-フォックス×フレンド-

ノベルバユーザー189431

「濡れる狐」Ⅴ

俺は突然の疲労感に、その場に力なく崩れ落ちた。
 「はぁ………はぁ………」
 「だ、大丈夫、燕くん?!」
すぐさま東御先輩が助け起こしてくれた。作戦は成功したようだ。
 「燕くん動ける?」
 「………なんとか………ぐっ?!」
 「ちょ、横腹に血が出てるよ?!」
 「う………あ、ほんとだ………いててっ」
 気が付かなかったが右横腹が制服ごと切りつけられていて、血によって赤く染められていた。見た感じ体内器官に支障はなかった。
 「それよりも、狐音は………ぐぁっ」
 「狐音さんは………」
 東御先輩の視線の先に目を向けると、そこには起き上がろうとしている狐音がいた。
 「き、狐音………大丈夫か?」
 俺は横腹を押さえて狐音の近くまで歩み寄る。
 「………う、痛い………」
そういう狐音の額には、薄く血が流れていた。
 「な………!頭痛くないか?」
 「………燕のほうが、痛そう」
とにかく無事そうだった。
 「東御先輩」
 「あ、うん、救急車を呼ばなきゃ………あっ!」
 「つ、ばめ………っ!」
 「え?」

ドボンッ
俺は冷たく、荒々しくなった川の流れを感じた、気がした。


◇◇◇◇◇◇

声が、聞こえる。
 「――――――め」
 呼んでいる?
 「―――つ………め」
 俺の、名前を?
 「―――つばめ」
 俺は、
 生きているのか。

 「………燕、つばめっ!」
 「う………ん?」
 俺は名前を呼ばれて、朦朧としている脳を覚醒させた。
 「つばめっ!!」ギュッ
寝起き早々に、いきなりの首閉めクラッチ。
 「ぐおっ?!………いって!」
 横腹に激痛が走った。何事?!
 「わ………ご、ごめん」
 寝起きクラッチから解放されて、その相手を見る。
 「狐音………か?」
 「………うん」
 銀髪銀眼の狐少女、北方狐音が目の前にいる。頭には包帯が巻かれていて、痛々しい姿だった。
よく見たら、俺も腕や胴が包帯巻きにされていた。
 「今は………何時だ?」
 「………20時くらい」
あれから二、三時間はたっているらしい。
 「………ここは、どこだ?」
 俺は見覚えのない部屋にいて、見覚えのないベッドに寝かされていて、見覚えのない服を着ていた。
 「………ここ、病院。東御メイナが伝えてくれた」
そういえば、あの後川に落ちて………あれ?
 「なんで、川に落ちたんだ?」
 疑問を口にすると、狐音は苦虫を潰したような顔をして、
 「………あの男、まだ体力が残ってた、らしい」
 狐音によると、あの時俺が川に落ちたのはスリ男のせいで、その後は東御先輩によりボッコボコにされたらしい。
 「………男は逮捕。持ち物は返された。その後川下で燕が発見されて、病院送り」
というわけらしい。何もともあれ助かったのだ。
しかし、あの時に引っ掛かるところがあるのを思い出した。
 「あの男が足を押さえて転げ回っていたのは………」
 「………私の狐火」
 狐音は手のひらに小さな炎をつくって見せた。なるほど、それを飛ばしたのか。
 「ありがとう、狐音。おかげさまで助かったよ。あの時これがなかったら………っ?!」
そこまで言ったら、狐音に人差し指で口を塞がれ、狐音の顔が間近に迫ってきた。
 「………これ以上、言わないで。考えたく………ない」
 「………うん、まあ………ありがとう」
 顔がかなり近い。お互いの息がかかる距離だ。
 「………私は、あなた、の………こと、が―――」トサッ
「き、狐音?」
 「すぅ………すぅ………」
 「………………」
どうやら寝てしまったらしい。緊張の糸が切れたのか。まあ無理もない。あんなことが起こっては普通はそうなるだろう。

 俺は膝の上で眠る狐音の頭を、そっと撫でる。
 狐音は気持ち良さそうな寝顔をして、

 「………大切、だから………」

 誰にも聞こえない声で呟いた。


◇◇◇◇◇◇

後日の病室。
 『熱愛発覚?!K息氏とK方氏、二人きりで愛の密談?!』
 「どうですかコレ?!」
 「駄目、ボツ、却下」
 「そんなにダメ出ししないでくださいよぉ………嗚呼っ!カメラ、カメラを返してくださいっ!!」

 東御メイナが持ってきた手作り新聞には、先日の病室内で俺と狐音の距離が近くなっている写真がでかでかと貼られていた。隠し撮りである。

 当然のように俺はカメラを没収した。

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