君に力を授けよう ~禁忌のヒカリ~
プロローグ
彼は月夜の下、王城の中庭の隅で膝を抱えて座っていた。まるで、城の中にはもう居場所は無いというかのように。
近くに寄っても気付く様子はない。俺には隠蔽スキルがあるから当然か。
彼の暗く沈んだ横顔を見る。その顔は美しく整っていて、とても男だとは、男であったとは思えない。
その美しい顔は、表情がポッカリと抜け落ちていた。しかし、俺には解る。その瞳には、禍々しく感じる程の復讐の焔が揺らめいていることに。
俺は、彼のその瞳を見て……、言いようもない程興奮していた。
醜く、狂気的で、激しい怒りに彩られた復讐の灯火。そのドロドロとした感情は、俺の脳を濃密に包み込む。
ああ、なんて素晴らしい。日本にいたのではこんな感情は味わえなかっただろう。彼の焔を見るだけで、思わず果ててしまいそうだ。
この世界に召喚してくれた王女と……、これ以上の感情を味わうための力をくれた魔王には感謝しないとな。
さて、ここからが本番だ。彼の正面に立ち、隠蔽を解いて俺は言った。
「君は、力が欲しいかい?」
──────────────────────────────
「今度の文化祭についてですが……」
黒板の前に立った男が教卓に手をついて何か言っている。
彼は千藤巧。このクラスの委員長だ。真面目を体言したような姿で、整った顔立ちに眼鏡がよく似合う。教師からの評価も厚い。
「とりあえずホットドッグの屋台でいいですか?」
そして、教師の居ない場では不真面目だ。ちなみに今日は担任教師が出張で代わりも居ないらしく、教師から信頼されている千藤がこうして仕切っているという訳だ。
「それでいいんじゃねーの。な、お前ら」
「もちろんですっ!」
「天童さまがそう言うのならぁ」
「それでいいんじゃない」
一人の男の声に続いて、妙な連帯感を持って答える三人の女子。
男の名は天童綺羅。一般にイケメンと称される顔立ちをしていて、余程自信があるのか髪を金色に染めている。それがまた似合っているのが憎たらしい。唯一の救い所は、取り巻きの女子をエロい目でしか見ないことだろう。ピンクと紫の中間の色をした、触手のような泥だけが個人的には好きだ。
天童の問い掛けに元気よく答えた少女は相沢美奈。身長140㎝台、貧乳、ツインテール、天真爛漫。ここまでロリロリした高校生はそう居ないだろう。誰からも愛される少女だ。しかし、俺は正直嫌いだ。純粋無垢で、一切濁りの無い太陽。人それぞれヒカリは違うが、あんな非人間染みたヒカリは見ていて反吐が出そうだ。
天童の問い掛けにおっとりと答えていたのは杉山尚美だ。学年一の巨乳で黒髪ロング。一言で表すなら、みんなのお姉さんと言った所か。比率は明らかに天童に偏っているが。相沢程ではないが、澄み渡るような海であまり好きではない。
天童の問い掛けに、表面上は取り繕っているが気だるげに答えたのは仲西愛奈だ。仲西は他の二人とは違い、打算で天童と付き合っている。クラス内で上位カーストに居たいがためだろう。一応美人ではあるのだが、本人には自覚と自信が無いらしい。濃紺に淀んだ霧をしていて、他の人よりかは比較的好きだ。
ちなみにこの三人の席はそれぞれ離れているのだが、当たり前のように天童の周りにいる。というより、クラスの大半が席を立っている。席に着いているのは、グループの中心である天童のような人を除くと俺だけだ。正真正銘のぼっちである。悲しくはない。
「えー、とりあえず便宜上全員の承認が欲しいので、ホットドッグの屋台で良い人は手を挙げてください」
俺は躊躇わずに手を挙げる。別に何をやったって変わりはしない。
周りを見渡すと全ての人が、いや、一人を除いた全員が手を挙げているようだ。ほとんどそれぞれのグループで話しながらだが。集中して聞かなくても、手を挙げる時は即座に反応して手を挙げる。このクラスの全員が身に付けている技能である。
「満場一致ということで、ホットドッグの屋台で決定とします」
「たくみー、須藤がなんか意見あるみてぇだよ」
ニヤニヤしながら千藤に言葉を掛けたのは、真鍋佳奈だ。栗色に染めた長髪に、吊り上がった目。女ヤンキーと表現したくなる見た目だ。実際ヤンキーであるのだが。嘲るような瞳の奥には、激しい炎、それも逆上の炎が輝いている。
