怒れる妻と叫びの妻と

ユートは獣人族の男を引連れて館に帰ってきた

｢今帰ったぞ～｣
ユートが扉を開くと毎度恒例の如く子ども達が突進してくるだろうと高を括っていたが…突っ込んで来たのはアルカ一人であった

｢ユート！私達のシュークリームは？どこにも無さそうですが!?｣
アルカは頬を膨らませながら可愛らしく怒っている
その姿にユートは頬を緩ませてしまう

｢あぁちょっと色々あってな…お前に客だ｣
ユートはそう言ってアルカに後ろにいる獣人族の男を紹介しようとすると突然二階から矢が降り注いできた

ユートはアルカを庇いながら全ての矢を風属性魔法で吹き飛ばす

｢ユート殿…遅いでは無いか…｣
イリーナが二階の窓から弓を構えて第2波を開始しようとしている姿が見える
その表情はアルカとは正反対に見せる本気で怒っている顔…冷徹にして冷酷に、そして鋭い眼でユートを睨みつけていた


｢お…落ち着けイリーナ！俺が悪かった！だが客人の前だ！今はとりあえずその弓をしまって…な？｣
ユートのその言葉にイリーナは数秒の間黙り込んだ後に弓を下ろした
ユートが胸を撫で下ろしているとイリーナはハンドシグナルで一言残して館の中へ戻っていった

その内容をわかりやすく要約すると
(後でじっくりと話があるからよろしく頼むぞ…ユート殿)
ハンドシグナルを知らないアルカ達からしたら何をしているかわからず首をかしげているがでユートは静かにその時は死を覚悟していた

｢それでユート、お客様というのは？｣
アルカがそう聞くと同時に獣人族の男は紹介される前にアルカの目の前に飛び出し跪く

｢アルカ様！お久しぶりでござる…小生はニュクスにいる母上様と父上様に命じられアルカ様をニュクスまでお連れしろとの事でござる｣
｢ささ、アルカ様！小生と共にニュクスに戻るでござる｣
獣人族の男はそう言って顔を上げるがアルカの表情は予想外のものであった
その表情を例えるならば…街中でいきなり声をかけられた時にこの人知り合いだっけと必死に記憶の中から思い出そうとしているようだった

｢あの～…どちら様ですか？｣
アルカはどうやらこの獣人族の男について何も覚えて無いようだった

｢なっ！小生をお忘れでござるか!?…あぁそうでござった、小生はアルカ様と会う時にはいつも首にバンダナを巻いていたでござる…｣
｢恩人殿、とても恐縮でござるがバンダナをお持ちでないでござるか？｣
獣人族の男がユートにそう聞いてきた為、ユートは自分の服を一部切り取り『錬成士アルケミスト』でバンダナを錬成した

｢アルカ様、これで小生の事を思い出して「どちら様ですか？」｣
アルカの返答は変わらなかった…獣人族の男は目に見える様に落ち込む

｢まぁ…仕方の無い事でござった…アルカ様は『生命遊戯リヘロゲーム』によって…｣
そこまで言うと獣人族の男の首筋にアルカの双剣デュアルパラリシスのヒヤリとした金属の温度が脳に伝わる

｢今すぐ私の目の前から失せてください…その単語を聞いただけで…寒気がします！吐き気がします！｣
｢私がまだ冷静な内に…早く消えてください!!!｣
アルカはそう声を荒らげながら双剣デュアルパラリシスを振り上げ獣人族の男の首と銅を切り分けようとするが…ユートがそれを阻止した

｢はぁ…とりあえず二人共落ち着け、アルカも冷静になれお前らしくないぞ…二人共、一旦中に入ってお茶でも飲んで話し合え…イリーナに何とか話はつけておくからさ｣
ユートのその説得にアルカは双剣デュアルパラリシスを鞘に収め館の客室に向かって消えていった

｢…アルカ様｣
獣人族の男はそう呟いて中に入っていった
ユートはそんな後ろ姿を見て若干の後悔があった…

本当に二人を合わせて良かったのか？
本当はこのままあの男を帰らせた方が良かったのか？
そんな考えが脳内を巡り巡って行くが…ユートは大きくため息をついてその考えを一旦保留にした…なぜなら…この後にイリーナのお説教が待っているのだから…

ユートは重い足取りで館の中に入っていった