ミミック転生 ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~
毒触手流拳法 征震暗貞の拳
――ギルト3階 職業認定所―――
その内部は予想より狭い。
担当職員も1人だけ。その1人も大量の資料に埋もれている。
その様子にマリアも「あの……」と躊躇していたが、意を決したのか「こんにちわ!」と元気な返事を見せた。
「ん?あぁ、君か」
職員はダルそうな返事を返した。
獣人……ネコ種か。
特徴的な猫目。 ボサボサの髪の上に小さなネコみみが隠れている。
「また、何か職業に変化が起きたのかい?やれやれ、前例がない職業なのだから、君専用の担当者を増やしても良いと思うのだけどな」
職員はため息をついた。
「いえ……ルナティックさん……」
たぶん、ルナティックが彼女……職業認定所職員の名前なのだろう。
マリアが猛獣使いの職業認定の話をした。
「はぁ!また職業を追加したい? それも猛獣使い!!」
あんなにも気怠そうだったルナティックさんは、勢いよく立ち上がったかと思うと、そのままマリアに向かって身を乗り出した。
流石、猫科の獣人。 瞬発力が尋常ではない。
「いやいや、ダメだよ。猛獣使いも珍しい職業だけど、聖騎士と巫女と比べたら……それに普通の職業を1つ極めるのに何十年も必要って説明したじゃないか!」
興奮状態で一気に捲し立てる。
確かにルナティックさんの言葉は正しい。けど……
「いえ、別に猛獣使いは極めるつもりじゃなくて、魔物を一緒に生活する許可がほしくて……」
「なぬ?それって、どういう事だい?」
「実は……もうテイミングしちゃったんです」
マリアは背負っていた俺をルナティックさんに見せる。
しかし、見せられたルナティックさんは困惑気味だ。
「そりゃ、宝箱を見せられても、困惑するだけだよなぁ」
俺は擬態を解く。
「え?あっ……魔物? 魔物ああぁぁぁ!」
ルナティックさんが、驚きの声を上げた。
そして、体を仰け反り、後ろへ転んだ。
俺の擬態は、ただの擬態ではない。
『擬態』と『気配遮断』の2つのスキルが重複されている。
ダンジョンの下層で一流の冒険者と命のやり取りをして磨き上げたスキルだ。
ミミックという種類の魔物を知っている者でも、宝箱=ミミックと言う認識を心理的に阻害する効果もある。
ただの職員であるルナティックさんには、想像すらしていない場所から、突然、魔物が出現したようなもの。
「安心しろ、俺は無害だ」
しかし、俺の自己申告は動揺しているルナティックさんには通じてない様子。
「あわあわ」と後ろへ後退を始めている。
「これじゃ、会話にならないなぁ」
「どうしようか?ミッくん」
マリアが不安げな表情を見せる。
マリアも冒険者だ。
冒険者以外の者が魔物と対峙した時の恐慌状態は知っていたのだろうが、まさか、ここまで酷いとは予想していなかったのだろう。
「……仕方ないか」
俺は怯えるルナティックさんに向かって、一本の触手を伸ばした。
「ひいぃぃぃ!何をするつもりなの!その触手で私の体にいぃぃぃぃ!」
俺の触手は、毒が含まれている。
長い年月をかけ、毒を有する植物や虫、さらには魔物まで、捕食した結果、後天的に身につけた毒だ。
俺の体そのものが『蠱毒の壺』である。
その中から特殊な毒を使う。
打ち込んだ相手の精神を安定させ、強制的にリラックス効果を追いやる毒だ。
この毒を有していた魔物は、狙った獲物の逃走を阻むために使用する厄介なヤツだった。
「やめ……やめて、そんな汚らしい物を顔に近づけないで!」
ルナテックさんは、なぜか期待を秘めた視線で俺の触手を見ている。
どうして、頬まで赤く染まっているんだろ?
そんな彼女にマリアは落ち着かせるように優しい声をかけた。
「大丈夫だよ。怖いのは最初だけで……その…ミッくんの触手は、凄く優しいから……」
……なんだろう?
この世界では、触手に奇妙なイメージが付加されているのではないだろうか?
俺は、湧き上がってきた妙な考えを振り払い、ルナテックさんに触手で触れた。
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