そんな彼女の視線の先には、一人の少女、と見間違うほど可憐な少年がいる。彼の名は須藤加奈。名前も外見も、それどころか仕草一つを取っても女の子のような男だ。彼は先程手を挙げていなかった。反応できなかった、というわけではない。逆に一番千藤の話を聞いていただろう。
「またですか。それで須藤君、意見とはなんでしょうか?」
そう、これはいつものことなのだ。常日頃から須藤が真鍋に苛められているというのは教員の間でさえ周知の事実。名前の読みが同じだから。切っ掛けはたったそれだけだ。
救いの手は誰も差し伸べない。最早、苛められていても誰一人として気にも止めない。
勿体無いことをする。苛めは加害者にも被害者にも良質なヒカリを灯す。しかも、何種類も同時に見られるのだ。気にしないなど、勿体無さすぎる。
「えぅぁ、ら、ら、うぅ……」
赤く染まった顔を俯かせて、須藤が小さく吃った。俯いてたら折角のヒカリが見えないだろう。俺ぐらいしか他に気にして見てる人なんて誰もいないんだから、顔を見せてくれたっていいじゃないか。
「えー?なんだってー?聞こえねぇぞ須藤」
わざとらしく大きな声で聞き返したのは木嶋修平。ニヤニヤしながら須藤を辱しめるのを心底楽しんでいる。しかしその瞳にあるのは、まるでペンキをぶちまけたように塗り潰された桃色だ。男の娘専門のホモなのだろうか。しかし、あのヒカリは本物の恋だ。
あのまま欲に溺れてくれないだろうか。恋のヒカリは堕ちた時が一番素晴らしいのだ。是非とも味わいたい。
「そうです。ちゃんと声を出さないと聞こえませんよ」
木嶋に便乗して須藤に声を掛けたのは坂山田奈美。腰まで届くほど長い髪をストレートに下ろしている。比較的プロポーションの良い体つきをした清楚系ビッチだ。それもショタ専門である。彼女の毒沼は見ていて思わず鳥肌が立つ程だ。
ちなみに坂山は非処女だ。そして須藤は非童貞だ。特に深い意味は無い。そんな情報を何故知っているのかというと、俺が学校一の情報屋であると言えば解るだろう。理由になっていないとは言わせない。
そんな二人の声を受け、須藤が真っ赤に染まった顔を上げる。
「うぅ。らんこっ──」
俺がようやく顔を上げた須藤のヒカリを見ようとしたとき、それは起こった。
クラスメイトが時が止まったように動きを止める。いや、ようにではない。止まっている。自分の体さえも動かない。
一瞬ヒカリが見放題だと喜びかけたが、世界そのものが固まったかのように灰色に染まり、ヒカリを見ることができない。くそっ、非常に残念だ。
それにしても、なぜ時が止まっているのに思考はそのままなのだろうか。視線も動かすことができるし、不思議だ。
色々と思考を張り巡らせていると、止まった世界に突如変化が訪れた。
床が突然輝き始め、教室全体が白い光に塗り潰される。浮遊感を感じたと思うと床が消え去った。
そして光が強まり──クラスメイトが全員消え去った。
「……は?」
あ、声が出た。というよりなんだこの空間は。クラスメイトが消えた直後真っ暗になったぞ。
『君の心は実に美しい』
そして何処からか聞こえる野太い男の声。
『ヒトにも君のような者が居たとはね』
「いや、誰だよ」
ヒカリも見せていないのに名乗らないのは生物として駄目だろう。
『おっと失礼。私は君がこれより行く世界での魔王と呼ばれる存在だ』
「これから行く世界?魔王?何を言ってるんだ」
異世界ファンタジーでもあるまいし。非現実的だ。そもそもいきなりこんなことを言われて、誰が信じるというのか。
『ふむ、知識はあるようだな。今まさにお前が考えたような異世界に、これよりお前は行くのだ』
「なら尚更行きたくないな」
命の危険のある世界に魔王の手引きで行くなどもってのほかだ。それなら日本に残って、道行く人のヒカリを見ていた方がよっぽど良い。命あってこその人種だ。
『力が欲しくはないか?』
「よくあるチートか?そんなもの要らないな」
俺が主人公だなんて自惚れる気は無いし、そもそもチートがあった方が良い世界なんて危険極まりない。
『君が一番欲しい、見たい、感じたいモノが得られるとしても?』
「……なんだと?」
俺の反応に好感触を得たのか、嬉しそうに声の主は続けた。
『もう一度訊こう』
『君は、力が欲しいかい?』
