私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~
十四話『騎士様は格好いい!』
戦場に行けるようになった。
鬼族が攻めてくる理由が不可解だ。そして今魔王様が計画を立てている。
ひとつにまとめると、そんなことを言われた。軽いことを言っているわけではないのに、アスカさんの顔はとても涼しげだ。
「私じゃ貴方を守れないと思いますか?」
ふと唐突にアスカさんはそう言った。その表情はどこか悲しい。
「い、いえ、頼りになっていますよ」
「そうですか。……これは、魔王様が作り替えた『魔剣』エクスカリバーです。聖剣ではありませんよ。魔剣です」
「うえぇ!? きれい……!」
「魔王様の専属騎士に与えられる、特別な剣です。今は私の物です」
きらん、とアスカさんの目が光った。
専属騎士であることに誇りを感じ、しかし誰かに譲りたい感情が入り混じっている。
「私には、あと三年の寿命しかありません。それまでにフィリアさんを鍛えようと思います。貴方は受けますか?」
「うん! でも、三年しか寿命がないの?」
確かに、何年も此処に居れば寿命はその分削れるだろう。
しかし、人間が死ぬくらいの時間は此処に居ないはずだ。
それに、アスカさんの姿はこんなにも若いのに、どうして寿命があと三年しかないのだろうか。やはり私にはわからなかった。
きっと分かる資格すら、ないのだろう。
アスカさんはそっと魔剣エクスカリバーを抜いて私に向けた。その目は強く、まっすぐと瞳には私が映っている。
なのに、私はどうしてその瞳を受け入れられないのだろう。
「ええ。前の世界に居たときから、私は病弱でそこまで寿命はありませんでしたよ。それをライテリア様が延ばしてくださったのです」
「でも、アスカさん……心から楽しそうだって顔してないもん!」
「そうです。楽しくなんて全くありません。甘い、みんな甘いんです。異世界は厳しいはずなのに、どうしてみんなこんなに甘いのでしょう」
「平和を望んでいる、から?」
「いや違います。彼らは幻覚を、ありもしないものを再現しようとしているだけです。魔と聖の共存など、考えられません」
―――。
私は黙り込んだ。黙り込むしかなかった。27歳に此処に転移したアスカさんと、未だ年齢が一ケタの私では、話しようもない。
私なんかに、反論する余地なんてない。
私にまっすぐ瞳を向けてくるアスカさんは、少し格好良かった。
騎士様はかっこいい。
定義。
でも、アスカさんのカッコイイは、またちょっと違った風味があった。
「否定しようとは、思いません。幻想を、夢を持つことは素敵です。私は、それができなかった私は、彼らに嫉妬しているのでしょう」
「っ……」
「私が、こんな私がもうこの魔王城に居る資格は無いのですよ。時効なんです……ですからフィリアさん、私の後は君に託しました」
「あすか、さん……―――うん。託されました、先輩」
「ふふ、なんだかむずがゆいですね」
自分のしているこころと自分の感情を全て理解して、今すべきことが何か、それを貫き通せたアスカさんは光っていて。
―――笑っていないんじゃない。きっと、もう笑えないんだ。
時効が来た。そうなら、どんな楽しいことだって諦められる。
そんな強い精神を、アスカさんはきっと、持っているのだろう。だから、全ての、今の私が出せる感情を持って、先輩と呼んでみた。
そうすると、アスカさんは少し顔を赤らめて、小さく微笑んだ。
これは私が見た、最初で最後の―――アスカさんの笑顔、感情だった。
「……エクスカリバーは、私の物です。でも。あなたの物でもあります。《たくしましょう、送り届けましょう。貴方へ、精一杯の贈り物を。捧げましょう、唄いましょう。私にできることすべてを精一杯に―――》」
「ふえっ!?」
「《魔王専属騎士見習い・認定》―――」
私の手の中に、ライフルが握られていた。詠唱も、このライフルも、アスカさんがその手で作り上げたものだ。
いつか来る期待の専属騎士に、いつでも託せるように。
涙は知らず知らず流れていく、しかし流れてしまったものはもう取り戻せない。
「使いなさい、撃ち抜きなさい。貴方の守りたいものを、全て」
「はいっ!」
「この身朽ち果てるまで、戦争の間貴方様をお守りいたしましょう。アスカ・ニカイドウの名に懸けて―――」
二階堂明日香。
そうか。
どこかのニュースで見た、どこかの会社の社長の娘が死んだ、と。その名前を二階堂明日香と言っていたのを、覚えている。
それは、この人だったんだ。
立派な社長さんが、目が腫れるまで泣かせたのは、どんな人なんだろう。
思わなかったことは無い。でも、こんな人なら納得できる。
「この身朽ち果てるまで、アスカさんの思いを伝え続けます」
「この身朽ち果てるまで、フィリアさんを育てましょう……」
―――いつか、立派な騎士となるように。
いつか私が憧れた騎士様は、やっぱり想像通りとても格好良かった。
やっぱり間違ってはいない。
この世界も魔王様も間違ってはいない、間違っているものなんて何ひとつない。
