召喚チート付きで異世界に飛ばされたので、とりあえず俺を転移させた女神さまを召喚することにしました

触手マスター佐堂@美少女

第26話 顔合わせ


「……で、これはどういうことなんです?」

 公衆浴場の前で待ちぼうけにしていたフィンを捕まえ、近くの酒場に入って腰を落ち着けてから開口一番に彼女の口から出たのは、そんな言葉だった。
 訝しげに瞳を揺らすフィンの様子に、俺は戸惑いを隠せない。
 記憶にある限り、彼女のそんな姿を見たのはこれが初めてだった。

「……あー。話せば長くなるんだけど」

 もちろんフィンには話さないわけにもいかないだろう。
 それはこれから先も共に旅を続けていく以上、避けては通れない問題だからだ。

「あなたがこの店の店主ね。この店で出せる一番いいお酒を頂戴。あと美味しいおつまみも一緒にね」
「それはいいが嬢ちゃん、金は持ってるのかい?」
「大丈夫よ。あそこにいる男が全額出してくれるから」
「そうか。ならいいんだが」

 いやよくねえよ。

 俺とフィンの視線の先。
 そこには、カウンター席に座り傲慢不遜な態度で店主に高額な注文を頼む、一人の女神の姿があった。

「というか何勝手に頼んでるんだ!? 言っとくけどそんな金ないからな!」
「何よ、ケチくさいわね。このルナと契約するんだから、それくらい当たり前でしょう?」

 ルナは冷ややかな微笑を浮かべながら、馬鹿にしたような目で俺を見る。
 こいつ……。
 というかなんで店の中まで一緒に入ってきたのに、一人だけカウンター席に腰掛けているのだろうか。そのあたりからして謎だ。

 ルナのことはひとまず放置しておき、俺はフィンと向き合う。
 フィンは相変わらず、カウンター席に腰掛けるルナのほうを見ている。
 その目の中にある感情は、強い困惑だ。

 俺はフィンにこれまでにあったことを話した。
 先に公衆浴場から出ると、ガレウスに会ったこと。
 ガレウスが紹介したいと言って連れてきた女が、魔王軍の幹部、ディアナだったこと。
 ディアナと彼女が操る男たちに狙われて、命からがら逃げ出したこと。
 追い詰められた末に月の女神ルナを召喚して、彼女の活躍によってディアナと彼女が操る男たちを撃退できたこと。

「なるほど……だいたいの話はわかりました」

 全てを話し終えると、フィンは困惑したような表情をしていた。
 それはそうだろう。
 突然魔王軍の幹部に襲われて女神を召喚したと言っても、普通なら信じてなどもらえず、馬鹿にされるのが関の山だ。

「し、信じてくれるのか?」
「ソーマさんがそんな嘘をつく理由もなさそうですし……。何より、実際にすぐそこにいらっしゃいますし」

 しかし、ここにはその証拠である月の女神ルナがいる。
 どんなに荒唐無稽な話だとしても、実際に彼女がいるのだから目の前の現実を否定しきることは難しいかもしれない。

 とはいえ、それでも普通なら笑われて終わりだ。
 フィンは俺のことを信じてくれているから、こんな話も信じてくれるのだ。
 フィンからの信頼が、今はとても嬉しかった。

「そうか……。ありがとう、フィン」
「い、いえ。そんなお礼を言われるようなことでも」

 俺がお礼の言葉を言うと、フィンは慌てて手をブンブンと振る。
 その顔は少し赤くなっている。
 まだ酒は入っていないはずだが。

「でも、よく女神さまなんて召喚できましたね……。私の知る限り、そんな話は聞いたことがありませんよ……それこそ初代勇者の伝説くらいでしょうか」
「やっぱ女神っていうのは召喚するのが難しいものなのか?」
「いや、普通に考えてできるはずがないというか……。逆になんで召喚できたんですかソーマさん……?」

 そう言いながらフィンは苦笑する。
 そんなことを言われても俺にもわからない。

 召喚士としてのレベルが低い俺でも召喚できたのだから、案外チョロいのではないかという気さえしている。
 声に出したらルナがうるさくなりそうなので言わないが。

「そこに関してだけはルナも手放しで褒めてあげてもいいわ。ルナの知る限りでも、女神を召喚するだなんていうバカげたことをやってのけたのは初代勇者だけだから」

 言いながら、片手にグラスを持ったルナが俺の横に腰掛ける。
 その顔はほんのりと赤くなっている。
 俺の制止はむなしく、しっかりと高級な酒を頼んでしまったようだ。

「おい、ほんとに金にはあまり余裕がないんだ。頼むからそれ以上は勘弁してくれ……」
「さっきから何を言ってるんだか。持ってないはずないでしょ。あんたの前世での財産は、こちらの通貨に――ぐむっ!?」

