異世界転移した俺は異世界ライフを満喫する事にした

森崎駿

能力の弱点と恋煩い

「何その帽子…ただの帽子じゃない」
アンナは警戒を解くことなく虚勢を張る

「ただの帽子じゃない、マッドハッター特製の『正直な帽子』さ」
マッドハッターは自慢げに帽子を掲げる

「この帽子は嘘をつかないのさ…この帽子を被った者は嘘をつけなくなる…絶対にね」
マッドハッターはアンナに近づく
ゆっくりと確かな足取りで

「ちょっと待って!そんな事ある訳ないじゃない!女王様、こいつは嘘吐きなんですよ!こいつの話を鵜呑みにしてはいけません!」
アンナは困惑する
(まずい…私の能力の弱点を突かれた…)


アンナが持つ『私だけの夢の世界ドリーム・ワンダーランド』は絵本の中に引きずり込むという物…そこまではユートの考察通りである
しかし、物語の主要な人物達を意のままに操る事は出来ない
あくまで登場人物達は各々が自我を持ち、アンナに牙を向けることも可能なのだ

すなわち、今マッドハッターのあの帽子によってさっきハートの女王に進言した事が嘘だと知られた場合…
ハートの女王はアンナを斬首にするだろう
そして…アンナは自分が物語に入ってしまった場合は途中でこの世界から抜ける事も終わらせる事も出来ないのだ

アンナが助かる方法はこの物語を終わらせる事
しかし、それをしたらユートやマッドハッターまでもこの絵本の世界から出てしまうのだ


「チェックメイトだアンナちゃん」
マッドハッターがアンナに帽子を被せようとした瞬間

「もうよい!やめるのじゃマッドハッター!」
ハートの女王が制止させる
その顔は怒りを隠しきれてないが冷静を保とうとしている

「妾は知っているのだ…アンナが妾のバラを白バラにすり替えた事は…」
「そして…貴様がそんな事をする訳ないという事も…」
その場の者すべてが驚愕した、そこでマッドハッターは一つの疑問を投げかける

「だったら何故私達を捕らえようとしたんだい?君の様な聡明な女性が考え無しに行動するとは思えないんだけど」
マッドハッターはハートの女王に近づく

「わ…妾に近づくなぁァァ!」
ハートの女王はマッドハッターを突き飛ばす
その後玉座を立て直しその陰に隠れる

「何故かは解らぬが…貴様を見ていると胸が痛むのじゃ…これはお前の呪いなのだろう?貴様がいなければこの胸の痛みは治まるのじゃ!だから貴様を三月うさぎがいる森の奥深くに閉じ込めていたのに…」
ハートの女王は顔を真っ赤にし俯く

「その胸の痛みはつまり…恋煩いじゃな」
ハートの女王は目の前に漂う不思議な光に話し掛けられ顔を上げる

「こ…恋煩いだと?あんな変なメイクをして更にバカで空気も読めなくて…それなのに心は優しくてあの胸に飛び込めたらどれだけ嬉しかろう…って何を言わせるのじゃ!」
ハートの女王はクローノを平手で弾き飛ばそうとするが当然当たらない

「これはチャンスじゃぞ?告白してしまうのじゃ」
クローノはクスクスと笑い出す

「ここ…告白!?無理じゃ!そんなのできる訳無い!」
ハートの女王はさっきまでのカリスマ溢れる顔はどこへ行ったのか
その顔は1人の恋する乙女の顔になっている

「めんどいのぉ…それじゃあ告白が出来る様になる魔法を掛けてやるのじゃ」
『ー愛の力ラブパワーー』
クローノは手のひらから細かい鱗粉の様な物を発生させ、その鱗粉をハートの女王に浴びさせる

「なんか…行ける気がするのじゃ…」
ハートの女王は立ち上がりマッドハッターの方を向く

「マッドハッター!」
ハートの女王はカツカツとハイヒールの音を立てながらマッドハッターに詰め寄る

「は、はい!」
マッドハッターは直立し動けなくなる
ハートの女王の顔は険しくその目力で押し潰されそうになったからだ

ハートの女王はマッドハッターの胸ぐらを掴み顔を見入る

「妾は…妾は…お前が好きなんじゃぁァ!」
マッドハッターは口を開けて呆気を取られている

「え…でも君は私の事を嫌いだって…」

「それは!…正直に貴様の事を好きじゃと言える訳ないのじゃ!そんな風にスグに思い人に結婚してくれとか平気で言える奴の方がおかしいのじゃ」



ーユースティア王国ー

アルカ達は宿屋にて寛いでいた
と言うよりも外に出る事すらユートに咎められている為、寛ぐ位しかやる事がなかった

「へくちっ」
イリーナがクシャミをする

「風邪っすかイリーナ様」
ドーラはひょこっとイリーナの目の前に来る

「いや…別に熱は無いのだが…」
イリーナは頭に手を当て熱があるか確認する
「誰れかが私の噂話でもしているのかもな」

「まさかぁ…そんな訳ないですよぉ」
アルカは笑いながら否定する

「そうだな」
そう言うと三人はクスクスと笑った

三人はそんな他愛もない話をして時間を潰していた
ユートが帰る時を心待ちにして…



ー絵本の中ー

「わ…私なんかで良ければ…」
マッドハッターはメイクで解りにくいが頬を赤くして告白を受け入れた

「何二人でイチャイチャしてんだよ」
部屋に入ってきた男は入ってくるなり嘲笑する

「な…なんじゃ貴様は!」
ハートの女王は良い雰囲気に水を刺され機嫌を悪くする

「マッドハッター良かったな、これでお前も晴れて卒業だな」
俺はそんなハートの女王には目もくれずマッドハッターにピースサインを送る

「卒業って!…ユート君!少しはデリカシーという物を!」
「妾は…貴様が望むのであれば…」

「何よ…何よ何よ何よ!私抜きでハッピーエンドだなんて許さない!」
アンナは『不思議の国のアリス』の絵本を手に取る

「こんな世界…もういい…消えちゃえ!」
アンナはそう叫びながら絵本を半分から真っ二つに引き裂く

すると物凄い大きな地震が俺達を襲った
「全て無かった事にするの!素敵でしょ?愛を誓い合った男女はバラバラに引き裂かれるの!最高の終幕エンディングでしょ!」

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