ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

狂気と殺意の行方


 男は語る。

 生まれて8年。まだ8歳だ。
 自分に似ず嫁に似て愛くるしい顔立ち。
 朝、早く仕事に出かける時には「いってらっしゃい」と―———
 夜、遅く帰って来ても、「おかえりなさい」と―———
 目に入れても痛くない愛くるしい我が子。

 その娘を、どうやって虐殺したのかを、詳しく語る。

 「骨付きのチキンを食べるとき、食べづらく骨を捻じって折るだろ?それを自分の娘にもやってみたんだよ」

 まるで自慢するような口調だった。

 男は語る。

 彼女は幼馴染だった。彼女は子供の頃から頭が良かった。
 それで本格的に勉強するため、彼女は遠い親戚の家に預けられて学校に行く事になった。
 互いに12歳の頃だった。
 再開は5年後。家の稼業―———農業を嫌い、村を飛び出して町に向かった。
 そこで彼女と再会した。俺は彼女に二回目の恋をしたんだ。
 彼女は都会で洗練され、俺には不釣り合いだった。
 けど、俺は諦めなかった。 昼は靴磨きをしながら、夜は勉強のため書物を読み漁った。
 彼女の横に立っても恥ずかしくない男になるには10年の年月が必要だった。
 そんな彼女を―――妻を殺した。

 「娘を殺した俺に異常に怯えたんだ。だから許せないだろ? そんなの」

 そして————

 「そして、殺して回ったんだ。最初は近所から、遠くに住んでいる友人を殺すのに訪ねていくには骨がおれたけど……その代わり友人の骨を折って折って折って折って……殴って殴って殴って……砕いて砕いて砕いて……」

 嗚呼、俺は理解した。
 この男は怪物なのだ。オークに魂を定着される以前から……怪物に成っていたのだ。
 そうしてニンバリに力を与えられた。巨大オークの肉体を―――そして植物の再生能力を―———

 「それなのに、どうして向かい合っている?」

 男は俺に問うた。

 「俺たちは同じだ。仲間だ。いがみ合う必要なんてないじゃないか?」

 そして、こう付け加えた。

 「……同じ怪物じゃないか」と

 だから、俺は答える。

 「……お前は正しい」と

 「俺は怪物だった……いや、今でも怪物だろうよ。そうやって俺は生まれた。今が異常なのだ……けれども……」

 奴は俺の異変に気付いたのだろう。
 拳を構える。それと同時に肉体が一瞬で再生していく。
 一瞬で人の姿に戻り、そして、一瞬でオークの姿へ。

 「……けれども俺は『比類なき同族殺し』だ」

 俺はオークの一撃よりも速く、触手を振るった。
 全てが猛毒。全てが一撃必殺の触手が108本。
 まるで、吸い込まれていくようにオークの体に捻じりこまて行く。

 「だから、せめて————許されないのだから————

 同族を殺す道を模索して生きる……いや、死に場所を探すのさ」

 今度こそ、本当にオークだった男は消滅した。
 殺さなければいけない相手だった。
 だから、こそ俺は自分で殺したかった————いや、カスミに殺させたくなかったのかもしれない。
 俺が孕んでいる人殺しの業は、俺が死ぬまでついて回るだろう。
 どれだけの善行を積んでも、それは0になる事はない。許される事はないのだ。
 ならば、せめて、俺だけで良い。俺だけが人を殺せばいい。
 もしかしたら、パンタ師匠は、それを見越して―――
 汚れ役として聖騎士団に誘ったのかもしれない。
 そう思うと笑みが浮かんだ。
 鏡があれば酷く歪んだ笑みが見えただろう。
 そんな事を思いながら、俺は歩く。
 祭りのように騒ぎ、その中心で崇められているカスミのもとへ————


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