本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。
14 その代わり、お願い聞いて!
インターホンを鳴らすと、すぐに神崎くんが出てくれた。
「いつも時間ぴったりなのに遅かったから心配した」
「うん、ちょっと。ごめんね!」
空笑顔で謝って、私は神崎くんの部屋にお邪魔した。
そっか。ヒロカちゃん、ここへ来ること神崎くんには言ってないんだ。わかった。女同士の秘密ってことにしとくよ。
部屋に上がると、私はここ数日の癖で勧められてもいないのに、つい勉強机の椅子に座ってしまった。他に椅子がないからとも言える。
けど、よく考えたら、ベッドに座った方が神崎くんといちゃいちゃ出来たかも? 男の子らしい神崎くんの黒いシーツとタオルケットのベッドに。最近いつも出してあった、折りたたみ式のローテーブルはどこに収納したのか見当たらないし。うーん。でも、もっと考えてみたら、私がベッドに座ったら、神崎くんが勉強机に座りそう。だめだ。この作戦は却下だ。
それに、今日はイチャイチャしに来たんじゃないんだった。話をしに来たんだった。
 あの喧嘩で起こっていた神崎くんへの怒りの気持ちは、あの夜の痴漢事件で颯爽と駆けつけ助けてくれたことで、相殺されていた。ぎこちない空気は残ったけれど、抱きしめあった感触がそれを曖昧なものに変えてしまっていた。
神崎くんは、コップにオレンジジュースをついで渡してくれた。
「ありがとう」
「いや」
神崎くんは、何気なくベッドに腰を下ろした。
そして、期待の眼差しでオレンジジュースを飲む私のことを見つめた。私はそれに気付いて、へら、と笑った。
「美味しい」
「よかった」
神崎くんは、嬉しそうに笑った。
そっか。ホテルで、オレンジジュースをやたら褒めたから、私がオレンジジュース好きだと思って用意しといてくれたのかも。神崎くん、優しい。嬉しい。私は思わずニヤけてしまった。
「えへへ」
笑顔を向けると、神崎くんはほうっとため息をついた。
「よかった。もしかしたら、まだ怒ってるかと思って心配してたんだ。いろいろ――」
「いろいろ?」
私が確認するように首を傾げると、神崎くんは頷いた。
「うん。ごめん。ヒロカのこと。あいつがまさかいろいろ言ってるとは知らなかった。相田さんに言われて驚いたよ。あの時追いかけなかったのは、ヒロカに問い詰めて事態を把握する方が先だと思ったからなんだ。相田さん怒ってたし――。でも、引き止めてたらあんな事にはならなかったね、ごめん」
「それは、もう謝ってくれたから、良いの。本当は、引き止めて欲しかったけど、でも、引き止めて欲しくない場合もあるかもしれないし、そこはわがまま言えない。話の途中で出て行っちゃったナナも悪いし……。ごめんなさい」
私が謝ると、神崎くんは慌てて首を振った。
「良いんだ。怒っても無理ないよ。ヒロカから聞き出した時は焦った。一応、弁解するけど、罰ゲームのことはヒロカには話してない。相田さん達がお昼休みに罰ゲームのこと話してるの聞いて、混乱して、確かにジローには相談したんだけど、それをまさかヒロカが盗み聞きしてるとは全く気付かなかった。しかもヒロカのやつ、相田さんにその件で喧嘩売るなんて。ごめんな。あいつ、俺に同情的なところがあって、昔から過剰に俺を甘やかしたがるんだ。根は悪い奴じゃないんだけど……」
「ふ~ん」
そっか。ヒロカちゃんの盗み聞きだったんだ。ヒロカちゃんに、恋愛相談してたって訳じゃなかったんだ。親友の田辺くんに相談するのは仕方ないよね。アドバイスする田辺くんが引くほどチャラ過ぎるのがちょっと心配ではあるけど。
まずは一安心。でも、一番聞きたいのはそこじゃない。
「それで?」
私は、神崎くんが話しやすいように笑顔を意識して首を傾げた。んだけど、神崎くんは何故か怯えたような顔で視線を彷徨わせた。
「それで、えっと。そう、ヒロカとキスしたって話しだけど、あれは、違うんだ」
「でも、したんでしょ?」
追求すると、神崎くんはたじろいだ。
「確かに、したのはした――というか、されたんだけど、おでこなんだ」
「おでこ!?」
おでこって、おでこ? 額?