 俺は慌てて左手でルナの口を塞いだ。
 不思議そうな顔で俺を見るフィンに背を向け、俺はルナを引き寄せて耳打ちする。

「ちょっと! 何するのよ!」
「異世界から来たとか、その辺の事情はまだフィンに話してないんだ」
「はぁ? なんでよ?」
「……それは」

 本音を言ってしまえば、怖いのだ。
 本当のことを言って、フィンに拒絶されるのが怖い。
 だが、それを今ルナに言うのも情けない気がした。

 ルナの真紅の瞳が俺の目を見据えている。
 その奥底に見える強い光に、まるで全てを見透かされているような気がする。

「わかった。しばらくは黙っててあげる」
「……悪いな。ありがとう」

 やがてルナはそう言った。
 やれやれといった様子で片目を閉じ、軽く息を吐いている。
 多分バレてるなこれは……。

「あと、ほんとに金は無いぞ。俺が転移してきたときに所持金は確認したけど、一ディールたりとも無かったからな」
「……それほんとなの?」
「ああ。間違いない」

 最初に確認したときは、たしかに一ディールたりとも持っていなかったはずだ。
 ルナの反応を見る限り、所持金のほうもある程度変換してくれるのが普通なのだろう。
 変なところで親切だな。

「おかしいわね……。森の中に転移させられてたことといい、色々と手違いが多いみたい」
「まあ別にいいさ。その代わりなのかはわからないけど、精霊石は死ぬほどあったしな」

 あれだけ精霊石があれば、食っていくには困らないだろう。
 そのためには、召喚でまともな武器や防具を出せるようになるレベルまで持っていくことが必要にはなるが。

「精霊石? もしかして、あんたが召喚士だからそっちの方に偏らせたのかしら……?」
「なるほど。その可能性はあるな」

 そこまで考えて親切にしてくれていたのだとしたら、感謝の念は絶えない。
 本当のところはわからないが。

「精霊石はどれくらいあるの?」
「えっと、たしか57億くらい?」
「はぁ!?」

 ルナが素っ頓狂な声をあげる。
 いけない。普通に答えてしまった。

 幸いにも、店の中はそれなりに賑わっているため、ルナの声が客たちの注目を集めたりすることはなかった。
 そんな俺の内心などいざ知らず、ルナは頭を抱えている。

「……あんた、今日は何回召喚したの?」
「今日? えーと、たしか九回、かな?」

 朝に四回、ディアナから逃げる時に一回、逃走中に三回、ルナを召喚したときに一回。のはずだ。

「……なんだ。それくらいなら大丈夫ね」

 俺の言葉を聞いたルナは、どこか安心したような表情を見せた。

「明日からもそれくらいの数を維持したほうがいいわ。召喚のしすぎは、その……身体に悪いから」
「そうなのか? まあルナがそう言うなら」

 ルナの反応を見る限り、召喚のしすぎには何かとんでもないデメリットがあるのではないか。
 そう思わずにはいられなかったが、怖くてそれ以上は聞けなかった。

「まあ、ルナがいれば危ないときに召喚したりする必要もなさそうだからな。頼りにしてるぜ」
「……あー。そのことなんだけど」

 ルナはものすごく微妙な表情をしている。
 何か変なことを言っただろうか。

「……ルナが全力を発揮できるのは、満月の夜だけなのよ」
「……えっ」

 ということは、何だ。

「……ちなみに、それ以外の日は?」
「だ、大丈夫よ! なんとかなるわ!」

 俺がそれに言及しようとすると、ルナは露骨に言葉を濁した。
 その姿に言いようのない不安を感じながらも、俺にはどうすることもできない。

「大丈夫ですよ! 私もソーマさんとルナさんを守りますから!」
「ふふ、ありがとう。頼りにさせてもらうわね」
「グラスを傾けながら優雅に笑ってる場合か! あと事実だとしてもフィンが俺まで守るってのは俺がカッコ悪すぎるからね!」

 そんな風に騒ぎながら、俺たちの顔合わせの時間は過ぎていった。



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