近くに寄っても気付く様子はない。俺には隠蔽スキルがあるから当然か。
彼の暗く沈んだ横顔を見る。その顔は美しく整っていて、とても男だとは、男であったとは思えない。
その美しい顔は、表情がポッカリと抜け落ちていた。しかし、俺には解る。その瞳には、禍々しく感じる程の復讐の焔が揺らめいていることに。
俺は、彼のその瞳を見て……、言いようもない程興奮していた。
醜く、狂気的で、激しい怒りに彩られた復讐の灯火。そのドロドロとした感情は、俺の脳を濃密に包み込む。
ああ、なんて素晴らしい。日本にいたのではこんな感情は味わえなかっただろう。彼の焔を見るだけで、思わず果ててしまいそうだ。
この世界に召喚してくれた王女と……、これ以上の感情を味わうための力をくれた魔王には感謝しないとな。
さて、ここからが本番だ。彼の正面に立ち、隠蔽を解いて俺は言った。
「君は、力が欲しいかい?」
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「今度の文化祭についてですが……」
黒板の前に立った男が教卓に手をついて何か言っている。
彼は千藤巧。このクラスの委員長だ。真面目を体言したような姿で、整った顔立ちに眼鏡がよく似合う。教師からの評価も厚い。
「とりあえずホットドッグの屋台でいいですか?」
そして、教師の居ない場では不真面目だ。ちなみに今日は担任教師が出張で代わりも居ないらしく、教師から信頼されている千藤がこうして仕切っているという訳だ。
「それでいいんじゃねーの。な、お前ら」
「もちろんですっ!」
「天童さまがそう言うのならぁ」
「それでいいんじゃない」
一人の男の声に続いて、妙な連帯感を持って答える三人の女子。
男の名は天童綺羅。一般にイケメンと称される顔立ちをしていて、余程自信があるのか髪を金色に染めている。それがまた似合っているのが憎たらしい。唯一の救い所は、取り巻きの女子をエロい目でしか見ないことだろう。ピンクと紫の中間の色をした、触手のような泥だけが個人的には好きだ。
天童の問い掛けに元気よく答えた少女は相沢美奈。身長140㎝台、貧乳、ツインテール、天真爛漫。ここまでロリロリした高校生はそう居ないだろう。誰からも愛される少女だ。しかし、俺は正直嫌いだ。純粋無垢で、一切濁りの無い太陽。人それぞれヒカリは違うが、あんな非人間染みたヒカリは見ていて反吐が出そうだ。
天童の問い掛けにおっとりと答えていたのは杉山尚美だ。学年一の巨乳で黒髪ロング。一言で表すなら、みんなのお姉さんと言った所か。比率は明らかに天童に偏っているが。相沢程ではないが、澄み渡るような海であまり好きではない。
天童の問い掛けに、表面上は取り繕っているが気だるげに答えたのは仲西愛奈だ。仲西は他の二人とは違い、打算で天童と付き合っている。クラス内で上位カーストに居たいがためだろう。一応美人ではあるのだが、本人には自覚と自信が無いらしい。濃紺に淀んだ霧をしていて、他の人よりかは比較的好きだ。
ちなみにこの三人の席はそれぞれ離れているのだが、当たり前のように天童の周りにいる。というより、クラスの大半が席を立っている。席に着いているのは、グループの中心である天童のような人を除くと俺だけだ。正真正銘のぼっちである。悲しくはない。
「えー、とりあえず便宜上全員の承認が欲しいので、ホットドッグの屋台で良い人は手を挙げてください」
俺は躊躇わずに手を挙げる。別に何をやったって変わりはしない。
周りを見渡すと全ての人が、いや、一人を除いた全員が手を挙げているようだ。ほとんどそれぞれのグループで話しながらだが。集中して聞かなくても、手を挙げる時は即座に反応して手を挙げる。このクラスの全員が身に付けている技能である。
「満場一致ということで、ホットドッグの屋台で決定とします」
「たくみー、須藤がなんか意見あるみてぇだよ」
ニヤニヤしながら千藤に言葉を掛けたのは、真鍋佳奈だ。栗色に染めた長髪に、吊り上がった目。女ヤンキーと表現したくなる見た目だ。実際ヤンキーであるのだが。嘲るような瞳の奥には、激しい炎、それも逆上の炎が輝いている。
