私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

十二話『真紅の瞳と砕月の鎖』

 ザァ……。
 どこからともなく、ナタリーの壁になるように無数の人形たちが、ナタリーと私の真ん中に立ちはだかった。
 ナタリーは相変わらずぬいぐるみを抱いている。

「フィラ! ライフル生成」

「嘘。こんな時代にライフルなんて」

「知らない、ね、ワタシは、あっちの、世界に、行ったこと、ない、なの!!」

 ナタリーの抱いているぬいぐるみの口が、ぐわっと開き、そこからライフルの先が出てきた。本当にこれを知らないのか。
 私は思わず口を押えてしまった。
 しかしこれが、戦闘経験のほとんどない私の甘さだったのだろう。

「手慣れに、よそ見、するなよぉッ!」

「きゃっ」

 魔法陣が展開された。
 魔法陣が展開されるまで、一分はかかるはずだ。頭でイメージしたものを地面に移すほど、想像力があるのなら話は別だ。
 三十秒ほどだろうか。ナタリーに時間を与えてしまった。

 ナタリーは一人で鬼族を三人投げ飛ばした実力者だ。魔法陣にとらえられた私は迫ってくる実力者ナタリーをただ見つめるしか―――

「あ゛あ゛っ」

 それは、許されない。と、心の中で誰かが私に語り掛ける。
 瞳が、ゆっくりと黒に染まっていく―――

「《真紅の瞳》」

 魔法陣に組み込まれた魔術が発動した。体が引き裂かれるような感覚がするが、まるで人事のように痛みを感じない。
 にやぁ……。
 効かない、ということは、この上で自由に活動ができるということだ。
 私らしくない、真っ黒い念が私の心を支配する。
 でもどこからともなく暖かくて、それを私は拒絶できなかった。

「《砕月の鎖》」

 私が手を高く上げると共に魔法陣の下から上がってくる鎖が、いともたやすく魔法陣を破壊しナタリーに向かっていく。
 手加減は、ナシだ。
 ナタリーは怯える様子もなく、さらに詠唱を進めていく。

『真紅の瞳』

「っこの詠唱―――!」

 必死に雷をまとう黒い鎖を、真っ赤に輝く光線にぶつけ続ける。

―――ほう。ここまで能力が回復しているのか。
―――貴方、誰?
―――私は、君だ。大昔に君とは真反対な性格、存在として生まれた《災厄の魔女》だ。
―――悪をもたらすの?
―――そう、だったな。今フィリアがこの戦いに勝てる確率は5%だ。
―――そうなの!? ……ねえ、私。貴方って私と名前が一緒なの?
―――いや、違う。私の名はフラン。覚えておけ―――我が半身。

 ふと、自分に戻った。
 夢を見ているような感覚がするが、目の前には光線が響いている。

「……《全攻撃身体的影響無効》」

 最後に今残る魔力で抵抗して、私は光線に押し負けて倒れた。
 吹き飛ばされたが、体には傷ひとつついていない。

「ふん、まだまだ、なの」

「うん。まだまだ……まだまだふぃりあは成長するんだって」

「『だって』?」

「ねえナタリーさん……あの詠唱って―――」

「リステェイヤ語、なの。あれが、一番、最下級の、魔法。驚く、なの」

 最下級。
 災厄の魔女。
 リステェイヤ語―――。

 断片的に、記憶はある。
 私がリステェイヤ語の魔法、いいえ魔術を作り上げ、それを使った。
 たまたま実験台が此処だったのが、間違いだったのだろう。

(きっと意識を持つ『人』がいる場所で実験しちゃダメだったのかな)

 魔王様があんなに敵対されている。
 しかも、それは先祖様が原因。
 考えれば考えるほどわからない理不尽に、今は少し常識感を感じてしまった。

「ふぃりあの負け。でもまだ一週間ある!」

「―――ライテリアの、秘密、知りたい、なの?」

「? もちろん知りたい!」

「『―――解き放て、深き闇』」

 負けた励ましだ、と言ってナタリーは自分の心臓辺りに手を当てた。
 その後、ナタリーの瞳は白く、白紙のようになってしまった。私は何故かその瞳に、途轍もない恐怖を覚えた。

「ライテリアの父は、遥か昔に災厄の魔女と会った」

「災厄の、魔女―――?」

「災厄の魔女フランは、ライテリアの父を殺すことは無かった。代わりに、約束を取り付けた。『私はとんでもないことをやってしまった。でも始まった戦争は取り返しの仕様がない。だから私は悪役を演じた』約束の前に、フランはそう言った」

「悪役を、演じた」

「『だから、せめて貴様ら魔王一族が、全てをかけてでも世界を平和にしてほしい』と。ライテリアが150歳の時、災厄の魔女は消え去った。ちなみにライテリアは現在500歳だぞ。ライテリアは、フランに感情を抱いていたようだ―――」

「魔王様は―――」

 私ではなく、私の中に眠る私の相棒のことが好きなのか。
 何とも言えない感じだ。
 一番の親友に好きな人を取られる―――例えるならそんな感じだ。

 魔王様は一番大好きな、尊敬の意味を超えた好きな人で。
 でもフランさんは『私』を共有してくれる唯一の大親友で―――。

「そうなんだ。ありがとうナタリーさん! おかげで魔王様のことがもっと分かったよ。本当にありがとう」

「っ―――戻った―――。……そう、もっと、分かってあげると、いいなの。ライテリアには、分かってくれる、人が必要、なの」

 分かってくれる人が―――必要。

「それと、ライテリア、には、6年前から、異世界からここへ来た、専属騎士が、いる。ワタシよりも、遥かに強い。でも、寿命が、もうすぐ、来る」

「それまでに私が魔王様の専属騎士になるんだもん! ちぇ、先を越されてたなんて」

「ふふ。平和な、子……なの」



 この子なら何とかできるかもしれない――――――。
 ふと現れ出たそんな感情を、ナタリーは揉み消した。
 そんな感情を持ってはいけない。全ては自分がなしたこと。
 こんな、感情が白紙の少女に任せてはいけない。
 第一、ライテリアは少女をもとの世界に返そうとしているのだ。





 様々な感情が入り混じったナタリーの心を、瞬時に分かってあげられなかった私は、やっぱり甘かったのだろうか―――。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品