ミミック転生 ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~
彼女の名前はマリア・クルス
「嘘!?俺のスキルって……別にチート性能じゃない!?」
正直、俺は自分の事を自分で強いと思っていた。
その根幹から崩れていく感覚。
「ん?どうしたの?」
赤髪の少女がのぞき込んできた。
「い、いや、なんでもない。なんでもない。俺は何者でもなかった……」
「……?哲学中かな?」
俺は依然として少女に運ばれている最中だ。
ダンジョンの中はいいとしても、ここはダンジョンの外。
町中で魔物を運ぶ少女。町人はジロジロと俺と彼女を見ている。
「これは少し、注目を浴び過ぎてないか?」
「魔物使いは珍しい職業だからね。町中で魔物を連れて歩くだけの商売もあるくらいだよ」
「そうなのか。それじゃ、暫くは金に困りそうにないな」
「貴方は、自分が見世物として扱われるの嫌じゃない?」
「むっ……それは確かに。考えてもみなかったなぁ」
しかし、見世物になる代わりに対価を得られると考えれば、嫌と断じるのも違う気もする。
「ところで……」と彼女は足を止めた。
「互いに自己紹介がまだなんだけど?」
「自己紹介?」
「うん、私の名前はマリア。マリア・クルスだよ」
「俺は……ミミックだ」
「ん?それは種族の名前じゃないの?」
「俺に固有の名前はない。名前を付けてくれる者もいなかった」
「それじゃ、前世の名前は?人間だった頃の名前はあるんでしょ?」
「いや、覚えていない」
「え?」
『転生者』としての記憶。俺の場合は死の直前しか覚えていない。
「一過性の症状で時間と共に過去の記憶を会得するかもしれないし、このまま記憶が戻らない可能性もある。俺はそれでも構わない。なんせ、数時間前まで前世の記憶なんて皆無の魔物だったわけだからな」
少し哲学的だ。
俺は多少なりに前世の記憶を取り戻しているから、自分の事を魔物と別物だと認識していた。
ならば、人間と魔物の差は記憶の有無でしかないのか?
さらに発展させれば―――
転生した人間は、転生前と転生後で本当に同じ人物なのだろうか?
体が違うという事は、当然ながら脳は別人という事になる。
しかし、転生した人間は、前世の記憶が持ちこされてる。
このため、多くの人間が錯覚しているのではないだろうか?
つまり転生というシステムの正体は―――
『他者への記憶の継続』
俺は、そう睨んでいる。
「……って、なんで泣いてるんだ? マリア・クルス」
彼女の瞳から流れおちる大粒の涙に驚かされた。
人間、こんなにも大量の涙が出るものなのか!
「本当にわからないの?泣いているのは悲しいからだよ」
「な、なに?」
動揺する俺に彼女は―――マリア・クルスは真っ直ぐに視線を向ける。
「貴方は、あまりにも自分の魂や心を蔑ろにしている……」
「―――ッッッ!?俺が……自分を蔑ろに?」
「……だからね」と彼女は笑った。
「私が貴方の名前を付けてあげる!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「う~ん 名前……名前なんだよね…」
ここは宿屋。
マリア・クルスは、ここで宿を取り、ダンジョン探索の拠点にしているらしい。
そこに着くなり、彼女は俺をベットに放り投げた。
「ちょ…おま……!ぶはぁ!」と顔から落とされた。なんとか触手を使い体を起こす。
マリア・クルスを見れば、彼女は「ブツ…ブツ…」と呟きながら狭い室内を歩き回っている。
本気だ。俺の名前をつけるのに本気を出している。この子は!
(せめて、背中の大剣くらいは外せばいいのに……)
聞き耳を立て見ると―――
「ブツブツ……宝箱だからタカラBOX☆が現状で一番良いか……」
「ヤバい。俺の一生の名前がヤバい事に成りかけている(ガクブル)」
何がヤバいって☆と書いてスターと読ませようとしているくらいのセンスだ。
俺が当面の目標とすべき事は彼女が名前をつけるのを阻止するか、あるいは、ギリギリ妥協ラインに誘導することになりそうだ。
「……ところでマリア・クルス」
「ん~ フルネームって言い難いでしょ?マリアか、クルスって呼んでいいよ。」
「そうか、じゃマリアよ。このままでいいのか?」
「へっ?このままって何の事?」
「俺をテイミングした事にするにしても魔物をダンジョン外に無許可で連れ出すのはペナルティを受ける可能性があるのでは?たしか、ギルドなり登録する必要がある。それに、魔物を育てるにも許可や資格が必要なはずでは?」
「え?そうなの?でも、今からギルドに行くのは……」
「?」
ギルドというのは冒険者の支援団体だ。
新人冒険者の育成。ダンジョンの情報共有。ダンジョン関係の依頼斡旋。
役割を大きく分けると、この3つになる。
基本24時間運営なので、今から行って追い返されるという事はない。
という事は、マリアが躊躇する理由は他にあるのだろうが……
「それにしても詳しいね!ミッくん」
「み、ミッくん……だと?」
「そうだよ。ミミックだからミッくん。私が考えた貴方の新しい名前だよ」
すでに手遅れだったか。
しかし、笑みで俺の名前を連呼する少女に何が言えるだろうか?
ミッくん……考えようによっては悪くない名前だ。
恋人から名前の一文字をとって呼ばれる仇名みたいな感じだ!
「ウフフフ・・・アハハハ……」
「ミッくん、そんなに笑って。私の名前がそんなに気に入ったんだね!」
「ん?あぁ、そうだな。気に入ったよ。ありがとう」
「そうそう、気になっていたけど、ミッくんはダンジョンで暮らしていたはずなのにギルドの仕組みとか私より詳しくない?」
「あぁ、それか。それは俺の『ユニークスキル 異世界の知識』の効果だよ」
俺はユニークスキルについて、簡単に説明した。
「自動で知りたい時に必要な知識を教えてくれるスキル……それ、反則じゃない?しかも、完全使用の効果じゃなくて副産物的な効果なのでしょ?」
「むっ、確かにそう言われると、凄いスキルな気もしてきた」
つい、数時間前まで、自分はチートスキルを持っていないと思っていたのがバカみたいだ。
「それじゃ、ミッくん……」
「なんだい?」
「見せっこしようか?お互いに……」
「なっ、なんですとぉぉぉぉぉぉ!?」
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