不完全なんだ。ただそれだけ。
不完全な世界を、亀裂が走る地面を、精一杯塞ぐことしかできないことも。
終わりへと導かれる瞬間を、きっとただ見ることしかできないということも。
「―――知ってます! だから面白いんですよね? ね?」
「ええ、そうですね。では行きましょう―――フィリアさん」
アスカさんは、私の手を引いて部屋から出ていった。少女二人の純粋な笑い声が、世界に向けて響いていった―――。
「バカな、娘たち、なの」
ナタリーは、涙を、流し方を忘れた涙を、流していた。
「それぞれ、秘密が、ある、なの―――君らの、秘密が、平和を、取り戻せない、なの」
分かっている。
全てを生み出したのは、自分だ。
終わらない、世界の亀裂を。
塞がらない、世界の傷口を。
創り出して、上に塩を塗る。
残酷なことを、しないという方法は選べない―――。
「ついに、百週目、なの」
繰り返す世界を、淡々と見るしかないのだ。それがナタリーの宿命。
「早く終われ、なのっ―――」
ナタリーは崩れ落ちた。もうこれ以上何も見たくないのだ。
六兆年かけて育て上げた自分の強さを、フィリアに簡単に越されることは無い。
越されてはいけない。
自分より上はいてはいけない―――。
「そんなに終わりたいですか?」
「誰なの!?」
「では、エリスが終わらせてあげましょう」
ドリルと化した機械少女エリスの奇襲に、ナタリーは気づかず、腹をえぐられた。完全に生きられるような傷ではない。
「丁度よいので、宿命も全て消してしまいましょう」
「無理なの……それ、六兆年で―――消さない、なの、うっ」
「新たな主は貴様らではないのです、そんな軽く生きた六兆年でふざけたことを言わないでください。意味のある六兆年を生きてきましたか?」
「ワタシ、はっ」
「強さを備える人生など、見苦しい。死ね」
「がっ」
エリスは冷たい目でナタリーの手を踏んで、手を彼女の頭に向けた。
地上最強の少女を、虫けらでも見るかのように見下して、エリスはとどめを刺す。
正直エリスは自分で瞬殺出来るような相手を、舐めている。
舐めるしかないと思っている。
だからいくら奇襲でも、ナタリーを見下すことしかできなかった。
「この世界もカスだらけです。さて運命体さんは、どれだけ楽しませてくれるでしょうかねえ……運命体VS超越体……面白い響きです」
つい先ほど人を殺したことを何とも思わないように、何事もなかったかのように、エリスはメイド服を揺らしてこの場を去った。
残されたのは、無様に転がったナタリーの死体だ―――。
鬼族が攻めてくる理由が不可解だ。そして今魔王様が計画を立てている。
ひとつにまとめると、そんなことを言われた。軽いことを言っているわけではないのに、アスカさんの顔はとても涼しげだ。
「私じゃ貴方を守れないと思いますか?」
ふと唐突にアスカさんはそう言った。その表情はどこか悲しい。
「い、いえ、頼りになっていますよ」
「そうですか。……これは、魔王様が作り替えた『魔剣』エクスカリバーです。聖剣ではありませんよ。魔剣です」
「うえぇ!? きれい……!」
「魔王様の専属騎士に与えられる、特別な剣です。今は私の物です」
きらん、とアスカさんの目が光った。
専属騎士であることに誇りを感じ、しかし誰かに譲りたい感情が入り混じっている。
「私には、あと三年の寿命しかありません。それまでにフィリアさんを鍛えようと思います。貴方は受けますか?」
「うん! でも、三年しか寿命がないの?」
確かに、何年も此処に居れば寿命はその分削れるだろう。
しかし、人間が死ぬくらいの時間は此処に居ないはずだ。
それに、アスカさんの姿はこんなにも若いのに、どうして寿命があと三年しかないのだろうか。やはり私にはわからなかった。
きっと分かる資格すら、ないのだろう。
アスカさんはそっと魔剣エクスカリバーを抜いて私に向けた。その目は強く、まっすぐと瞳には私が映っている。
なのに、私はどうしてその瞳を受け入れられないのだろう。
「ええ。前の世界に居たときから、私は病弱でそこまで寿命はありませんでしたよ。それをライテリア様が延ばしてくださったのです」
「でも、アスカさん……心から楽しそうだって顔してないもん!」
「そうです。楽しくなんて全くありません。甘い、みんな甘いんです。異世界は厳しいはずなのに、どうしてみんなこんなに甘いのでしょう」
「平和を望んでいる、から?」
「いや違います。彼らは幻覚を、ありもしないものを再現しようとしているだけです。魔と聖の共存など、考えられません」
―――。
私は黙り込んだ。黙り込むしかなかった。27歳に此処に転移したアスカさんと、未だ年齢が一ケタの私では、話しようもない。
私なんかに、反論する余地なんてない。
私にまっすぐ瞳を向けてくるアスカさんは、少し格好良かった。
騎士様はかっこいい。
定義。
でも、アスカさんのカッコイイは、またちょっと違った風味があった。
「否定しようとは、思いません。幻想を、夢を持つことは素敵です。私は、それができなかった私は、彼らに嫉妬しているのでしょう」
