ミミック転生 ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~
技能講習(スキルアップ)
―――ギルド2階―――
広い空間に机と椅子が敷き詰められている。
ここは教室だ。この教室で技能講習を受ける。
ガラっ扉が開かれて入ってきたのはエルフだ。
1階で受付をしていた厳格そうな老エルフだった。
ジロリと俺とマリアに視線を向ける。
教室内には俺をマリアしかいないからだろうか?
「君の担当職員はルナティックだったな。彼女から許可は受けたのか?」
老エルフは呟くような声で喋った。
やはり、特殊職業持ちのマリアが他の職業を会得するのを良く思っていないのだろう。
「はい、ルナティックさんからの許可は受けています」とマリアの返事。
老エルフは「うむ」とだけ返すと、急に興味を失ったかのように、教室の前方に配置されている教壇に立った。 もしかして、意外とルナティックさんは信用されているのか?
「今日は、猛獣使いについて厳守すべき基本規則を教えるのだが、その前に……」
老エルフは1枚の紙を取り出した。
紙には文字らしきものが書かれている。
俺のスキル 『異世界の知識』 『意志疎通(人型)』の2つが反応を示さない。
少なくとも、この世界で一般的な文字ではない。 ……古代文字や神読文字というやつだろうか?
その下には小さな魔法陣が書かれている。
「これに触れなさい」
老エルフは紙をマリアに差し出した。
マリアは恐ろ恐ろと紙に触れる。すると―――
紙が光る。まばゆい光だ。
やがて、その光はマリアに移っていき、マリアの体全体が光に包まれた。
その様子を見た俺は軽い混乱に襲われた。
(魔法陣を媒体に魔力がマリアに入り込んでいる。どういう理屈だ?紙で書かれた文字で……どこからエネルギーを取り入れている?文字だけで魔力を保存する方法があるのか?)
儀式的な魔力の謎。
初見ということもあって分析が進まない内に、それは終わった。
「これで、『猛獣使い』の職業認定が終了。基本魔法は使用可能になりました」
俺は「なっ……!?」と擬態を忘れて驚きの声を上げた。
「……今、どこからか声がしませんですか?」と訝しげな老エルフをマリアは「い、いえ、私には何も聞こえてませんでした」と必至に誤魔化してくれる。
「 ? そうですか?」
老エルフの技能講習は続いた。
もう猛獣使いの職業登録は終えているので、正体を現しても問題はないといえば問題はない……
いや、そんなことよりも……俺は動揺を隠せなくなっていた。
もう、老エルフの技能講習の内容は耳に入ってこない。
確かに……マリアの事前説明では、猛獣使いの技能講習はマニュアル化されているとは言っていたが……
1時間どころか、実質的に一瞬でスキル獲得と初期魔法獲得が終わっているじゃないか!
(紙に手を触れるだけで魔法とスキルの獲得だと?それが当たり前になって、どんなに恐ろしい事なのか実感が乏しくなっているのか?)
もしも、もしもの話だ。
複数の職業をマニュアル化した魔法陣の紙を複数持ち歩いている人間がいるとすれば……
理論的に初期魔法、初期スキルではなく、熟練した魔法とスキルのマニュアル化して紙に封じることも可能なはずだ。
戦闘中に――― 戦いながら、転職を繰り替えしてくる人間にどう戦えばいいのだろうか?
特殊職業だってマニュアル化されていないのは、特殊職業に就いている人間がギルド配下の冒険者には少ないからだ。
戦況に応じて、特殊職業を使い分ける冒険者は間違いなく存在している。
難しい事は何もない。ただ、特殊職業が希少だからいないだけだ。
俺は、薄ら寒いモノを想像していた。
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