ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

閃光の決着

 
 投げたのは閃光弾。

 閃光弾ソレを投げると僕は身をひるがえした。
 そのまま地面を蹴る。背後から眩い光が追い越していく。
 僕は瞳を閉じて防ぐ。それでもなお、感じるほどの凄まじい光源。
 再び目を開くと、光は去り、漆黒と無音が無限の支配を開始していた。
 だが、出口は直線。視界が効かなくても十分に―———

 「逃がさんよ」

 背後から声がした。――――いや、声だけではない。

 「ごふっ!」

 その異音が自身の口から漏れ聞こえたとは信じられなかった。
 違和感はある。しかし、その正体はわからない。
 腹部が妙に熱い。視線を下に向けると、腕が生えていた。

 (……なるほど。どうりで動きが鈍いのかと……)

 振り返ると背中にはコウがいた。
 彼が背後から手刀によって、僕の腹部を貫いたのだ。

 「だから、逃がさんよ」

 コウは再び、僕に同じ言葉を繰り返す。

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 裂帛の気合。獣じみた咆哮を持って自身を奮い立たせる。
 僕は体を半回転する。

 ゴッキッ 

 奇妙な音が漆黒へ響いた。
 木の枝———ソレも巨大な枝———が叩き割られるような音だ。
 遅れて聞こえてくるのはコウの叫び声。
 僕は自身の体でコウの腕を固定化。そして半回転する事で、その腕を折ってみせたのだ。

 更に————

 僕は背後にいるコウに向けて、振り返りながら肘を側頭部へ叩き込んだ。
 コウが離れる。彼の腕も僕の腹部から抜け落ちていく感覚がした。

 (いや、抜け落ちたのは、もっと致命的な何か……)

 苦笑した。こんな所で落命か?
 ————冗談ではない!
 気がつけば駆け出していた。向かった方向は出口ではない。
 逃げるため、体がコウへ向かっていた。
 そして、その成果は?

 一太刀

 振りあげた剣はそのまま吸い込まれるようにコウの肩口へ当り―――

 袈裟切り

 まごうことなき致命傷。ただし、相手が人間ならば……だ。 
 そして、やはり――――僕は見た。
 ジュルジュルと不気味な泡を出して、回復していくコウの姿。
 そして、やはり――――彼は笑っていた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 気がつけば、僕は屋敷の外に立っていた。
 薄れていく意識を強引に覚醒させ、愛馬を呼び寄せた。 
 馬の背に登ると、そこでようやく僕は意識の手綱を手放した。

 しかし、話はここでは終わらなかった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 次に気がついた時にはベッドの上。 白一色の室内に、ここが病室だと判断する。
 腹部には純白の包帯が巻かれている。
 体を起こすと激痛が走る。 思わぬ痛みに思わず動きを止めた。
 ダメージを受けた患部を観察する。 

 (止血は済み。縫合は見事ですね。内部に魔力の残滓がある。回復魔法。その種類は……上々と言ったところ)

 「よって、問題なし」

 僕はベッドから飛び降りた。
 それを見ていたらしい看護師らしき夫人が叫び声をあげた。
 そのまま、問答無用でベッドへ押し戻された。 

 (むっ……やっぱり、病院は苦手です。大げさ過ぎです)

 しかし、ここで入院しているわけにはいかない。
 俺は看護師を呼ぶ。そして―———

 「もう、勝手に動いたり、出て行ったりしたらダメですよ」

 怒られた。
 それはしかたがない。反省。
 一通りの説教を真摯に受け止めた後、僕は電報を頼んだ。
 ギルドへの電報だ。
 紙に書いた文字を2種類の呪文に変換させる。
 それを病院の魔法室で雷系魔法へ、さらに変換させる。
 そして、受け取り人が有する札(魔法陣が描かれている特別性だ)に詳細が瞬時に反映される。
 これが電報の仕組みだ。
 頼まれた看護師は、内容を確認するとギョッとした顔芸を見せて駆け出していった。
 僕は一応、声はかけておいた。 

 「病院では走らない様に」

 どうも、彼女には聞こえなかったようだ。


 

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