命の恩人と言葉の重み

ユートと獣人族の男が転移ワープした先はユースティア王国を少し離れた場所にある平原だった

地面に横たわる獣人族の男に魔力を流し込む
｢…見様見真似みようみまねだから上手くできるかわからねぇが…これじゃないと治せそうにないからな…｣

『ー神の祝福ゴッドブレッシングー』
ユートが初めて見た魔法であり…その回復量は人間業では無い
まさ神が与える祝福の様に死んだ人間も生き返る…らしいのだがアルトはどうしてもその魔法を教えてくれないし…何故か『魔法創造クリエイトマジック』でも作れなかった為
ユートが自己流に作り上げた

獣人族の男の無かった腕や足が再生して焼け爛れた肌も治っていき…肌に色艶が出来てきた
しばらく両手を動かした後、立ち上がりユートに対して正座をして土下座する

｢このような高度な回復魔法を小生の様な男に使ってもらい誠に感謝するでござる…この御恩はいつか必ず…｣
｢…解放までして頂き…さらにはこの様に元の状態に戻して頂きましたが…小生にはやらなければいけない使命があるのでござる…だから…｣

獣人族の男がそこまで言うとユートは頭を掻いて立ち去ろうとする
そんな姿を見た獣人族の男は立ち上がりユートの肩を掴む

｢ちょっと待つでござる！そんな呆気なく小生を自由にする気でござるか!?解放する際に多額の銭を支払ったはずでござる！なのに貴殿は…｣
獣人族の男はそこまで言うと口籠もってしまう

｢あぁ…お前にはやらなきゃいけねぇ事があるんだろ？なら行きな、どうせ泡銭だしな…俺にとっちゃ商店街の駄菓子屋で買い物をした程度だよ｣
ユートのこの発言は嘘である
奴隷解放が安い訳がない…物によっては金貨30枚は下らないだろう

｢くぅ…今の世にこの様な男がいるなんて…小生は貴殿に何とお礼を申せば良いか…｣
獣人族の男は泣いて膝から崩れ落ちる

｢じゃあ達者に生きな…そしてやるべき事が終わったらこの先をずっと進んだ所の森の中にある俺の館を訪ねてくれば良いから｣
ユートはそう言って今度こそ立ち去ろうとした時に無限収納アイテムボックスの中でケータイが鳴り通話に出る

｢もしもし？どうした？｣
ユートはそう言って通話に出るとイリーナの怒った声が聞こえてくる

『ユート殿！今日は王都から開発の為の人達が来る日だ！今何処にいるのだ！』
イリーナの声はユートの耳を突き破り近くにいた獣人族の男にまで聞こえてくる

｢あ～…すまん、忘れてた(嘘)｣
ユートはそう言って通話を切ろうとすると今度はアルカの声が聞こえてきた

『ユート！私が大切にとっておいたシュークリーム勝手に食べましたね！罰として帰る時に全員分買ってきて！』
アルカはそう言ってアイト達の子守りに戻った様だ

その後に電話は切れて声が聞こえなくなった
ユートはシュークリームに覚えは無いが頼まれたのであれば仕方ないと思いながら無限収納アイテムボックスにケータイをしまう

｢シュークリームはパルテノン皇国まで行かないと無いからなぁ…パッと転移ワープして買ってくるか…｣
ユートはブツブツと呟きながら転移ワープを発動させようとすると…獣人族の男に肩を掴まれる

｢今度はなんだ？もう行かなきゃいけないんだが…｣
ユートがそこまで言うと急に世界が180度回転した

ユートはすぐに何が起きたのかを把握する為に辺りを見渡す…すると獣人族の男の右腕が先程まで自分の顔があった場所にある

その光景が物語るこの状況の答えアンサーは…この獣人族の男に殴り飛ばされ自分は現在宙を舞っている…という事だ…
そして…この瞬間から獣人族の男はユートが買った奴隷でも逃がした奴隷でもない…
『この男はユートの…家族の敵だ』

そう認識したユートは宙を舞っている自らの体を二三回程、横回転させて遠心力を乗せ、獣人族の男の顔面に蹴りを食らわす

互いに殴られ蹴り飛ばされたユートと獣人族の男はすぐに受け身をとり地面に着地する

｢…何のつもりかは知らないが…殺す｣
ユートのその言葉はまさに『言葉の重さ』を感じられる…殺すの一言で平原全体の空気をより一層濃くした

｢小生も残念でござる…よもや恩人殿が小生の目的の者を誘拐した犯人だったとは…その殺すという言葉…そっくりそのまま返すでござる｣
獣人族の男は拳を構えてユートとの距離を一定に保ちながらユートの一挙一動に反応できる姿勢をとった