「俺が10歳でヒロカが9歳の頃の話だ。母親を亡くしたばかりで気落ちしていた俺の気をそらそうと、子供ながらに考えたみたいだ。母さんが俺にしてるのを一度見たことがあるらしい。『ヒロカがダイチくんのままになってあげる』って言われて、おでこにキスされた」
「……」
うーん。リアクションに困る。
それ、唇にしてないんだったら、ファーストキスって言わないんじゃ?
てことは、ヒロカちゃんの嘘だったってことか。でも、おでこでもキスはキスだし、ムカつかないと言ったら嘘になるけど、9歳10歳って言ったら小学3、4年生の時の話し? だし。それに、それを言いだしたら、ナナだって元彼とキスしちゃってるし……。
「驚いたけど、キスとかそんなことになったのは、その一度きりだし。俺にとってヒロカは妹みたいなものなんだ。だけど、相田さんが嫌なら、もうヒロカには会わないよ」
きっぱりと言い切った神崎くんを、私は驚いて見つめてしまった。
「や……。それは、無理でしょ。だって田辺くんの家に行ったら会っちゃうじゃん。田辺くんの家に行くのをやめてとまでは言えないし」
神崎くんは、大真面目で答えた。
「いや、ジローとは別にどこでも会える」
私はため息をついて苦笑した。
「でも、家族みたいに想ってるってことは、やっぱり神崎くんにとって、田辺くんの家は第二の家族みたいなものなんだよ。田辺くんのお母さんとかにも会いたい訳でしょ? やっぱり、そこまで縛ることなんて出来ないよ。ヒロカちゃんとは二人きりで会ってほしくはないけどさ」
神崎くんは、安堵したようにそっとため息をはいた。
「相田さんが、それで良いなら」
くそう。ちょっと嬉しそうだな、神崎くん。
まあ、仕方がないよね。そんな『そくばっきー』な彼女になりたくないもん。
キスはおでこだったことだしさ。
それに、もう許されたみたいに安堵している神崎くんには悪いけど、本当はもうひとつ、「ナナのことを慣れてる遊び人扱いした件」についても怒ってたんだけどな。それについての謝罪はまだだ。けど、今更蒸し返す雰囲気じゃなくなっちゃったな。
仕方ないか。悩殺作戦とかしようとしたナナもナナだし。言ってなかったナナも悪いし。黙って許そう。
嬉しそうに微笑んで、そうだ、オレンジジュースおかわりいる? なんていそいそと立ち上がった神崎くんに向かって、私は口を開いた。
「その代わり、お願い聞いて!」
驚いて振り返った神崎くんは、私のことをきょとんとした目で見つめた。
「なに?」
「――天体観測に連れてって」
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
来週の火曜日から学校が始まっちゃう。夏休みのうちに行きたいね、ということになって、急遽、8月19日に出かけることになった。夏休み最後の土曜日。私が天体観測に行きたいと言ってから三日後のことだ。
午後5時に、神崎くんの最寄りの駅に集合した。
神崎くんは、暗いところに行くから全身真っ黒はやめてねとお願いしたので、白いビッグTシャツにデニムという格好だった。それにカーキ色のリュックを背負っている。私は、ボーダーのTシャツに黒いレースのビスチェを重ねて、ボトムはデニムショーパンで、歩きやすくて脱げにくいレースアップのサンダルにした。荷物は白いトートバッグひとつ。
足が出てるのを見て、神崎くんは何か言いたげな顔をしたけれど、あれくらいのことでビビっていたら、オシャレなんか出来ない。それに、神崎くんが守ってくれるから大丈夫。
それから電車に揺られること20分ちょっと。うち乗り換え一回。改札を出てから、神崎くんに案内されて徒歩20分。錦公園に着いた。あんまり早く着くものだから、驚いた。天体観測って、都内でもできるものなんだね。知らなかったな。
