃあ、アスカさんも気を付けてね!」

 私が建物をうまく使って身軽に飛びながら撤退すると、アスカさんは冷たい目で縄と剣を両手に持った。フラネスを見下ろす。
 剣で腹を突き刺し、最低限の生命力を残し、体を麻痺させて動けなくする。
 その後に縄できつく縛る。

 戦で負けると、こうなることをフラネスは知っていたのか、はたまた知らなかったのか。彼は懸命に足掻こうとしているが、叶わない。

「貴方は、我が魔王軍最大戦力の、怒りの的をついてしまったのですよ」

「この僕が、負ける……? ゲホッ、信じ、られない……」

「魔王軍最大戦力、フィリアの覚悟は、貴方の覚悟なんかよりもよっぽど素敵で、強いです」

 きっとフラネスも必死で力を望むことが必要になる、何かの事情があったのだろう。しかしそれも私には及ばない、とアスカさんはばっさり切り捨てる。
 フラネスは冗談だろう、と言おうとするが、アスカさんの冷たい目に何も言えない。

 アスカさんはフラネスの服を掴んで、転移した―――。














「やっぱり強いんだねぇ……」

「フラネスに勝つとは、さすが魔王軍です。でもあれだけではまだ力の片割れ。もう少し成長させないと、戦った感覚もありませんね」

 エリスと永夜だ。
 永夜はフィリアと対を為す杖、黒金の杖を握っている。水晶の中ではフィリアとアスカとフラネスの戦う様が映し出されている。
 この空間は、真っ黒で、闇に包まれている。
 その闇の量は、一言で言うと常人が入った瞬間に死んでしまう量だ。

 そんなところで、エリスと永夜は平気そうに作戦を立てている。

「まあ、これくらいはないと最初から戦いにもならないでしょ」

「そうですね。―――そろそろ大きな行動を起こしますか」

「それはちょっと待って。僕の推測によると、もうちょっとしたら向こうが動く」

 永夜は黒金の杖の水晶に映し出されている映像を切った。金に彩られている椅子から立つと、その身長よりも大きなローブがカサリと揺れる。
 黒く憎しみを含んだ混沌の闇の瞳は、確実にフィリアをとらえている。

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