ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

続戦の予感

 「組手?俺とパンタ師匠が?」
 「そうじゃ。嫌か」
 「嫌というよりも俺はカスミに負けたばかりです。あの子は聖騎士団の中で一番弱いのでしょ?」

 俺とカスミが戦ったのは、俺の実力を確かめる理由だった。
 そのため、聖騎士団の中で実力が下位の者から組手を行い、俺は最初の1人目であるカスミに負けたのだった。しかし、パンタ師匠は―――

 「あぁ、その事か。それは嘘じゃ」
 「……嘘?」
 「これは異世界から伝わった仕来しきたりだから、当然ながら『転生者』のお主は知っていたと思っていたのじゃがなぁ」

 そうパンタ師匠は言いながら首を「やれやれ」と振った。

 「お主らの世界では、常に最強の男が弱者の振りをする仕来りがあると聞いて、それを取り入れたじゃが、本当に知らぬのか?」
 「そもそも、俺は転生前の記憶を失っているのですが……」
 「そう言えば、そんなことも言っていたな。これは失念しておったカッカッカ……」

 パンタ師匠は笑って誤魔化した。

 「なんでも、向こう側の武の世界では、新入りや道場破りには最強の男を相手にあてがうらしい」

 俺は「うむ」と頷く。
 確かに武の世界は強者になるための技術を売る商売だ。
 強いことを商売にしておいて万が一にも負けたら商売にならないからだろう。

 「しかし、それでは負けた相手が『一番強い男と戦ってみたが、なぁに大した事はなかったよ』と誇張してまわる事があったそうじゃ」
 「それは、卑怯というか見苦しいな」
 「そう、見苦しい。じゃが、一度悪評が広がれば、払拭するのも時間と労力が必要となる。それを防ぐために最強の男は公式の試合ではわざと負けて弱いふりをする」
 「わざと?最強の男なのに?」
 「左様じゃ。そうすると、一番弱い相手に負けたと新入りや道場破りは大きな事は言えなくなるという仕組みなそうじゃ。たしか……その最強の男を『前座の鬼』と呼ぶらしいのう」
 「なるほど、それは面白い話ですが……」

 あれ?その話は参考にしているということは?

 「察しの通り、カスミは『クノイチ』というレア職業を持っている。特殊職業エクストラジョブよりは総合的に劣っているとは言え、特定の条件下なら―――例えば森など障害の多い場所では聖騎士団最強に近い力量を有することができるようになるのじゃ!」
 「最強?あの子が?」
 「いや、最強に近い力量って意味で、無論聖騎士団最強はワシじゃよ?ワシじゃ。最も癖の強いメンバー揃いじゃから単純な強さ序列は付け難いがな」

 「そもそも」とパンタ師匠はこう付けくわえた。

 「天賦の才を持つマリアが13歳で聖騎士団入りを果たして『すごい!』『天才!』って言われているのに、それよりも幼いカスミが聖騎士団入りしている時点で、あの子は規格外の子供とわかりそうなものじゃがなぁ……」

 「はぁ」とため息をつかれた。悪かったな。察しが悪くて。

 「兎にも角にも、森という場所でカスミから長時間、逃げ続けた事実は評価の対象させてもらう」
 「だから、聖騎士団団長兼武芸師範のアンタと戦えって事か」
 「カッカッカッ……察しが悪いと思えば、意外と切れる。お主はやはり面白い。マリアのお気に入りなのも頷けれるわな」

 そういうとパンタ師匠は杖を地面に置いた。
 一体、なぜ?
 パンタ師匠は俺の疑問に気付いたらしい。

 「気にするな。ただのハンディじゃよ。お主との闘い、ワシは魔法とスキルの両方を封じて体術のみで相手をしよう」

 「それは、ありがたいな」と挑発目的に俺は可能な限り太々しい口調と表情を変えた。
 そんな俺に対してパンタ師匠は―――

 「そのかわりに、ワシは―――いや、僕は本気を出させてもらうよ」

 え?
 俺は目を疑った。
 さっきまで、そこにいたはずのはパンタ師匠は―――
 若者になっていたからだ。

 「どうして驚く?変身できるのは君だけと教えたつもりはないけどね」
 「アンタ、本当にパンタ師匠なのか?」
 「そうだ。もっとも若返ったわけじゃなく、こっちの方が本来の姿なんだけどなぁ」

 カッカッカッ……と若返ってもパンタ師匠の笑い声だけは変わっていなかった。

 
 

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