異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

甘いケーキと特別な贈り物

全てが燃え尽きた2日後、優翔は灰と化した道場に来ていた
その中心には一つの優翔が作った墓石があった

「先生…不出来だが立派な物だろ…」
優翔は一日でも早くここに来たかったが村の人間にずっと止められていたのだ
ここに来たら優翔が怒りに任せて犯人を突き止めようと暴走すると思っていたからだ

実をいうと優翔はそうしようと考えていたのだ
しかし…ここに来て玲華の墓を作っている内にその気も失せて何処か心に穴が出来たようだった

「じゃあな…俺は東京に戻るよ…家はまぁ漫喫にでも泊まるさ」
優翔は最後に一輪のカーネーションを添えその場から立ち去ろうとした時に視界の端に銀色の光が見える

光が見えた場所に行くとそこには冷蔵庫が埋まっていた

「あの火事で残ってたのか…電源は…ギリ通ってたのか…」
優翔はついでに何か食べ物を貰っていこうと思い冷蔵庫を開けた瞬間

優翔の頬に一粒の涙が流れ落ちる

「これは…ケーキか…?」
そこには少し形が崩れていたが丹精込めて作れられたケーキがあった

優翔はケーキを冷蔵庫から取り出し近くにあったフォークでケーキの端を切って口に運ぶ

「……先生…生クリームも一から作ったのか?バカだな…砂糖入れすぎだ…甘い甘すぎる…」
それはまるで角砂糖を四つ程一片に口に放り込んだ位の口の中に広がる砂糖の甘さ
とてもじゃないが普通ならこんな物を食えば体調を崩してしまうだろう

「なんだよ…俺を病気にでもさせたかったのかよ…くそ…くそ…」
優翔のケーキを食べる手は止まらない
鼻が詰まりすぎて味わえない…溢れ出る涙がケーキに零れ少しだけ薄くなってしまっている

「料理が出来ないくせに無理しやがって…うっ…ぐっ…」
優翔は手からフォークが落ち手で涙を拭う
しかし拭っても拭っても涙は留まることを知らない

「うぐっ…あっぐ…先生…先生…」
優翔にとって金剛玲華というのは生まれて初めての好敵手ライバルであり先生であり
第二の母でもあったのだ

優翔父と母は正直いって死んで悲しいという感情は大して感じてなかった
なぜなら子どもであった優翔には死という事をよく理解してなかったからだ

しかし…もう優翔は16歳である
死という事象を充分に知っている…いや知ってしまっていた

『目の前で人が死ぬ』

はっきりとその事柄に立ち会い…さらに言えば優翔は救えた命を救えなかったのだ
優翔にとっては後悔しか無いだろう

その後優翔は5時間もの間、嗚咽を吐き体内の水分を全て涙に変えて放出する

やっと泣き止んだ…いやもう涙が出てこない
もう出尽くしたのだ、目の周りは赤く腫れ上がっていた

「先生…ん?これは…」
優翔は瓦礫に埋まっていた一つの箱を発見する

それは秀也が預かっていたというおつかいの箱であった
優翔はそれを拾い上げ箱を開ける

その中に入っていたのは一つの小さなダイヤが埋め込まれた指輪があった

「……プロポーズかよ」
箱の隅の方に小さく折りたたまれた手紙を見つけ広げる

『ダイヤの宝石言葉は永遠の絆だよ、これからもビシバシ鍛えてあげるから!』

「先生…ったくよぉ…」
優翔はその指輪は箱にしまったままポケットに入れ残ったケーキを平らげその場を後にした


山を降った時に朱音が優翔にしがみついてくる
「ねぇ…行っちゃうの…」
その顔は涙で汚れ、鼻水をすすっている

「あぁ…数日の間世話になったな…」
優翔はしゃがみ朱音と目線を合わせる

「朱音ちゃん…また遊びに来るからな」
優翔はそう言いながら朱音の頭を優しくそして暖かく撫でる

「絶対だよ…絶対また遊びに来てね…」
朱音は涙を拭い泣くのを我慢する

「おい!アニキ!行っちまうのかよ!」
秀也がこちらに走ってくる
全身が汗で濡れ服も肌にくっついている

「そうだ…俺はここを離れる…これ以上ここにいたら…俺が俺で無くなっちまいそうだ」
「秀也、男の別れに涙はいらねぇぜ?」
秀也の頭に手を伸ばしぐしゃぐしゃに撫で回す

「それじゃあ、村のみんなによろしくな」
優翔は立ち上がり歩き出す

「アニキ!」
「お兄さん!」
秀也と朱音は優翔の後を追いかけようとしたがすぐに立ち止まった

二人は静かに立ち去る優翔の後ろ姿を見つめた
見えなくなるまで動かずじっと見つめた

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