-フォックス×フレンド-

ノベルバユーザー189431

「慣れる狐」後篇

なんとか生きながらえた俺は、HRホームルーム開始ギリギリに教室に滑り込んだ。指導にかからないように、早歩きで。
タッタッタッ、ガラッ…………キーンコーン(略)
「せ、セーフ」
 「………おかえり」
 「おう、ただいま」
 席に着くと、隣席の狐音が出迎えてくれた。
 「………さっきはどうしたの」
 「ん、ちょっと死にかけた」
 「そう………大丈夫だった?」
 「なんとか生きながらえた」
と、事情の知らない人が聞いたら訳のわからない会話をしていたら、担任が教室に入ってきた。
ちなみに担任(女)の素性を明かすと、犬居美江子いぬいみえこ43歳、男勝りな元気女、バツ2、独身。顔はそれなりに美人なのだが、何故か人気がない現在不景気な女性なのである。
 「はーい、HR始めるぞー………って、あれ?男子少なくないか?」
 「………………さあ」
あえて理由は言わない俺である。惚けるのが妥当かと。
 「まあいいか、出席とるぞー」
 次の瞬間、扉が勢いよく開き、
 「セーフッ!」
 「「「アウトだよ」」」
 遅刻してきた男子生徒に、この場にいる全員が右手を挙げてアウトコール。

 HRも終わり、一校時の準備時間のとき、狐音が声をかけてきた。
 「………燕」
 「ん、どうした?」
すると彼女は一拍おいて、
 「休み時間、校舎を案内してほしい」
 「………別に構わないけど」
 「………うん、よろしく」
そんな約束を交わした直後、教室の扉がスッと静かに開き、
 『………………………』
 熱血指導部で熱くなってたであろうクラスの男子たちが、生気を絞り尽くされたような足取りで入ってきた。
 「………俺、絶対指導受けないようにするわ」
 「………………」コクコク
 そう決意した俺たちであった。

 次の時間は自習だった。
なんでも担当の教師が急な外国出張で「一週間くらいグアムに行ってくる☆」とかほざいて今朝出ていったらしい。
しかし、今の俺にとっては都合が良い。
 「なあ狐音。この自習時間使って学校を案内するよ」
 「………自習時間なら、自習をしないと」
なんて生真面目なんだ。
 「大丈夫。課題も出されてないし、みんな勉強していない」
 「………?」
 周りを見渡すとスマホをさわっている人、何人か集まって談笑している人などがいて、勉強している雰囲気が見えない。
 「なっ?」
 「………じゃ、お願いする」
こうして俺たち二人は教室を出た。男子は追ってこなかった。

 「………ここが職員室。大体の先生たちはここにいるけど、教科担当によって別の部屋がある。で、次に進路室。三年生がよく使うな。その隣が放送室。月に一回の頻度でイタズラ放送が流れたりする。………その上は図書室。ここの学校のは案外広いから俺も結構通ったりするな。その通路を真っ直ぐ行くと視聴覚室がある。クーラーがいい感じに効いているから夏場は避暑地になってる。その前が生徒指導部。別名《熱血指導部》………あまり長居はしたくないな………―――――――――まぁこんな感じかな?」
 学校内を廻っていたら、二、三十分ほど経ってしまった。
いざ校内を廻ってみると、年間でもあまり使わない場所があったりなど自分もよくわからないところがあったりした。新発見である。

 案内している間の狐音は、「うん」とか「そう」など短く相づちをうっていた。
 「………ありがとう。感謝する」ペコリ
「いや、礼には及ばないさ。〝友達〟なら当然だろう?」
 「………!」
 「友達は助け合う、そんなもんじゃないのか?わからないけど」
 「………うんっ」キラキラ
狐音は無表情ながらも、友達という言葉に目を光らせた。
 「んじゃ、戻りますか」


 燕と狐音が教室に戻って、誰もいなくなった廊下に、
 『………………面白そうな人たち発見ですね………♪』
 一人の少女の声が小さく響いた………………

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品