そんな彼女の視線の先には、一人の少女、と見間違うほど可憐な少年がいる。彼の名は須藤加奈。名前も外見も、それどころか仕草一つを取っても女の子のような男だ。彼は先程手を挙げていなかった。反応できなかった、というわけではない。逆に一番千藤の話を聞いていただろう。
「またですか。それで須藤君、意見とはなんでしょうか?」
そう、これはいつものことなのだ。常日頃から須藤が真鍋に苛められているというのは教員の間でさえ周知の事実。名前の読みが同じだから。切っ掛けはたったそれだけだ。
救いの手は誰も差し伸べない。最早、苛められていても誰一人として気にも止めない。
勿体無いことをする。苛めは加害者にも被害者にも良質なヒカリを灯す。しかも、何種類も同時に見られるのだ。気にしないなど、勿体無さすぎる。
「えぅぁ、ら、ら、うぅ……」
赤く染まった顔を俯かせて、須藤が小さく吃った。俯いてたら折角のヒカリが見えないだろう。俺ぐらいしか他に気にして見てる人なんて誰もいないんだから、顔を見せてくれたっていいじゃないか。
「えー?なんだってー?聞こえねぇぞ須藤」
わざとらしく大きな声で聞き返したのは木嶋修平。ニヤニヤしながら須藤を辱しめるのを心底楽しんでいる。しかしその瞳にあるのは、まるでペンキをぶちまけたように塗り潰された桃色だ。男の娘専門のホモなのだろうか。しかし、あのヒカリは本物の恋だ。
あのまま欲に溺れてくれないだろうか。恋のヒカリは堕ちた時が一番素晴らしいのだ。是非とも味わいたい。
「そうです。ちゃんと声を出さないと聞こえませんよ」
木嶋に便乗して須藤に声を掛けたのは坂山田奈美。腰まで届くほど長い髪をストレートに下ろしている。比較的プロポーションの良い体つきをした清楚系ビッチだ。それもショタ専門である。彼女の毒沼は見ていて思わず鳥肌が立つ程だ。
ちなみに坂山は非処女だ。そして須藤は非童貞だ。特に深い意味は無い。そんな情報を何故知っているのかというと、俺が学校一の情報屋であると言えば解るだろう。理由になっていないとは言わせない。
そんな二人の声を受け、須藤が真っ赤に染まった顔を上げる。
「うぅ。らんこっ──」
俺がようやく顔を上げた須藤のヒカリを見ようとしたとき、それは起こった。
クラスメイトが時が止まったように動きを止める。いや、ようにではない。止まっている。自分の体さえも動かない。
一瞬ヒカリが見放題だと喜びかけたが、世界そのものが固まったかのように灰色に染まり、ヒカリを見ることができない。くそっ、非常に残念だ。
それにしても、なぜ時が止まっているのに思考はそのままなのだろうか。視線も動かすことができるし、不思議だ。
色々と思考を張り巡らせていると、止まった世界に突如変化が訪れた。
床が突然輝き始め、教室全体が白い光に塗り潰される。浮遊感を感じたと思うと床が消え去った。
そして光が強まり──クラスメイトが全員消え去った。
「……は?」
あ、声が出た。というよりなんだこの空間は。クラスメイトが消えた直後真っ暗になったぞ。
『君の心は実に美しい』
そして何処からか聞こえる野太い男の声。
『ヒトにも君のような者が居たとはね』
「いや、誰だよ」
ヒカリも見せていないのに名乗らないのは生物として駄目だろう。
『おっと失礼。私は君がこれより行く世界での魔王と呼ばれる存在だ』
「これから行く世界?魔王?何を言ってるんだ」
異世界ファンタジーでもあるまいし。非現実的だ。そもそもいきなりこんなことを言われて、誰が信じるというのか。
『ふむ、知識はあるようだな。今まさにお前が考えたような異世界に、これよりお前は行くのだ』
「なら尚更行きたくないな」
命の危険のある世界に魔王の手引きで行くなどもってのほかだ。それなら日本に残って、道行く人のヒカリを見ていた方がよっぽど良い。命あってこその人種だ。
『力が欲しくはないか?』
「よくあるチートか?そんなもの要らないな」
俺が主人公だなんて自惚れる気は無いし、そもそもチートがあった方が良い世界なんて危険極まりない。
『君が一番欲しい、見たい、感じたいモノが得られるとしても?』
「……なんだと?」
俺の反応に好感触を得たのか、嬉しそうに声の主は続けた。
『もう一度訊こう』
『君は、力が欲しいかい?』
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