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ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

ミミックの一目惚れ

 獲物の姿が見えてくる。
 奴は、ルンルンと鼻歌交じりでステップを踏んでいる。

 (バカか!コイツは!)

 どうぞ、襲ってくださいと言っているようなものだ。
 俺は、苛立つ感情を抑えながら、観察を続ける。

 赤髪の女。 
 体のラインが出るインナー。
 その上に身につけている鎧は曲線美が強調されている。
 彼女の肉体にピッタリとフィットしている所を見ると大量生産の粗悪品ではなく、彼女の体に合わせて作られた仕立て品オートクチュール
 背中には大剣。細身の彼女には似つかわしくない大業物のように見える。

 初心者にしては装備が良い。……いや、良すぎる。
 それに、この階層は深層とまでいかなくても、それなりの難易度だ。
 ダンジョン初心者が1人で潜り込む難易度ではない。
 あの振る舞いは、油断や慢心ではなく強者ゆえの余裕か? 

 ピリッと空気が強張る。
 緊張感。相手の力量レベルが読めない。
 しかし―――

 (……チッ)

 俺は舌打ちをした。
 所詮、ダンジョンは弱肉強食。
 ここで俺が敗れるなら、それも自然の摂理にすぎない。
 俺は、覚悟を決める。
 先ほど手に入れたゴールドを口内から外に飛ばす。
 ダンジョンに金属音が残響した。

 「むむむ!誰かいるの!」

 赤髪の女は叫んだ。
 その声には動揺の色が浮かんでいる。
 奇妙だ。この階層をピクニック気分で歩いておきながら、金の音で動揺するのか。

 (なんだか、うまく説明できないが……こう……バランスが悪い?)

 ダンジョン初心者でありながら、強者。
 しかし、ない話ではない。

 『ユニークスキル』や『特殊魔法』……
 『特殊職業』に『チート武器』……

 冒険者の中には、極稀に特殊な存在が生まれる事がある。
 そして、それらの取得者は、ほぼ全員が常軌を逸脱した強者である。
 おそらく、あの女もその部類か?
 いや、だからどうした?覚悟を決めたはずだろ?
 俺は自分に言い聞かせる。

 (大物食いジャイアントキリングこそが魔物モンスターの花道だ!)

 女は、俺に気づくとそのまま駆け寄ってくる。 
 警戒心が欠如しているのか?無防備のままだ。
 そして、そのまま俺の口を開いた。

 (このタイミングこそ必勝!もらった!)

 女と目が合う。彼女は笑みを浮かべていた。
 その瞬間―――

 (かっ……可愛い!)

 一瞬、思考が停止する。
 イレギュラーな感情が湧き出てきた。
 しかし、頭とは別に体は動く。反射的に毒手を無防備な彼女に発射。
 彼女の無防備な肉体を俺の触手が絡めとる。
 そして、そのまま体内へ捕食する。

 「うっ…なに?これ……かっ、体がヌメヌメして、ち、力で抜ける」

 口元を押せえきれなかったのか、彼女の吐息交じりの声が漏れる。

 「んっ…体が動かない。変な感じ……らめ…そ、そこは!わらし、ろうしちゃったの?」

 体内に麻痺毒が周ったのか彼女の呂律が怪しくなっていく。
 それに合わせて、俺の思考もぐちゃぐっちゃになっている。

 (馬鹿な!バカな!バカなバカなバカなバカな……この俺が人間の女に発情しているだと!?)

 あり得ない。俺は存在しない首を何度も振るい邪心を払おうとする。 
 しかし、亀裂が入ったダムのように一度放出した水の流れは時間と共に巨大になっていく。
 そして、強烈なイメージが脳に叩き込まれた。

 「キィ―――イ キキキキキィィ――」

 これは俺の前世? 人だった頃の俺?ここは……日本だ。
 そうだ、俺は人間だった。 ごく平凡で取り立てて紹介するほどの個性を持たない男だ。
 俺を表現するなら3文字だ。3文字で足りる。
 没個性。
 それが俺を表現するのにふさわしい言葉だった。
 そして――― 
 異音が俺に向かって襲い掛かってくる。

 (あぁ知っている。これはブレーキ音。そして、あの物体はトラックだ)

 そして衝撃音。交通事故だ。
 暴走したトラックにはねられ……俺は死んだのだ。
 そう認識した。すると―――

 「あなたの死亡が確認されました」

 奇妙な声が聞こえた。その声はこう続けた。

 『ユニークスキル 転生者を獲得しました』
 『ユニークスキル 意志疎通(人型)を獲得しました』
 『ユニークスキル 意思疎通(魔物)を獲得しました』 
 『ユニークスキル 異世界の知識を獲得しました』

 奇妙な声が脳内を反復する。

 「転生を実行しますか? YES/NO」

 これは―――
 前世の記憶。人間だった頃の俺の記憶。

 (そうか……俺は人間だったのか)

 いろいろ、腑に落ちた。
 魔物モンスターでありながら冒険者の生態を知り、意志の疎通ができたのは、『ユニークスキル』とやらを手にしていたからか……

 そう理解した瞬間。
 俺の中で何かが爆ぜた。
 気が狂いそうになる記憶の逆流。

 倫理と道徳とモラル

 俺は……人を食い殺していた?

 『獲得スキル 捕食者』が進化します。
 『ユニークスキル 比類なき同族殺し』を獲得しました。

 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 人殺しと人食。
 前世の記憶が俺を発狂へといざなう。
 いや、もう……既に俺は狂っているのかもしれない。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・


 呆然自失する俺……
 人間の3大禁忌タブー
 その内、意図せず2つを破っていた。
 そもそも、俺はもう人間ではない……そんな言い訳も刹那で思考の波にかき消された。
 俺はどうしたらいい?俺は、俺は、俺は、オレは、オレは、オレは、オレオレオレオレ……
 そんな俺を正気に戻す声がした。

 「……も、もう、らめえぇ!頭がフット…しちゃうぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 あまりもの衝撃に体内に閉じ込めていた女の子を失念していた。
 慌てて、体内の外へ吐き出すと同時に毒を無効化する液を彼女の体に吹き付けた。 

 「ん~ん……何でも、何でもするから……もう、許し……あれ?私?」

 バネ仕掛けの玩具のように、彼女は勢いよく体を起こしたかと思うとキョロキョロと周囲を見渡した。
 そして、俺に気づく。
 毒の影響がまだ残っているのだろう。虚ろな眼差しでジ~と俺を見ている。

 俺は魔物で彼女は冒険者。 彼女が誰か知らない。 
 しかし、俺は彼女に恋をした。一目惚れ……たぶん。
 だから、どうせ許されない罪を背負ったのならば、彼女の手によって殺されたい。
 そんな我儘が俺に残っていたのだろう。
 しかし―――

 彼女の言葉は予想外だった。
 

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