異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

消失する獣と爆誕する紳士

「持ってきたわよ~」
コロッセオの上空から酉に乗ってやってきたパサルにゼロ達は驚きを隠せずにいたが…どうやはマキにはこうなる事はわかっていたようで、特に焦りもせず落ち着いていた

パサルはアルカを持ち上げて、アルカゴトマキに手渡すと…マキは特に見る間もなく絵札を手に持ちその辺に捨て去る

「この絵札を持ってるとどうなるかわかってるからな、あの時普通にコイツが持って来たから審査する必要も無くハズレなんだよ」
マキのその言葉は、全速力で走ってきたアルカの努力が水泡に帰すのに充分なものであった


そんな和やかなムードがコロッセオ内を満たしていた時、マキは突然何か巨大な魔力の固まりを感じ身体が震え始める

「これは…なんだ…」
マキはそう言って辺りを見渡すし、魔力の塊の発生源を見つける
それはユートが造り出した壁の向こうであった

マキは壁の中にいる筈の十二神獣と脳内で直接話す事ができる為、中で何が起きているのか聞いてみると…通信に答えたのは子一匹だけであった

『…マキ…様…このままでは…ニュクス…が…』

子はそう言い残すと、完全に消滅してしまった
召喚獣である十二神獣達は生物学的に死ねば、自動的に自身が元いた場所、魔法学的には『座』と呼ばれる場所に回帰する為ある程度待てば魔力が回復し生き返るのだが…子やその場にいた十二神獣達は『座』に帰る間もなく消滅させられた為…もう二度と呼び出すことは出来なくなった

「…っ!!ゲームは一旦中断だ!」
マキがそう言うと当然観客達からは野次が飛んでくる、女王の宣言では仕方が無いが…完全に熱が冷めてしまい観客達も帰っていく


そんな時、ユートが造った壁の向こうから何やら高速で光を帯びた物体がコロッセオに向けて飛んできた

コロッセオに降り立ったそれは…アルカ達は初見であるがスグに誰かわかった
ユートが『雷光化フルミネ』を発動させて高速ならぬ光速で飛んできたのだ

「でも…あれって確か…」
聞いた話ではこの『雷光化フルミネ』は魔法である筈である
他の物が魔法を展開させようとするが…やはりニュクス全体に張られた結界により行使することは出来ない

「どういう事だ…ユート、お前は一体何をした」
マキはそう詰め寄るが…次の瞬間、ユートが手に持っていた槍でマキの急所目掛けて突いてきた

マキは何とか視界の隅でその攻撃を捉えられな為、急所からはずらす事は出来たが…出血が多くその場に膝をついてしまう

「ユート!一体何をしているのですか」
アルカはそう言ってユートに近寄り始める、アルカは自分なら間違ってもユートには攻撃されないと確信していた為に安易に近づいてしまった

だが…その考えも虚しく…ユートは躊躇いなくアルカを刺そうと槍を振るうが、何とかパサルが間に入りその攻撃を阻止する

「…ユー…ト…?」
アルカも自分の目の前で何が起こったのか理解が出来なかった、ユートは自分達にお仕置きはする物の…それは愛情が根源にあるものであり、決して殺めるなんて事はしてこない

だが…今の攻撃は、完全にアルカを殺す為の突きであった

「アナタ…ユートちゃんじゃないわね?本物のユートは何処にやったの?ユートちゃんがこんな事する訳ないから」 
パサルはユートの形をしたそれに話し掛けるが…返ってきたのは予想を遥かに凌駕するものであった

『何言ってやがる、俺の顔を忘れたのか?パサルがそんな奴だとは思わなかったぞ…』
ユートの声、ユートの言葉、ユートの口調
それは完全に疑わしくもなくユートの筈なのだが…その瞳は…家族に向ける暖かい瞳は枯れているという表現が最もあっているだろう


『…先程からその獣人を見ていると胸が熱くなる…邪魔だ…邪魔な感覚だ…神たる俺に不要な感覚だ…消さなければ…完璧になるにはその獣人を消さなければ…』
それはそう言うと、パサルから一旦離れ『飛翔フライ』を使い飛び上がる

その後、槍を大きく振りかぶりアルカの心臓目掛けて一直線に投げる
パサルやゼロがその間に入り槍を止めようとするが…それの放った槍はアルカ以外の者には触れる事は出来ず透過してしまう魔法の『虚化ホロウカ』、受け止める事が出来なかった

『終わりだ、これで俺は完璧な存在にまた一歩近づける』
それは声高らかに笑いだし、アルカを見下す
そんな奴を見上げていたアルカは…最後に一粒の涙を零しこう呟いた

「あんなの…ユートじゃない…」
アルカはそう言って目を瞑り…死ぬという事を目前にまるで世界が止まったように感じ、今までの思い出が振り返っていく

___迷いの森で初めて出会い、ヨロイスネーク戦で圧倒的な強さを見せつつ助けられ…そこで自覚した生まれて初めての恋心
初めてのプロポーズは大胆にも人前でやられたのは相当驚いたけど…その日の夜は互いに熱が出て寝不足になってしまった
イリーナさんのスキルで取り付けた結婚の約束、初めは結婚生活なんて送れるか不安だったけど周りの人の支えで何とかこなしてこれた


「なんで至高の存在ヨウジョを泣かせる様なことをしてるんだ?詳しく僕に話を聞かせてもらいたいものだね」
それが放った虚化ホロウカの魔法がかかった槍を片手で柄を掴み、アルカに当たる寸前で受け止めた男がいた

「あ…アナタは…」
アルカはそう声を掛けると、突然目の前に一人の女の子が出現し、その場にいたマキや十二神獣以外の者達に触れ消していった

「アルカお姉ちゃん、一先ず避難するよ」
リリカはそう言ってアルカを抱き締めるように触れると…二人揃ってその場から消え失せた

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