春と高嶺と高貴な花

ヒウリカ

4話

おそまつな日本の授業を終えた。
私は学校に用事があるという二人と別れを告げ正門前に立つ。
音もなく私の前に止まり、運転席から降りてくる、一人の男性を待つ。


「おかえりなさいませ
お嬢様」




「ただいま」




そういった自分の声はひどくつめたく聞こえた。
私専属の執事。新しい使用人。
新しい生活を幕開けるうえでの聞こえはいいかもしれないが、私にはうっとおしく、かつ知らない人間との共同生活は息苦しいものだった。
ただの使用人。
そう割り切ってしまえばいいのだろうけれど、あいにく私はそこまで図太い精神を持ち合わせているわけではなかった。
私のテリトリーに知らない人間が急に割り込んでくるなんて、我慢ならなかった。
見た目は悪くはない。
世間一般の目で見ればイケメンの部類には入るだろう。スタイルもそれなりにいい。
けれど俗にいうようなモデル並みの、スタイルを持ち合わせているわけではなかった。芸能界だってそんなにぽっと出がぼんぼん売れるほど、甘い世界ではないだろうし。
もとの家柄がそうでもない人が財産を気づきあげるなんて、血のにじむような努力が必要なことは、カースト下位の子たちを見ていて気付いたことの一つだ。
彼は基本的に何でもできるらしく、マルチな才能を持っていた。けれど何か一つ極めているわけではない、中途半端な人間だ。きっとマルチな才能が発揮できる執事という職業は天職なのだろうとおもう。
別荘の管理はほとんど彼がしている。
親の所有するいくつかの別荘のうちの一つが、丁度良く学園の近くにあった。だからその別荘は私がもらえることになったのだ。
この別荘は私自身気に入っていたものだし。条件を聞くまでは喜んでいたのだけれど、条件を聞いてからはテンションは下がりっぱなしだった。
使用人一人を雇うこと。
私一人の優雅なライフスタイルをイメージしていた私としては大変不本意だったが、まあいいかなとも思った。
外観も内装も西洋風に作られており、庭も完璧な具合に整えられているそれは一種の芸術品か何かだ。
それを私一人で維持できるかと聞かれれば、無理だと答えるしかないので私はあきらめることにしたのだ。
爺やを連れてくればよかったのかな。
もっとおばあちゃまやおじいちゃま野よな人たちを想像していたのだけれど。
仕方ないかな。
基本的に何でもできてしまう彼は文句のつけようがないほど完璧に、隙のないような仕事ぶりを発揮していた。
そんな彼とは、よくありがちなラブロマンスは始まらないようで想像もつかないから笑ってしまう。
手持無沙汰になった私はタブレット端末をいじる。
そうして、いじっていると、丁度ぴこんっと通知音を鳴らした。
今回は新聞部ではなく、道佳からのメッセージが届いたことを告げる音がした。



「急で悪いのだけれど、明日は暇かしら?」



「何も予定は入ってないけど。」



「よかった
明日の夜七時からあなたの歓迎パーティーを開くわ。
七時に正門前に来て
ドレス着用よ」




「分かった
明日の夜七時ねえ。
最近の日本の高校生は夜遊びが激しいのかな。それだけならいいけどね。
なんかいやな香りがする。
嗅ぎ覚えのある戦争の香り」

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