召喚チート付きで異世界に飛ばされたので、とりあえず俺を転移させた女神さまを召喚することにしました

触手マスター佐堂@美少女

第4話 精霊石さんが何をしたというのだ


「ふざけんなよマジで……!」

 アテにしていたガチャが思いのほかひどいという結果に、菩薩と呼ばれたことがあるような気がする俺もさすがにブチ切れた。
 握りしめた木の棒を思いきり地面に叩きつける。
 木の棒はポキリと折れた。

「ふーっ、ふーっ、ふーっ……。いや、落ち着け俺」

 こんなことで大事な(?)木の棒を粗末にしてはいけない。
 木の棒だって立派な資源だ。
 武器にはならないかもしれないが、ないよりはマシだろう。

「……よく見たらけっこういい木だな」

 持ち上げてみると軽く、よく乾燥している。
 薪などに使う分にはなかなか良さそうだ。
 ガチャの外れ枠にしてはひどいけどな!

「あ、そうだ」

 そういえば、観察眼のスキルがあるのを忘れていた。
 観察眼のスキルを発動させ、試しに木の棒を見てみる。



 木の棒



 木の棒のすぐ上に、そんな文字が表示されていた。
 周りの木や植物も見てみたが、特に何かが表示されるということはない。

「……うん」

 俺は観察眼のスキルを解除する。
 なんかもう色々とダメな気がしてきた。

「そういえば、精霊石はいくつ減ったんだ?」

 ガチャを引くのに必要な精霊石の数は、どこにも書かれていない。
 精霊石の数を確認してみると、しっかり3つ減っていた。
 消費数30分の1が発動していたとすると、一度のガチャで使う精霊石の数は30個ということになるか。

「え。ということは、石30個で木の棒1本分の価値しかないのか……?」

 この世界における精霊石の価値に疑問が出てきた。
 ジンバブエドルみたいなものだったら、神の眉間にデコピンの一発でもぶち込まなければ気が済まない。

 だが、俺の召喚方法が間違っている可能性もある。
 判断するのはまだ早いか。
 というか、そうでも思っておかないと発狂しそうだ。
 SAN値の減りが激しすぎる。

 とにかく、この世界のことがまだ何もわからないのが問題だ。
 早く人がいるところに行かなければ。

「なんだ? 身体が重い……?」

 そう思い歩き出すと、大きな倦怠感が全身を包んでいることに気づいた。
 一歩歩くだけでも一苦労だ。

 ずっと引きこもりだったせいで、ここまで体力が落ちるものだろうか。
 さすがに一歩踏み出しただけでこれでは、水や食料を見つける前に干からびて死ぬのではないか。

「あ」

 これはもしかしてアレか。
 魔力切れというやつか。

 ガチャを回すにも魔力が必要なのだろうか。
 可能性はある。
 クソ、こんなことなら三回もガチャを回すんじゃなかったな……。
 全部木の棒だったし……。

 重い体に鞭を打ち、なんとか歩き始める。
 考えてみれば、こんな森の中を一人で歩くのは初めてかもしれない。
 最近はともかく、小学生の頃はよく友達と一緒に冒険に出かけたものだ。

 だが、ここは現代の日本などよりもはるかに危険な異世界。
 いつどこでどんな生物が現れても不思議ではない。
 ある程度の警戒をしながらも、先へ進む。

 不意に、森が開けた。

「道があるな」

 森の中に、明らかに人工のものと思われる道があった。
 人工といっても地面はただの土だが。
 幅は十メートルくらいだろうか。
 結構な広さだ。

 道のど真ん中に出てきてしまったので、左右にそれぞれ道が伸びている。
 どちらの道もかなり長いのか、遠くのほうは見えない。
 右と左、どちらに進むべきか。

 道が続いているということは、この先に人が住んでいる場所があるということだ。
 二つの道がどこに続いているのかわからない以上、悩むだけ無駄か。
 俺がそんなことを考えていた、そのときだった。



「きゃぁぁあああああ!!!」



 大きな叫び声が木霊した。
 女性の声だ。

 人が見つかったのはありがたいが、何かトラブルに巻き込まれているようだ。
 慌てて声の主を探す。

「なんだありゃ?」

 声のした方をよく見ると、何か籠のようなものが転がっている。
 その近くで、少女が一人うつぶせで倒れていた。

「ひっ……!」

 そして、何か植物の蔓のようなものが少女の身体に絡みついている。
 どうやら道中であれに襲われたようだ。

 蔓の根元は森のほうへと続いていた。
 おそらく、この世界特有の生物の仕業だろう。

 蔓に絡め取られながら、彼女の身体は森の方に向かって動いていた。
 まるで何かが彼女を森の中へ引きずり込もうとしているかのような、ゆっくりとした不自然な動きだ。

「たっ、助けてください!!」

 俺の姿を見つけた少女が、必死の表情で叫ぶ。
 放置しておけば彼女がどんな目に遭うのか、容易に想像がついた。
 見過ごすわけにはいかない。

「待ってろ!」

 少女のもとに駆け寄り、蔓を握って引っ張った。
 しかし、蔓はビクともしない。
 そうしている間にも、少女の身体はどんどん森のほうへと引きずられていく。

「あぁ……嫌っ!」
「チッ、ダメか!」

 少女の悲痛な叫び声に、俺の表情も強張る。
 圧倒的なパワーを持つ化け物に、俺みたいな引きこもりが敵うわけがない。
 正攻法では無理だ。
 ならばどうするか。

「……! そうだ!」

 どうか、何かわかりますように。
 そんな祈りを込めて、俺は観察眼を使った。



 テンタクルフラワーLv.6


 弱点:火属性

 強い光に弱く、日中は動きが鈍くなる。



 観察眼Lv.1でも、それの名前とだいたいの弱点くらいはわかるようだ。
 そして、今はそれがわかれば十分だった。

 たしかに、ここは木の陰になっている。
 強い光に弱いというのなら、突破口はある。

「――召喚」
「えっ?」

 その言葉を唱えた瞬間、俺の右手が眩い光を放った。
 それと同時に、少女の身体を引きずっていた蔓の動きがピタリと止まる。

 本来の召喚とはかけ離れた使い方だが、仕方ない。
 価値のわからない精霊石よりも、少女の命のほうがはるかに大事だ。

「よし、これで!」

 俺は再び少女に絡みついた蔓を取ろうとしたが、なかなかうまくいかない。
 だが足元に、一本の剣が落ちているのに気が付いた。



 石の剣



 何の変哲もない、ただの石剣だ。
 しかし、それは俺にとって重大な意味を持つ。

 俺がガチャで召喚できるのは、木の棒だけではなかったのだ。

「あいッ変わらずのドブガチャだな! けどこれなら……!」

 拾い上げて蔓を切り付けるが、石の剣というだけはあって無駄に重く、切れ味はまったくと言っていいほどない。
 だが、切るだけが剣の使い方ではない。
 俺はそれを、道を這っているテンタクルフラワーの蔓に向けて思い切り叩きつけた。

「ギエェェェェェェェェ!!」

 遠くのほうから、おぞましい声が聞こえてきた。
 同時に、少女を縛っていた蔓の拘束が緩む。

「今だ! 走れ!」
「はっ、はい!」

 少女の手を握りしめて、俺は駆け出した。




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