-フォックス×フレンド-

ノベルバユーザー189431

「濡れる狐」Ⅲ

◇◇◇◇◇◇

「いやー、申し訳ないですっ。私なんかを助けてくださって~。ありがとうございますっ」
 「「………………」」
 「ここだけの話、私授業を抜け出してきたんですよねぇ。真面目に勉強するって性に合わないんですよ、私」
 「「………………」」
 「でも読書は好きなんですよ?ジャンルは様々」
 「………ちょっと待ってください。こちらの話も聞いてください。というか聞け」

 時間は一時限目が始まってから半時間ほど。俺は一人の少女から話を聞いていた。
 「まず名前から―――」
 「私ですか?三年二組十一番、報道部所属、東御メイナ(とうみめいな)と申します。以後お見知りおきを」
なんと上級生。
 「………二年四組五番、風息燕です。こちらは同じクラスの北方狐音」
 「………よろしく」
 「うん、よろしくね~」
フットワークが軽い人だ、と俺は思った。
その人、東御メイナは黄色かかったショートボブの髪型、健康的に焼けた肌色、子供を思わせる高い声、そして小柄な体型とは不釣り合いなほどの大きな胸。
あまり上級生には見えなかった。
 「しかし燕くんに狐音さん。今は授業中なのにどうして図書室なんかにいるんです?」
いつの間にファーストネームで呼ばれるような仲になったのか。
 「その質問を全力で東御先輩に投げ返したいです………こっちは自習時間だったので」
 「あー燕くん、先輩はつけなくてもいいよ。メイナちゃんでよろ」
 「東御先輩はどうしてここにいるんですか?」
 動じない、揺るがない心。
これはペースに釣られないように気をつけなければ。
 「むぅ………釣れないですね」
 「質問に答えて下さいよ」
 「えっと………さっきにも言った通り、真面目に勉強するのが合わないから、たまたまここに来たわけでして………」
 「その手にあるカメラは?」
 「………自然豊かな風景をこれに納めようと………」
………ふむ。
 「で、本音は?」
 「銀髪の美少女転校生がやけに地味な男子とイチャイチャしているという噂を耳にしたので、報道部の血が騒ぎその決定的瞬間をこのカメラに残そうと考えていた所、二人きりで無人の図書室に入っていくあなた方を見つけたので追ってきた所存でございますっ!」
パシッ
「カメラ没収」
 「嗚呼っ!返してくださいっ!それ一つで3ヶ月は食べていける程の代物なんですよ?!」
 「最近小遣いが少なくなってきたからなー………よし、これ売って何か食べに行くかー。奢るぜ狐音」
 「………油揚げ、食べたい」
 「ちょっと待ってくださいよっ!ホントにご勘弁を!なんでもしますからぁ!」
 俺がカメラを高々に上げたら、東御先輩は飛び上がって奪い返そうとする。しかし、身長が低いためとどかない。飛び上がる度に揺れる胸に目が行ってしまったのは秘密である。
 「う、うぅ………」
あ、東御先輩の目に光るものが。
………ちょっと苛めすぎたかな?一応年上ではあるのだ。子供っぽいが。
 「じゃあこのカメラは放課後までお預けです」
 「そ、そんな………」
 「それと、大人しくしていることも条件です。ストーキングしたらカメラが自然に還りますよ?」
 「イエス。大人しくします」
 「それでよろしい」
 「………上下関係、おかしくなってる」
はたから見れば、三年生女子が二年生男子に敬礼している画である。この場に誰もいないのが幸いであった。
キーンコーンカーンコーン
気づけば一時限目は終わっていた。そろそろこの図書室にも人が集まってくることを予想して、ここは一時解散となった。
 去って行く盗撮少女の後ろ姿に
「ストーキングするんじゃないぞー」
ともう一度釘を刺すと、
 「勿論ですっ!」
 彼女は振り返り、最高の笑顔で伸ばした右手の親指を立てた。
 「………………心配だ」
 「………友達、かな?」
 狐音は少し的外れなことを言っていた。


ザアアァァァ………――――
雨はまだ降り止まない。

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