衝動の甘味と就寝

レイカの沖田に対する猛攻は最早狂気と言っても過言ではない程過激なものとなっていた

攻撃しているレイカは既にほぼ理性を失い一心不乱に不知火を振り下ろす
呼吸は乱れ、太刀筋もバラバラ…これでは剣士とは言い難い…ただ単に刀を持って遊んでいる子どものチャンバラごっこに他ならない

一人の愛する者の死は…ここまで一人の剣士が積み上げてきた全てを崩れ落とさせるには充分過ぎてお釣りが出る程であった

沖田は必死に受け流したり受け止めたりとガードを続けたが…普通の剣士ならば川の流れのように美しい技の流れというものが存在する…
しかし…今のレイカにはそんなものは存在せず…流れが読めない…ガードするのに手一杯だったのだが…等々ガードが崩れそうになってきたのだ

｢これで終わりだ！あの世でユート君に謝罪しなさい！｣
レイカは遂にガードが崩され体の軸がぶれた沖田にトドメの一撃を食らわそうとする

｢ふぅ…ここまで…か…｣
侍というのは死の直前に何も考えない
『死』という不条理を受け入れる為に侍という人種は心を無にするのだ
沖田も例外無く…両の目を閉じ…心を無にした…何も感じず動ぜす…静かに死ぬ時まで待った

だが…待てども待てども一向に死ぬ気配がない
不思議に思い目を開くとそこには見ず知らずの男がレイカの剣を片手で受け止めていた

｢大丈夫か？とりあえずお前は休んでおけ、後は俺がやる｣
その男から感じるまるで南国のような温かさ…一言一言から温もりを感じついついその男の言葉を聞き入ってしまう

｢レイカも落ち着け、ほら深呼吸をだな…｣
なんとかレイカを宥なだめようと深呼吸を促すがレイカは聞く耳を持たず、逆に間に入ったユートを沖田の仲間だと思いそのまま斬り殺そうとする

｢誰だろうと…絶対に許さない…一度目は私からいなくなった…そしてまた再会出来たのに…またいなくなってしまった…そんな悲しみをお前らに解るか！｣

レイカはユートの死を嘆き、悲しみ、激昴していた
その為に自らを殺してでも沖田やその仲間は皆殺しにすると己に誓ったのだ…強い思いは力となる…だからこそより鋭く…より脆い刃と化しているのだ

｢…すまない…レイカ｣
ユートは一言レイカに謝罪をした後
まるで母親が我が子を抱きしめるように優しく抱擁し…そして触れたら割れてしまうようなガラス細工の物を扱うかの様に口と口を重ねる

今のユートにとってこの行為キスは半なかば致し方ない処置であった
半分狂戦士バーサーカー状態に陥っていたレイカは一旦強い衝動を与えなければ死んでしまう様な状況であった

だが殴る蹴る等はレイカを傷付ける事になる…
言葉を投げ掛けてもレイカの耳には届かない…
ならば人間の神経が一番集まっている箇所の一つである『唇』に衝動を与え正気に戻す他ならなかった
だが…流石に無許可でキスをするのは失礼だと思い謝罪したのである

初めは抵抗していたレイカだが次第にユートに体を預けキスの甘い味に酔いしれる事にした

キスを初めて数分が経った頃
レイカはその場に倒れてしまった



｢お兄さ～～ん！死んじゃったかと思ったよ～！｣
レイカが倒れた時にNo.02がユートに飛びついてくる
この状態にデジャブを感じたユートだが…あえて何も言う事は無かった

｢まぁ実際に一回死んだんだけどな…ってよく俺だってわかったな…外見がまるっきり変わってるのに｣
今のユートの姿は前の面影はほとんど無く…強いて言うなら目元が一緒とか背丈が一緒などのその程度の類似点しか無かった

｢う～ん…私もよくわかんないけど…何故かわかった｣
No.02も何故ユートだと呼べたのか疑問に思っていたのだが…すぐに考えるのをやめたようだ

｢《質問》何故ユートの死体が消えたと思ったら急にとてつもなく強くなって現れたのですか｣
実はユートの遺体を膝に乗せていたNo.01は急に足の負荷が無くなり見ると遺体が無くなっていたと言うのだ

｢なんか…わかんない事だらけだな…はは…｣
ユートはNo.01にあやふやな返事を返した後急に耐え難い眠気に襲われ…そのまま倒れ込み寝てしまった

｢あ…お兄さん…仕方ないなぁ…｣
No.01とNo.02は倒れ込んだユートとレイカを持ち上げてその場から立ち去ろうとした時に梨華に呼び止められた

｢待ちな！この後どこへ行く気だ？今度は一体どれだけの破壊をするつもりだ…｣
梨華にとってNo.01とNo.02は亡霊と同義であり不安要素の塊であった
そんな二人をみすみすと行かせるわけがない

｢う～ん…じゃあお兄さん達がぐっすり眠れる様な布団かベッドを用意してほしいな…私達がどうとかの話はお兄さんが起きてからにしてほしいな…私達も眠くなってきちゃったから…｣

No.02はそう言って大きなあくびをする
梨華は少しの間考えた後、自らの寝室に二人を案内した



ユートとレイカを同じベッドに寝かせた後
No.01とNo.02は梨華達が安心を得る為に二人も同じ部屋に布団を敷いて寝る事にした
互いに起きるまでは絶対不可侵の約束をしたので表面上は起きるまでは事なきを得る事となった