砂漠王子の愛は∞!~唇から風の魔法の溺愛アラヴィアン・ラブ~

簗瀬 美梨架

第五章 ヴィーリビア無敵艦隊2

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〔民は随分な働きをしてくれた。最後に、そちらの姫巫女を我が国に戴きたい。姫巫女アイラと引き替えに、我が国は貴国との外交を締めくくるとしよう〕
「ルシュディ王子は闇と同調したとしか思えない。もはや人の心が死に絶えた悪魔だ! 民の代わりにアイラを犠牲にせざるを得なくなった!」
 シェザードの拳は悔しさと無念で震えていた。
(何という卑劣な条件を! 兄はシェザードが何を大切にしているかを見抜いている。愛おしい妹を奪えたなら、最強の人質だ。次の命令は目に見えている。絶対服従)
 ラティークは靜かに決意を固めた。もはや逃げ場はないのだと、察した。
(実兄の暗殺。暗黒の歴史に準え、僕の運命にも暗殺の文字は染みこんでいる)
「僕に任せて貰えますか? 最悪、ラヴィアンに戻り、兄の暗殺も辞さない」
 シェザードはラティークに、何も告げず、最後に、無残に闇に堕とされた輝石を差し出した。
「妹に持たせるわけには行かない。どうやら貴方は妹に並ならぬ愛情を抱えている様だ。悪いようにはしないだろう? 妹も、また貴方を信頼している」
 ラティークははにかんだ。指で黒い包みをそっと解いた。食い荒らされた美しき輝石は魔の石に変貌していた。しかし、少しだけ色づいたように見えるは錯覚だろうか。
 大切そうにアイラが抱き締めていた姿が浮かぶ。癒やせる奇跡はきっとある。
(ルシュディは何かを隠している。子供の精霊と契約した僕も似たようなものだが)
 大切な約束とともに転がり出た風の精霊は、役目を果たしているだろうか。ラティークは元通りに宝石を包み直した。
「一つ、お願いがあるのですが。緑色の虎がウロウロするかも知れません。妹さんの持つランプは私が預けたもの。決して危害は加えません」
「見た。手足が白く、尻尾がふわふわしていた。なぜ妹に風の精霊がと思ったが、記憶違いだったようだ。貴方の飼い猫かな? ならば私が口を出す問題ではないな」
 ラティークはシェザードの機転と男気に感謝しつつ、会談を終えた。
 衛兵に見張られて、正門を出る時、離宮が見えたが、水の精霊が張り付いていて、中は窺えなかった。
〝人の心を捨てた悪魔〟シェザートとの会話を反芻した。闇に染まった兄が民を惨殺する可能性もあるだろう。暗黒時代の王族に倣い、ラヴィアンは文字通り、闇に包まれる事態になる。
(どうしても、言えなかった。愛した相手が絶望に染まるなど、みたくもない。普通の心だろう? 誰も不幸など望まないんだよ。兄貴。望むとすれば、もはやそれは人ではない。その場合は、僕の手でやるしかない)
 更に、アイラは民と引き替えと聞いたら、迷わずにラヴィアンに向かうに違いない。
 扉の向こうの民を救えないと号泣した姿は記憶に新しい。機会は逃さないはずだ。
 水の精霊たちが、遠巻きにラティークを見ては、怯えるように逃げて行く。
「どうしたら君たちはラヴィアンに戻って来る。どうか一緒に……」
 隠れていた水の精霊たちは集団でふいっと通り過ぎた。
 ラティークの呟きに呼応する如く、水飛沫だけが優しく舞い続けた。

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