私は魔王様の騎士なのです~最強幼女が魔王様のために行く!~

なぁ~やん♡

十三話『魔王様たちのその頃』

 人差し指が何度も机に押し付けられてかんかんと音を立てる。いつもの魔王ライテリアとは思えないほど険しい表情だ。
 その周りにいる四天王や吸血鬼一族も同じ。
 皆同じことを考えている。

 後ろから現れたのはライテリアの専属騎士―――アスカだ。

「また、考えているのです?」

「ああ……何度考えても、あの鬼族が攻めてくるなんて考えられないんだ」

「恩を捨てるような種族ではないデスよ……」

「あんなの、分かりませんわ。でも、四天王第一幹部としての意見を言いますと、誰かに操られている可能性が高いですの」

 サテラが紫のくるっと可愛いくせっ毛を、人差し指にまきながら真剣な表情で語る。いくら魔王様命でも、四天王最強は時に最恐となる。
 今語られているのは、鬼族が攻めてくる原因だ。
 昔ライテリアは人間に追いつめられる鬼族を助けたことがある。その時に知ったのだが、鬼族は高貴な一族で、恩を仇で返すことはしてはならない掟があるのだ。

 それを破ってまで、魔王城に攻めてくる理由をライテリア達は考えられない。
 知らないうちに何かしてしまったのか?
 しかし、最近は鬼族については何もしていないし、彼らの隠れ家にも行っていない。

「さみしがり屋というわけでもないっスしね」

 冗談のように吐き出されたライトの一言に、アリアとリゼは苦笑いで応じた。
 しかし、さみしがり屋でないことから、話題にされていないから攻めてくるという可能性は消去される。

「やはりそうなりますと、サテラ先輩の言う通り、誰かに操られている可能性が高くなりますね」

「何かの力を組み込まれている可能性もあるんじゃないか……」

「戦力になる者は、出した方がいいと思いますよ」

 フィリアを出せ。
 アシュリアの夫フレイは遠回しにそう言っていたのが、ライテリアにもわかった。アスカは静かにライテリアの隣に座る。
 操られている可能性が高い、と繰り返していたアリアもフレイを驚きの目で見つめる。

「今現在、仕方がないと思います。私がフィリア様を守るとしたら、ライテリア様の守りがなくなりますし……」

「いいですわ。その間私達四天王が守らせていただきますの」

「だてじゃないッスよ? 四天王ってのは、二代目さんから生きて来た四人なんッスからね。四人合わせればアスカさんくらいにはなるッスよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「アスカが行くなら安心する……分かった、フィリアも出そう」

 不安そうなライテリアの表情だ。アスカはそれを見て不満そうな表情を浮かべる。

「いくら大切な人でも、死ぬこと生きることは拒むことができないのです。不満なら運命体にでも相談が必要だと思いますね」

「そんなの何処に居るかわかるわけがないじゃないか」

 テーラは、自分が運命体であることを誰にも教えていない。それはライテリアすら知らない秘密の箱である。
 アスカは長い間此処に居た。
 経験値的にも、頭も、ライテリアのふわふわした感情のストッパーになれる。

「私が言いたいのは、フィリアさんを諦めるようになる事態もあり得ることを、心に置いてほしい、ただそれだけです」

「っ―――フィリアを諦める、事態」

「ライテリア、貴方は甘いです。……では、フィリアさんの所へ行きます。私の『才能』によると、ナタリーさんとの戦いも終わったようですので」

 アスカは片手を上げた。

「鬼族のことについては、こちらでも計画を立てておきます」

 アスカの足元に魔法陣が広がり、全てが鎧で見えない足に凝縮された。アスカはくるっと背を向き、魔王城最上階から―――飛び降りた。

 部屋に残されたライテリアは、アスカが飛び降りたところをただ見つめる。
 無事着地しているだろうなぁ。
 そんな、この場らしくない思考を持ちながら、ぼんやりとただ見つめる。

―――『フィリアさんを諦めるようになる事態もあり得ることを、心に置いてほしい、ただそれだけです』

 心の中で響いて、離れない。
 世の中にはきっとこういうことも多々あるのだろう。

―――ああ、やっぱり魔王に向いていない。

 自嘲気味に魔王五代目―――ライテリアは笑った。















「フィリアさんですね?」

「ふえ!?」

 突然窓から降りてきたのは、茶色の髪をショートにした鎧を着た女騎士だった。窓からとはいっても、私には最上階からのように見えた。
 私は驚愕しているが、ナタリーは呆れた顔で女性を見ている。

「私はアスカ。魔王様専属騎士、アスカです。とりあえず中に入りましょう、言いたいことがたくさんあります」

「魔王様の、専属騎士……!!」

 とても綺麗な人。
 第一印象はそれだった。
 腰に剣がさしてあるのは見たが、見た目からはとてもナタリーより強いとは思えない。アスカさんは魔王様よりも上の実力があるらしい。
 なので、たまに魔王様に師匠と呼ばれてしまうこともあるそうだ。

「わかりました!」

「アスカ、窓から、降りるの、危ない、なの」

「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません。しかし、お二人を呼びとめるためにはこれが一番の手段だと思いまして」

 扉をくぐり、その後はナタリーもアスカさんも私も一言も交わさない。
 なんというか、アスカさんは無表情無感情な感じがした。

 何を言われても、真顔で演技しているように見える。言っていることは全て台本を読んでいるかのように棒読みだった。
 それでも時折見える笑顔は、何だか悲しそうだった。

―――ああ、やっぱり何も分からないよ。

 どれだけ小説を読んできたんだろう。なのに、読み取る事すらできないなんて。
 私は、少し自分が嫌いになった。
 思い通りに動いてくれない自分が、少し嫌いになった。

「お座りください」

「うん」

 中殿、つまり扉をくぐってリビングのように佇んでいる会議場。朝会や、重大な命令もここで一度通して行われる。
 五回くらい、私はこれを経験したことがある。

「まずは、貴方方が此処に居ることを説明しましょう」

 淡々と告げたアスカさんの顔は、やっぱり笑っていなかった―――。

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