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退屈
私は裕福な家庭で育った。
父と母は私を可愛がり愛情を注いでくれた。
特に母は一緒に居ない時がないほどに愛情を注いでくれた。
だが、母は元々生まれつき体が弱い体質であり、私が5歳の頃に他界してしまった。
さらに、母が亡くなった日を境にして父の態度が急変した。今まで愛情を注いでくれていたのが一変し、まるで邪魔者でも扱うかのような態度になった。
私の世話のほとんど全てを家で雇った使用人に任せ、顔すら合わせることさえしなくなっていった。
ある日、私が夜中にトイレへ行こうと父がいる書斎の前を通り過ぎようとしたとき、少しだけドアが開いており、中の声が私の耳へと届いた。
「―――———」
「―――———本当に邪魔な娘だよ。いや、娘だなんて思ったことは一度もないな。私が本当に愛していたのは妻だけさ。妻があれのことを愛していたから仕方なく私が育てているだけさ」
(そんな……)
―――———そう、父が愛していたのは私の母であり、私ではなかった。それ以前に父に娘とさえ認識されていなかった。いや、本当は気づいていた。母が死んでから父が私を遠ざけるようにした日から、もしかしたらそうなんじゃないかと。それを頭の片隅に追いやり考えないようにしていた。
私は零れ落ちそうになる涙を必死に堪えながら必死で自分の部屋へ逃げ込んだ。
「誰かいたのかね?」
「……いや、誰もいないな」
父が書斎から顔を出し、辺りをキョロキョロと見渡す。
自分の部屋へと戻ってきた私は堪えきれなくなり、ベッドにうずくまり一晩中泣き続けた。翌朝、部屋から出てきた私を見た使用人は、私の泣き腫らした顔を見て驚き心配してくれた。
父の言葉により娘だと思われていないことを自覚した私は諦めずに、父に認めてもらおうと必死で書道や茶道などの様々な習い事をした。幸い、私は物覚えが良く周りも驚くほどの勢いでそれらを習得していった。
数年が経過した後、私は有名なお嬢様学校へと進学した。
成績でトップを収めるが、それでも父が私に対する態度は変わることがなく、娘だと認めてもらえなかった。
それでも諦めずに父に認めてもらおうと必死に様々なことに手を付けた。
だが、数か月後に父が病気により急死した。
母が死んだストレスにより毎日お酒を暴飲していた結果、心筋梗塞により亡くなってしまった。
私にとって父は小さいころからの娘として認めてもらうための生きる目標であったため、それを失った私はどうやって生きていけば良いのかわからなくなってしまった。
父の遺言により、頭の良さや容量の良さだけは父に買われていた私は15歳という若さで父が経営していた会社の後を継いで社長となった。
——淡々と仕事をこなして過ごす日々。何も考えずにただひたすら仕事をこなすことで満たされない飢えを誤魔化そうとした。
何気ない思い付きで新開発した商品が成功し、会社の売り上げが伸びた。
(つまらない)
海外へと進出し、海外の企業と一緒に新たな事業を成功させたことにより、世界でも有数の企業となる。
(退屈……)
わずか数年で世界一の企業とまでいわれるようになり、世界の国々の重鎮達と対等に話せる立場まで昇り詰める。
(満たされない…)
——そんなある日、私はふとあるものを目にする。
(〈LWO〉?…最近流行りのフルダイブ型MMORPGか)
小さいころは全くゲームをやらなかったので試しに遊んでみるのも一興かと思い買ってみた。
私は早速ゲームを始めてみる。
キャラクタークリエイトを終えた私は〈LWO〉の世界へと降り立つ。
最初は初心者らしく初めて見る敵、初めて戦う感覚に戸惑い、面白いと感じた。
だが、私の飢えは満たされない。
レベル上げをしている最中に突然、水魔法と風魔法のスキルがユニークスキル【《絶対零度》】へと昇華した。
【《絶対零度》】を持つものは絶対零度のあまりの冷たさにより、そのスキルを保有するものからも冷気が発せられる。そのため、周りの人や物を凍らせてしまう。
 何回かPKに襲われたり決闘を申し込まれたりしたことがあり、その都度一瞬にして氷漬けにして、それを無表情のまま行う様から[氷の魔女]と呼ばれるようになった。
◇
そして今、目の前には巨大な氷の塊となっている対戦相手がいた。
『な、なんとあのガルド選手までも一瞬にして氷漬けにしてしまったぁぁぁぁぁ!』
『恐ろしいほど強いわね、彼女』
『あまりの冷気に私、凍えてしまいそうです!』
(未だ私の飢えは満たされない、どうすればこの飢えは治まるのか…)
氷漬けとなっている対戦相手を一瞥した後、興味をなくした私はその場を去った。
 
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