私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

七夕スペシャル『魔王軍のイベント』

 今日は、七夕の日だ。昔アスカさんが魔王軍にも伝えてくれたおかげで、魔王軍の中でも伝統の行事になっている。
 魔王様は短冊を前にペンを持って、何やら悩んでいる。

 私は目の前に置かれた六つの短冊を持って、すらすらと文字を書いていく。
 残り三枚となった所で、私も魔王様と同じように悩み始める。

『もっと魔王様と一緒に居られますように』

『魔王軍のみんながこれからも幸せでいられますように』

『人間達が魔王様のことを分かってくれますように』

 そこに置かれていた三枚の紙を見て、空白の三枚の紙を見る。願いたいことは、全部書いたのだ。これ以上望むことは無い―――。
 一方魔王様の方はすらすらとまたペンを走らせている。

 少しは自分のことも祈らなければ、と私は懸命に考え始める。

『アスカさんの重い感情が少しでも薄れますように』

『こんな残酷なことをやっている人が、駄目だとわかってくれますように』

『魔王様が好きな人の意味で好きだということを伝えられますように』

 しかし結局自分のことはあまり祈ることができなかった。私は自分が完全に心の清い者だとは思っていないし、どこかで黒い部分もあると思う。
 でも、それでも私はみんなの笑顔を見ているだけで、幸せになれる。

 それは絶対に変わらないし、それを変えられる者は絶対に居ない。魔王様でも帰ることはできない。
 だから、この力でみんなを幸せにする―――。

 この世界に来ての時間は数えきれないほどたった。アスカさんの寿命も日に日に縮まっていくのが見えるようだ。
 しかしアスカさんは微笑んでいる。
 その顔はいつか私が騎士になるのを心から期待している顔だ。

 考えていると、魔王様も書き終えたようだ。竹に短冊を六つ飾っていく。六つとも綺麗に私の隣に並んでいる。

「織姫様、彦星様。どうかはるか遠い天の川で、お二人さんが巡り合うことができますように―――」

 天を見上げて、私は祈った。
 可能ならば、一年に一回などという残酷なものは、失くして欲しい。織姫様も彦星様も、きっともう自覚してくれるはずなのに。
 神様の考えていることは、私には全く分からない。
 でも、私が魔王様と一年に一回しか会えなかったら、辛くて仕方がない。

「魔王様! 『私ね、つよくなりたい! 魔王様をまもりたい!』」

「フィリアっ……」

「私は強くなっていますか? 魔王様を守れていますか?」

―――私。
 外での一人称を『私』に変えたのはいつだっけ。いつまでも甘えてはいけない、変わらなくては。そう決心してから。
 強くなった私の心は、残酷な答えが返ってくる可能性を跳ね返して、魔王様に直行で聞くことをいとわない。
 魔王様は少し戸惑いながら、応える。

「フィリアは強い。でも、まだまだだ。まだ見えない何かに追いつけ。『それ』を確実に仕留めろ。それが出来たら、認めよう」

「ありがとう魔王様。やっぱり魔王様は私の大好きな魔王様だよ!」

 褒められて、魔王様は少し顔を赤らめて頬をかく。私は今日一番の笑顔で魔王様に答え、とてて……と走り去っていく。

 色々言葉を並べたりしないで、本気の言葉をそのままぶつけてくる。
 それで傷つくこともあったし、傷ついてしまった人もたくさん見てきた。

 直行の言葉は時に良い事にも悪い事にもなることを、私は知っている。でも、魔王様の純粋な心はやっぱり大好きだ。
 自分のしなければならないことが、よくわかるから。

「ミッションだね。クリア出来たら褒められるッ!」

 わくわくしながら、私は自室に帰る。
 扉を開けて、扉に寄りかかり、私は窓の外から見える星をまっすぐ見つめる。

「もうひとつお願い、いいかな。叶えてくれるのは、これひとつだけでいいの。『魔王様の作りたい世界が、作られますように』」

 『それ』に勝利することも、全てが幸せになることも、全てが込められた願い。扉の前で跪いて、拳にした手をそっと胸に当てた。
 目を閉じ、真剣に祈る。これが叶うなら、何を捨てたってかまわない。

―――『もっちろん! 恋する乙女は最強なんだからね!』

―――『応援しているぞ。誰も何も捨てずに幸せになる未来を、な……』

 頭に直接響いてくる声で、女性おりひめ男性ひこぼしは確かにそう言った。私は星を見上げて、微笑んだ。
 閉じた瞳から、涙が一筋、二筋と流れ落ちていく。

 今まで経験したことが多すぎた、これからどうなるかは全く分からない。
 地獄の底の世界になるかもしれないし、天国以上の世界になる可能性もある。

―――私は魔王様のことが好きです。だから、その分の祝福を―――

 必死の心の声は、天にこだました。

 はるか天の上では、純粋な少女を称える声が、いつまでも響いていた。

「ありがとう。ありがとう世界。ありがとう、魔王様と会わせてくれて」

 私の六つの短冊が置かれている場所に、微かに風が吹いた。

 七夕の夜は、もうすぐ明ける―――。

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