砂漠王子の愛は∞!~唇から風の魔法の溺愛アラヴィアン・ラブ~

簗瀬 美梨架

第三章 第一宮殿8

 アリザムと合流し、砂漠を進むも、砂風が邪魔をして視界を遮り始め、ラティークは駱駝を止めた。
(凄い砂の嵐……砂が波のよう)とアイラはラティークのマントの影から景色を窺う。
「風が出て来た。風には風だ。おい、起きろ、シハーヴ、出て来い、仕事だ」
 ラティークが、ゴン! とランプを殴ると、子供姿のシハーヴが現れた。「精霊!」と驚きで目を瞠ったアリザムには構わず、ラティークは駱駝から降りて、シハーヴの子供目線に合わせてしゃがみこんだ。シハーヴはむっとラティークを睨んでいた。
「なんだよ。出てくんなって言ったくせに。殴って喚ぶの、止めろってば」
「長い昼寝だっただろう。風に乗せて僕らをまとめて飛ばせ」
 シハーヴはそっぽを向いた。耳飾りを揺らして簡単に降参した。
「無~理。重さに耐えられないし、命の保障はできない」
「何とかしろよ、精霊なんだから」ラティークは精霊には横柄な口調になる。シハーヴは唇を尖らせたが、「そうだ! 風のじーさんなら」とすぐに砂漠に向いた。
「じーさん……じーさーーーーん! 横暴な主人が無理を言うんだーっ! 助けて」
「横暴?」とラティークが眉を寄せ始めた。
(あ、シハーヴに以前聞いた。砂漠で現役を退いた風の爺さんが働いていると言っていた。主もない砂漠の砂を動かし、砂船を操っている魔神さんがいるって)
 ゴゴゴゴゴゴゴ。砂漠が大きく揺れて、緑の山がヌッと現れた。(ひぃっ)と身を縮こませた前で、むくりと起き上がった毛むくじゃらはあっふと大きな欠伸をした。
(本当にいた)と驚きを隠せないアイラの前で、爺さんはゆっくりと喋った。
「風のォ小僧ォやないかァ~。人のォ就寝邪魔しよってェからに。寝ろォ、寝ろォ」
「じーさん。砂、動かして。ぼくはまだ飛べないのに、ヒドイ主人が無茶を言う」
「おまえさんがァ船をォ操ればァえェえ話やァ。風は押さえられるがのォ~」
「精々敷物くらいしか浮かせないよ! 絨毯一枚がせいぜいだ」
「それでええわ。座れりゃ運んでいけるやろ。ほな、何かないかねェ。おやァ」
 毛むくじゃらがアイラを見て、「水のオンナは美人やねェ」目をぱちくりした。アイラもぺこりと頭を下げた。ラティークも軽く頭を下げた。
「就寝中すまない。こいつが未熟なために、迷惑を。アリザム、じろじろ見るな」
「ええよ、ええよ。風は儂と、この小僧しかここにおらんようだ。皆散ってしもた。昔はようゥ、土をバラして、風の子らが遊んでおったが、誰も砂漠に寄りつかん」
 どこからか、汚れた大きな布が飛んできた。見覚えがある。
「第一宮殿の、玄関の絨毯の一部です。またルシュディ様に喧嘩を売りましたね」
 アリザムが冷静に答えた。まさかと思いつつ、絨毯に足を乗せた。
「ほないこか。本来は金取るんやけどまあ同じ風のよしみでな。次回からはいただくで。そこの光の兄ちゃん、覚えとき。たんまり払ってもらうでぇあんじょうきばりや!」
 風の爺は商談口調で早口になって、砂漠に潜っていった。
 座って目線が下がるなり、ハイエナたちがニヤニヤとこちらを見ている光景に気付いて、アイラはラティークの腕を突いた。
「ねえ、ラティーク。あたしたちを狙ってるのかな。見て。たくさんいる……」
「ああ、ハイエナ。大丈夫。あいつらは死体以外には食いつかない」
 絨毯がのそりと動き出した。と思うと、砂漠の砂が一気に流れ出した。絨毯は砂波に乗って、まさに波乗りの如く、進み始めた。
「すごいな、おまえ。ちゃんと浮いてる」
「話かけんな! 大人なら、空を飛べるんだけど、無理だ。じいさん、ちょっと、早!」
 絨毯は砂すれすれに浮かび、地表から噴き上げる風の威力で進んでいる感じだ。
 風の爺さんが砂漠に風を自由自在に吹かせて、帆を受けて進めていたのではない。
(風の魔神の力で進んでいたんだ。あの砂船。そうよね。海の船も風で進むし)
「もうちょっと右だ。爺さん、西方面へ」絨毯は夜の砂漠を滑るように走って行った。

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