錦公園は、アスレチック広場やサイクリングコース、バラ園、美術館等が併設されている大きな公園だ。春には桜が満開になってお花見客で賑わうんだよ、と公園を案内しながら神崎くんが教えてくれた。じゃあ、来年は一緒に夜桜に囲まれて星を見ようねと言ったら、神崎くんは赤面して頷いた。
しばらく歩いて、神崎くんは、園内中央の芝生広場というところに案内してくれた。
その名の通り、濃い緑の広大な芝生が広がっている。空を遮るものがないから、確かにこれなら星もよく見えると思えた。
神崎くんは、リュックからレジャーシートを出すと、芝の上に広げた。ここが今日の即席の観測所だ。
「暗くなる前に、飯食おう」
「うん!」
私達は、沈む夕日を見ながら、持ってきたお弁当を広げて食べた。神崎くんがおかずを作って来てくれて、私はおにぎりを握って来た。普通、逆じゃない? 彼女がおかずを作って来るものじゃない? と思わないでもないけど、気にしない。だって、神崎くんの料理が美味しすぎるから。
照り焼きチキンにハムときゅうりのマカロニサラダ、ぷちトマト、アスパラベーコン、とベーコンポテト。ほうれん草の胡麻和え。全部、味付けが絶妙なの。
私も、一応、鮭フレークとごまの混ぜご飯を握ったおにぎりと、梅のと、昆布のと、三種類作って来た。
「うまいよ」
一口かじって、満点笑顔の神崎くん。
「そうかなっ」
二人、顔を見合わせて笑った。
今日の日没は18時26分。そろそろ、日も沈んで、辺りが暗くなって来た。
薄明かりが終わるのが、19時58分。観測に適した時間になるまで、あと一時間半も時間がある。その間、ずっと一緒にいられる。今日はまだまだ時間があるんだ。しかも、勉強しなくてもいい。どうしよう。テンション上がって来た!
「いつも時間ぴったりなのに遅かったから心配した」
「うん、ちょっと。ごめんね!」
空笑顔で謝って、私は神崎くんの部屋にお邪魔した。
そっか。ヒロカちゃん、ここへ来ること神崎くんには言ってないんだ。わかった。女同士の秘密ってことにしとくよ。
部屋に上がると、私はここ数日の癖で勧められてもいないのに、つい勉強机の椅子に座ってしまった。他に椅子がないからとも言える。
けど、よく考えたら、ベッドに座った方が神崎くんといちゃいちゃ出来たかも? 男の子らしい神崎くんの黒いシーツとタオルケットのベッドに。最近いつも出してあった、折りたたみ式のローテーブルはどこに収納したのか見当たらないし。うーん。でも、もっと考えてみたら、私がベッドに座ったら、神崎くんが勉強机に座りそう。だめだ。この作戦は却下だ。
それに、今日はイチャイチャしに来たんじゃないんだった。話をしに来たんだった。
 あの喧嘩で起こっていた神崎くんへの怒りの気持ちは、あの夜の痴漢事件で颯爽と駆けつけ助けてくれたことで、相殺されていた。ぎこちない空気は残ったけれど、抱きしめあった感触がそれを曖昧なものに変えてしまっていた。
神崎くんは、コップにオレンジジュースをついで渡してくれた。
「ありがとう」
「いや」
神崎くんは、何気なくベッドに腰を下ろした。
そして、期待の眼差しでオレンジジュースを飲む私のことを見つめた。私はそれに気付いて、へら、と笑った。
「美味しい」
「よかった」
神崎くんは、嬉しそうに笑った。
そっか。ホテルで、オレンジジュースをやたら褒めたから、私がオレンジジュース好きだと思って用意しといてくれたのかも。神崎くん、優しい。嬉しい。私は思わずニヤけてしまった。
「えへへ」
笑顔を向けると、神崎くんはほうっとため息をついた。
「よかった。もしかしたら、まだ怒ってるかと思って心配してたんだ。いろいろ――」
「いろいろ?」
私が確認するように首を傾げると、神崎くんは頷いた。
