君に力を授けよう ~禁忌のヒカリ~
喚ばれし勇者
視界が白く塗り潰される。真っ白な視界が徐々に落ち着きを取り戻し、輝かしいステンドグラスが姿を見せた。
周りを見渡せば、大理石造りの壁や柱、天井に床、そして正面に女神像がある。ここは教会か何かのようだ。壁に取り付けられたステンドグラスから差し込む光が俺達を煌びやかに照らす。
周りには困惑した様子のクラスメイト達がいる。黙っている者もいれば騒ぎ立てる者もいるが、彼等のヒカリには共通して淀んだ灰色が浮かんでいた。俺も演技のスキルを利用し、表面上は戸惑ったように見せる。
そんな中、女神像に向けて膝を付き腕を組んで祈祷していた少女が、その桃色の髪を靡かせて俺達のいる方へ振り返った。白の生地に金のラインをあしらったローブの裾がひらりと舞う。
「異世界よりの勇者様方。私達の世界へようこそおいでくださいました」
彼女が魔王の言っていた聖女なのだろう。なるほど、これは美しい。外見から歳を推測するに小学校高学年程度だろうか。可憐で可愛い少女だ。しかし、纏う雰囲気は成人した大人のそれである。それに加え、彼女から溢れ出す純白のオーラが神々しさをより一層演出している。あれほどざわついていたクラスメイトも、男女関係なく彼女を見て言葉を失っていた。
慈愛に溢れるその双翼を除けば好評価だ。これで堕ちたヒカリだったら、もしかしなくても惚れていたかもしれない。
「私の名前はアリシス・ニアミール。勇者様方には、これより世界を救うため魔王討伐に挑んで頂きたいのです。勿論、命に危険が及ぶこともあるでしょう」
「何をふざけたことを言っているのですか?」
アリシスと名乗った聖女。その言葉を遮るようにして、クラス委員長の千藤が口を出す。小学生並の少女に辛辣だ。
その言葉に正気を取り戻したのか、クラスメイトが口々に文句を言い出す。……という場面の筈なのだが、クラスメイトの半数は歓喜で喚いている。相変わらずオタクの多いクラスだ。ほとんどの人がオタクであることを隠しているので、このクラスにオタクが多いことを知ってるのは俺だけだろうが。
ちなみに、残り半分はどうでもいい人だ。千藤のような文句のある人は極少数である。
「……信じられないかもしれませんが、本当のことなのです。勇者様方だけが、私達の、人間の、最後の希望なのです」
アリシスはうっすらと浮かべた涙を指で拭いながら、クラスメイト全員に訴え掛けるように言った。ヒカリを見る限り嘘は付いていない。これで泣いてしまう辺り、精神はまだ子供だということか。
女の子と関わる事が無い千藤は、アリシスの突然の涙を見て困惑していた。子供の慰め方が解らず、クラスメイトを頼ろうと周りを見回しているようである。しかしクラスメイトは皆、千藤を咎めるような視線を送っている。敵しかいないことを悟った千藤はその場で項垂れた。
そして、アリシスのすすり泣く声が聞こえる中、気まずい沈黙が訪れる。クラスメイトは「お前、何か声掛けてやれよ」「無理だよ。お前こそ慰めてやれって」とアイコンタクトで会話している。他人のことは言えないが、ヘタレしかいない。いつもは天真爛漫で誰とでも気さくに話せる相沢でさえ、今はおろおろとしている。
そんな中、この沈黙を破る者がいた。
「あー、一つ聞きたいんだが、俺達は元の世界に帰れるのか?」
天童綺羅である。アリシスの話をどうでもよさそうに聞いていた一人だ。いつもはただのキザ野郎なのだが、今回ばかりは感謝せざるを得ないようだ。
「――っ!」
天童を見て、何故か頬を紅く染めるアリシス。双翼の周りを薄いピンク色のハートが飛び交っている。なるほど、これが人が恋に堕ちる瞬間か。なかなか興味深い。
それにしても天童はまた女を堕ちさせたのか。悟った男子や、何故か一部の女子が全てを呪い殺しそうな視線を天童に投げ掛けているぞ。
「魔王を無事討伐できたのならば、恩情篤き我らが神、ミール様は勇者様方の願いを叶えて下さるでしょう。ミール様に心から願えば、勇者様方が元居た世界へ送り届けて下さいます」
よくある流れだ。魔王を倒さなければ元の世界に戻れないというご都合主義。しかし、俺は元の世界に帰りたいとは思わない。もし帰りたいと願うとしたら、それはこの世界に失望した時だけだ。
「ってことは、俺らはとりあえず魔王を倒すしかねぇってことだよな?」
気怠そうに後頭部を掻きながら天童が訊いた。
「……そういうことに、なってしまいますね」
アリシスは申し訳なさそうに顔を俯けている。それはそうだろう。自分達が勝手に喚んだ挙げ句、喚んだ相手に魔王を討伐しろと強制しているのだ。それを偶然にも好きになってしまった相手に再確認させられたのだ。罪悪感も募る。
「ならとっとと魔王倒しちまおうぜ。お前らもそれでいいよな?」
天童が訊くと、次々とそれに賛成する声が上がる。反対の声が一切上がらない。魔王との契約が無く、唯のクラスの一員として召喚されたとしたら俺なら反対する。
「みなさま……ありがとうございます……っ!」
俯かせていた顔をパッと上げたアリシスは、歓喜のあまり嬉し涙を流していた。感情の起伏が激しい聖女だ。聖女らしくない。
「本当に……本当にありがとうございます」
「あー、うん。そうだな」
流石の天童でも、嬉し涙の対処法は分からないようだ。
