蝕む心と募る不安

王宮へ向かっている道中の馬車内では各々が好きな様に寛いでいた
レイカはカイトと他愛も無い会話をしている時に、急にカイトはこんな質問を投げかけた

｢レイカ先輩ってユートの事をどう思ってるのですか？｣
レイカは一瞬なにを聞かれているか理解出来なかった
他愛もない会話をしていた時に急に話のベクトルが変わった

レイカはやっと聞かれている質問の内容を理解し慌てふためく
必死に言葉を見繕い当たり障りのない事を口から吐き出す
｢あくまで師弟関係！｣とか｢先輩に対して失礼！｣といった具合に何とか悟らせないように話したがカイトには本心がお見通しであった

｢聞いた話だと…ユートが死んだ時に怒り狂ったんですよね？師弟関係ならばそうなった理由はわからなくは無いですが…まったくそういう好意を抱いていないという訳ではないですよね？｣

レイカは恥ずかしそうに静かに頷いた
するとイリーナがレイカの隣に座りこう切り出した

｢ユート殿ならばその好意を全面的に受け止めてくれる筈だ、レイカ殿も自分の気持ちに素直になっても良いのではないか？｣
イリーナがそう言うとレイカは暗そうな顔でこう呟く

｢確かにユート君なら私を受け止めてくれるだろう…だけど…怖い…今以上に近づいたらユート君はまたどこかに行ってしまうのではないかと…心の底から怖い…｣

イリーナはそれを聞いた時に言葉を返す事が出来なかった…
ユートとレイカの大まかな過去の話は聞いているが…聞いているがためき軽率な返答はさらにレイカの傷を抉ってしまうからだ


｢カイト様、王宮に着きました｣
御者が馬車を停めてカイトにそう告げる

｢ありがとう…｣
カイトは御者に一言感謝の言葉を述べた後に先に降りてアルカ達をエスコートする

そしてレイカが降りようとした時、カイトが一言耳元で囁いた
｢レイカ先輩…先輩とユートの過去の事を知らないのでとやかくは言えませんが…僕から言える事はユートを信じてあげてくれませんか…｣

レイカは目を瞑ってカイトと目を合わせないように馬車を降りた



アルカ達は王宮の召使いの一人に案内されて応接室に連れてかれた
｢それでは式典が始まった時にお呼び致しますのでここでお待ちください｣


｢《申》式典開始まで残り十分弱ですがユートが戻ってきません｣
ランカのその言葉に一同は頭を抱えユートが何をしているのか…何をしようとしているのかを円卓に座りながら考え出す

各々が思い付いた事を次々に口にしていく
この国を乗っ取るや他の国に行って弁護してもらうなど様々な意見が飛び交う中でアルカが何かを思い付きこう言った

｢式典の途中でこの城を派手に爆破させるとか？｣
ドーラとイリーナは無いなと首を振ることは出来なかった

｢ユート様ならやりかねないっすね｣
｢ユート殿ならな…｣
今までユートの背中を見てきたからこそ断言出来る事であった…

｢ユートお兄さんがそんな事を…絶対に止めなきゃ！｣
レンカはそう言って立ち上がるがその方法が思い付かなかった

｢主様が来たと同時に縄で縛りつけて大人しくさせるのはどうじゃ？｣
クローノがそう提案しながらまずユートが持っていたスキル『錬成士アルケミスト』を発動させて『鉄』を元にとある金属を錬成する

｢長い時間は使用出来んがそれでもこれならば多少は主様を捕縛できると思うのじゃが…どうじゃ？｣

クローノはそう言って造り上げた金属の使用方法を一同に説明する
すると満場一致で使うという事になった

そして決まったと同時にユートが応接室に転移ワープしてきた

｢ん？どうしたんだ？全員で向かい合って…何話してんだ？｣
ユートはそう言って近づこうとするが扉が開き式典の開始を召使いの男が呼びに来た

｢丁度良いタイミングだったな、それじゃあ行こうぜ｣
ユートらそう言って部屋を出ていった

｢着火役はアルカに任せるぞ…タイミングは妾が出すのじゃ…｣
クローノ達はそう言ってユートの後に続いて部屋を出ていった