「うん。ごめん。ヒロカのこと。あいつがまさかいろいろ言ってるとは知らなかった。相田さんに言われて驚いたよ。あの時追いかけなかったのは、ヒロカに問い詰めて事態を把握する方が先だと思ったからなんだ。相田さん怒ってたし――。でも、引き止めてたらあんな事にはならなかったね、ごめん」
「それは、もう謝ってくれたから、良いの。本当は、引き止めて欲しかったけど、でも、引き止めて欲しくない場合もあるかもしれないし、そこはわがまま言えない。話の途中で出て行っちゃったナナも悪いし……。ごめんなさい」
私が謝ると、神崎くんは慌てて首を振った。
「良いんだ。怒っても無理ないよ。ヒロカから聞き出した時は焦った。一応、弁解するけど、罰ゲームのことはヒロカには話してない。相田さん達がお昼休みに罰ゲームのこと話してるの聞いて、混乱して、確かにジローには相談したんだけど、それをまさかヒロカが盗み聞きしてるとは全く気付かなかった。しかもヒロカのやつ、相田さんにその件で喧嘩売るなんて。ごめんな。あいつ、俺に同情的なところがあって、昔から過剰に俺を甘やかしたがるんだ。根は悪い奴じゃないんだけど……」
「ふ~ん」
そっか。ヒロカちゃんの盗み聞きだったんだ。ヒロカちゃんに、恋愛相談してたって訳じゃなかったんだ。親友の田辺くんに相談するのは仕方ないよね。アドバイスする田辺くんが引くほどチャラ過ぎるのがちょっと心配ではあるけど。
まずは一安心。でも、一番聞きたいのはそこじゃない。
「それで?」
私は、神崎くんが話しやすいように笑顔を意識して首を傾げた。んだけど、神崎くんは何故か怯えたような顔で視線を彷徨わせた。
「それで、えっと。そう、ヒロカとキスしたって話しだけど、あれは、違うんだ」
「でも、したんでしょ?」
追求すると、神崎くんはたじろいだ。
「確かに、したのはした――というか、されたんだけど、おでこなんだ」
「おでこ!?」
おでこって、おでこ? 額?
「俺が10歳でヒロカが9歳の頃の話だ。母親を亡くしたばかりで気落ちしていた俺の気をそらそうと、子供ながらに考えたみたいだ。母さんが俺にしてるのを一度見たことがあるらしい。『ヒロカがダイチくんのままになってあげる』って言われて、おでこにキスされた」
「……」
うーん。リアクションに困る。
それ、唇にしてないんだったら、ファーストキスって言わないんじゃ?
てことは、ヒロカちゃんの嘘だったってことか。でも、おでこでもキスはキスだし、ムカつかないと言ったら嘘になるけど、9歳10歳って言ったら小学3、4年生の時の話し? だし。それに、それを言いだしたら、ナナだって元彼とキスしちゃってるし……。
「驚いたけど、キスとかそんなことになったのは、その一度きりだし。俺にとってヒロカは妹みたいなものなんだ。だけど、相田さんが嫌なら、もうヒロカには会わないよ」
きっぱりと言い切った神崎くんを、私は驚いて見つめてしまった。
「や……。それは、無理でしょ。だって田辺くんの家に行ったら会っちゃうじゃん。田辺くんの家に行くのをやめてとまでは言えないし」
神崎くんは、大真面目で答えた。
「いや、ジローとは別にどこでも会える」
私はため息をついて苦笑した。
「でも、家族みたいに想ってるってことは、やっぱり神崎くんにとって、田辺くんの家は第二の家族みたいなものなんだよ。田辺くんのお母さんとかにも会いたい訳でしょ? やっぱり、そこまで縛ることなんて出来ないよ。ヒロカちゃんとは二人きりで会ってほしくはないけどさ」
神崎くんは、安堵したようにそっとため息をはいた。
「相田さんが、それで良いなら」
くそう。ちょっと嬉しそうだな、神崎くん。
まあ、仕方がないよね。そんな『そくばっきー』な彼女になりたくないもん。