周りを見渡せば、大理石造りの壁や柱、天井に床、そして正面に女神像がある。ここは教会か何かのようだ。壁に取り付けられたステンドグラスから差し込む光が俺達を煌びやかに照らす。
周りには困惑した様子のクラスメイト達がいる。黙っている者もいれば騒ぎ立てる者もいるが、彼等のヒカリには共通して淀んだ灰色が浮かんでいた。俺も演技のスキルを利用し、表面上は戸惑ったように見せる。
そんな中、女神像に向けて膝を付き腕を組んで祈祷していた少女が、その桃色の髪を靡かせて俺達のいる方へ振り返った。白の生地に金のラインをあしらったローブの裾がひらりと舞う。
「異世界よりの勇者様方。私達の世界へようこそおいでくださいました」
彼女が魔王の言っていた聖女なのだろう。なるほど、これは美しい。外見から歳を推測するに小学校高学年程度だろうか。可憐で可愛い少女だ。しかし、纏う雰囲気は成人した大人のそれである。それに加え、彼女から溢れ出す純白のオーラが神々しさをより一層演出している。あれほどざわついていたクラスメイトも、男女関係なく彼女を見て言葉を失っていた。
慈愛に溢れるその双翼を除けば好評価だ。これで堕ちたヒカリだったら、もしかしなくても惚れていたかもしれない。
「私の名前はアリシス・ニアミール。勇者様方には、これより世界を救うため魔王討伐に挑んで頂きたいのです。勿論、命に危険が及ぶこともあるでしょう」
「何をふざけたことを言っているのですか?」
アリシスと名乗った聖女。その言葉を遮るようにして、クラス委員長の千藤が口を出す。小学生並の少女に辛辣だ。
その言葉に正気を取り戻したのか、クラスメイトが口々に文句を言い出す。……という場面の筈なのだが、クラスメイトの半数は歓喜で喚いている。相変わらずオタクの多いクラスだ。ほとんどの人がオタクであることを隠しているので、このクラスにオタクが多いことを知ってるのは俺だけだろうが。
ちなみに、残り半分はどうでもいい人だ。千藤のような文句のある人は極少数である。
「……信じられないかもしれませんが、本当のことなのです。勇者様方だけが、私達の、人間の、最後の希望なのです」
アリシスはうっすらと浮かべた涙を指で拭いながら、クラスメイト全員に訴え掛けるように言った。ヒカリを見る限り嘘は付いていない。これで泣いてしまう辺り、精神はまだ子供だということか。
女の子と関わる事が無い千藤は、アリシスの突然の涙を見て困惑していた。子供の慰め方が解らず、クラスメイトを頼ろうと周りを見回しているようである。しかしクラスメイトは皆、千藤を咎めるような視線を送っている。敵しかいないことを悟った千藤はその場で項垂れた。
そして、アリシスのすすり泣く声が聞こえる中、気まずい沈黙が訪れる。クラスメイトは「お前、何か声掛けてやれよ」「無理だよ。お前こそ慰めてやれって」とアイコンタクトで会話している。他人のことは言えないが、ヘタレしかいない。いつもは天真爛漫で誰とでも気さくに話せる相沢でさえ、今はおろおろとしている。
そんな中、この沈黙を破る者がいた。
「あー、一つ聞きたいんだが、俺達は元の世界に帰れるのか?」
天童綺羅である。アリシスの話をどうでもよさそうに聞いていた一人だ。いつもはただのキザ野郎なのだが、今回ばかりは感謝せざるを得ないようだ。
「――っ!」
天童を見て、何故か頬を紅く染めるアリシス。双翼の周りを薄いピンク色のハートが飛び交っている。なるほど、これが人が恋に堕ちる瞬間か。なかなか興味深い。
それにしても天童はまた女を堕ちさせたのか。悟った男子や、何故か一部の女子が全てを呪い殺しそうな視線を天童に投げ掛けているぞ。
「魔王を無事討伐できたのならば、恩情篤き我らが神、ミール様は勇者様方の願いを叶えて下さるでしょう。ミール様に心から願えば、勇者様方が元居た世界へ送り届けて下さいます」
よくある流れだ。魔王を倒さなければ元の世界に戻れないというご都合主義。しかし、俺は元の世界に帰りたいとは思わない。もし帰りたいと願うとしたら、それはこの世界に失望した時だけだ。
「ってことは、俺らはとりあえず魔王を倒すしかねぇってことだよな?」
気怠そうに後頭部を掻きながら天童が訊いた。
「……そういうことに、なってしまいますね」
アリシスは申し訳なさそうに顔を俯けている。それはそうだろう。自分達が勝手に喚んだ挙げ句、喚んだ相手に魔王を討伐しろと強制しているのだ。それを偶然にも好きになってしまった相手に再確認させられたのだ。罪悪感も募る。
「ならとっとと魔王倒しちまおうぜ。お前らもそれでいいよな?」
天童が訊くと、次々とそれに賛成する声が上がる。反対の声が一切上がらない。魔王との契約が無く、唯のクラスの一員として召喚されたとしたら俺なら反対する。
「みなさま……ありがとうございます……っ!」
俯かせていた顔をパッと上げたアリシスは、歓喜のあまり嬉し涙を流していた。感情の起伏が激しい聖女だ。聖女らしくない。
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「あー、うん。そうだな」
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