「っ……」
「私が、こんな私がもうこの魔王城に居る資格は無いのですよ。時効なんです……ですからフィリアさん、私の後は君に託しました」
「あすか、さん……―――うん。託されました、先輩」
「ふふ、なんだかむずがゆいですね」
自分のしているこころと自分の感情を全て理解して、今すべきことが何か、それを貫き通せたアスカさんは光っていて。
―――笑っていないんじゃない。きっと、もう笑えないんだ。
時効が来た。そうなら、どんな楽しいことだって諦められる。
そんな強い精神を、アスカさんはきっと、持っているのだろう。だから、全ての、今の私が出せる感情を持って、先輩と呼んでみた。
そうすると、アスカさんは少し顔を赤らめて、小さく微笑んだ。
これは私が見た、最初で最後の―――アスカさんの笑顔、感情だった。
「……エクスカリバーは、私の物です。でも。あなたの物でもあります。《たくしましょう、送り届けましょう。貴方へ、精一杯の贈り物を。捧げましょう、唄いましょう。私にできることすべてを精一杯に―――》」
「ふえっ!?」
「《魔王専属騎士見習い・認定》―――」
私の手の中に、ライフルが握られていた。詠唱も、このライフルも、アスカさんがその手で作り上げたものだ。
いつか来る期待の専属騎士に、いつでも託せるように。
涙は知らず知らず流れていく、しかし流れてしまったものはもう取り戻せない。
「使いなさい、撃ち抜きなさい。貴方の守りたいものを、全て」
「はいっ!」
「この身朽ち果てるまで、戦争の間貴方様をお守りいたしましょう。アスカ・ニカイドウの名に懸けて―――」
二階堂明日香。
そうか。
どこかのニュースで見た、どこかの会社の社長の娘が死んだ、と。その名前を二階堂明日香と言っていたのを、覚えている。
それは、この人だったんだ。
立派な社長さんが、目が腫れるまで泣かせたのは、どんな人なんだろう。
思わなかったことは無い。でも、こんな人なら納得できる。
「この身朽ち果てるまで、アスカさんの思いを伝え続けます」
「この身朽ち果てるまで、フィリアさんを育てましょう……」
―――いつか、立派な騎士となるように。
いつか私が憧れた騎士様は、やっぱり想像通りとても格好良かった。
やっぱり間違ってはいない。
この世界も魔王様も間違ってはいない、間違っているものなんて何ひとつない。
不完全なんだ。ただそれだけ。
不完全な世界を、亀裂が走る地面を、精一杯塞ぐことしかできないことも。
終わりへと導かれる瞬間を、きっとただ見ることしかできないということも。
「―――知ってます! だから面白いんですよね? ね?」
「ええ、そうですね。では行きましょう―――フィリアさん」
アスカさんは、私の手を引いて部屋から出ていった。少女二人の純粋な笑い声が、世界に向けて響いていった―――。
「バカな、娘たち、なの」
ナタリーは、涙を、流し方を忘れた涙を、流していた。
「それぞれ、秘密が、ある、なの―――君らの、秘密が、平和を、取り戻せない、なの」
分かっている。
全てを生み出したのは、自分だ。
終わらない、世界の亀裂を。
塞がらない、世界の傷口を。
創り出して、上に塩を塗る。
残酷なことを、しないという方法は選べない―――。
「ついに、百週目、なの」
繰り返す世界を、淡々と見るしかないのだ。それがナタリーの宿命。
「早く終われ、なのっ―――」
ナタリーは崩れ落ちた。もうこれ以上何も見たくないのだ。
六兆年かけて育て上げた自分の強さを、フィリアに簡単に越されることは無い。
越されてはいけない。
自分より上はいてはいけない―――。
「そんなに終わりたいですか?」
「誰なの!?」
「では、エリスが終わらせてあげましょう」
ドリルと化した機械少女エリスの奇襲に、ナタリーは気づかず、腹をえぐられた。完全に生きられるような傷ではない。
「丁度よいので、宿命も全て消してしまいましょう」
「無理なの……それ、六兆年で―――消さない、なの、うっ」
「新たな主は貴様らではないのです、そんな軽く生きた六兆年でふざけたことを言わないでください。意味のある六兆年を生きてきましたか?」
「ワタシ、はっ」
「強さを備える人生など、見苦しい。死ね」
「がっ」
エリスは冷たい目でナタリーの手を踏んで、手を彼女の頭に向けた。
地上最強の少女を、虫けらでも見るかのように見下して、エリスはとどめを刺す。
正直エリスは自分で瞬殺出来るような相手を、舐めている。
舐めるしかないと思っている。
だからいくら奇襲でも、ナタリーを見下すことしかできなかった。
「この世界もカスだらけです。さて運命体さんは、どれだけ楽しませてくれるでしょうかねえ……運命体VS超越体……面白い響きです」
つい先ほど人を殺したことを何とも思わないように、何事もなかったかのように、エリスはメイド服を揺らしてこの場を去った。
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