キスはおでこだったことだしさ。
それに、もう許されたみたいに安堵している神崎くんには悪いけど、本当はもうひとつ、「ナナのことを慣れてる遊び人扱いした件」についても怒ってたんだけどな。それについての謝罪はまだだ。けど、今更蒸し返す雰囲気じゃなくなっちゃったな。
仕方ないか。悩殺作戦とかしようとしたナナもナナだし。言ってなかったナナも悪いし。黙って許そう。
嬉しそうに微笑んで、そうだ、オレンジジュースおかわりいる? なんていそいそと立ち上がった神崎くんに向かって、私は口を開いた。
「その代わり、お願い聞いて!」
驚いて振り返った神崎くんは、私のことをきょとんとした目で見つめた。
「なに?」
「――天体観測に連れてって」
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
来週の火曜日から学校が始まっちゃう。夏休みのうちに行きたいね、ということになって、急遽、8月19日に出かけることになった。夏休み最後の土曜日。私が天体観測に行きたいと言ってから三日後のことだ。
午後5時に、神崎くんの最寄りの駅に集合した。
神崎くんは、暗いところに行くから全身真っ黒はやめてねとお願いしたので、白いビッグTシャツにデニムという格好だった。それにカーキ色のリュックを背負っている。私は、ボーダーのTシャツに黒いレースのビスチェを重ねて、ボトムはデニムショーパンで、歩きやすくて脱げにくいレースアップのサンダルにした。荷物は白いトートバッグひとつ。
足が出てるのを見て、神崎くんは何か言いたげな顔をしたけれど、あれくらいのことでビビっていたら、オシャレなんか出来ない。それに、神崎くんが守ってくれるから大丈夫。
それから電車に揺られること20分ちょっと。うち乗り換え一回。改札を出てから、神崎くんに案内されて徒歩20分。錦公園に着いた。あんまり早く着くものだから、驚いた。天体観測って、都内でもできるものなんだね。知らなかったな。
錦公園は、アスレチック広場やサイクリングコース、バラ園、美術館等が併設されている大きな公園だ。春には桜が満開になってお花見客で賑わうんだよ、と公園を案内しながら神崎くんが教えてくれた。じゃあ、来年は一緒に夜桜に囲まれて星を見ようねと言ったら、神崎くんは赤面して頷いた。
しばらく歩いて、神崎くんは、園内中央の芝生広場というところに案内してくれた。
その名の通り、濃い緑の広大な芝生が広がっている。空を遮るものがないから、確かにこれなら星もよく見えると思えた。
神崎くんは、リュックからレジャーシートを出すと、芝の上に広げた。ここが今日の即席の観測所だ。
「暗くなる前に、飯食おう」
「うん!」
私達は、沈む夕日を見ながら、持ってきたお弁当を広げて食べた。神崎くんがおかずを作って来てくれて、私はおにぎりを握って来た。普通、逆じゃない? 彼女がおかずを作って来るものじゃない? と思わないでもないけど、気にしない。だって、神崎くんの料理が美味しすぎるから。
照り焼きチキンにハムときゅうりのマカロニサラダ、ぷちトマト、アスパラベーコン、とベーコンポテト。ほうれん草の胡麻和え。全部、味付けが絶妙なの。
私も、一応、鮭フレークとごまの混ぜご飯を握ったおにぎりと、梅のと、昆布のと、三種類作って来た。
「うまいよ」
一口かじって、満点笑顔の神崎くん。
「そうかなっ」
二人、顔を見合わせて笑った。
今日の日没は18時26分。そろそろ、日も沈んで、辺りが暗くなって来た。
薄明かりが終わるのが、19時58分。観測に適した時間になるまで、あと一時間半も時間がある。その間、ずっと一緒にいられる。今日はまだまだ時間があるんだ。しかも、勉強しなくてもいい。どうしよう。テンション上がって来た!
コメント