ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし

ノベルバユーザー173744

54……マクシムという少年。

 王宮に戻ったラルディーン公爵一家と共に来ていた、ネグロス家の嫡子マクシムは決意していた。
 知人であり、兄のように慕っていたルーベント家の三男カークが、実はあの1度目のデビュタントの直前、マクシムの元に来ていた。
 たわいない、幼馴染だった……母親同士が仲が良く、行き来していた。
 あの前日、会いに来たカークはどことなく苦しげだった。

「どうしたの?」

 普段は大らかで、兄貴分だと言いたげにマクシムを弟扱いするカークが、暗い目でため息をついたのだ。

「あ、いや……何でも……ないことはないな」
「じゃぁ、どうしたの?カーク」



 カークは天性の勘というか、荒っぽいが剣を極めたら凄くなると小さい頃、マクシムは思っていた。
 マクシム自身はさほど剣に向いているとは思わず、一応こちらの学校から留学できるシステムがあり、運良く剣ではなく、マクシムがこの国では珍しい術の力を持っていたこともあってシェールドに行くことができた。
 ネグロス家の家計では出来ないこと……返済金のない奨学金制度のある学校に行き、そして勉強がしたかったのである。

 シェールドの騎士の館では、身分を問わず成績優秀者を受け入れるようになっており、館に入れば、生活費を毎月1ルード……成人してから働く給金とほぼ同様の額、ちなみに、シェールドは他のどの国よりも収入が高いが、税金は低いと言われる。
 ここルーズリアもほぼ同じ収入だが、ある程度税金で取られる。
 兎も角、全員、館に入る時に、持って来ていたお金は卒業するまで出すことのできないナイトバンク(カズール家が運営する銀行)に預けることになり、代わりに、朝食夕食付きの寄宿舎で身分関係なく、騎士見習い以前の、騎士の卵として2年間みっちり勉強することになる。
 ちなみに昼食や筆記用具、服などは館の中にある学食や店、もしくは館長や、教官に許可を得て船で渡ったカズールの街で買い物や食事ができる。
 しかし、入って3ヶ月は外出許可は与えられない。
 里心がついて家出したり、マナーや言葉を話せず、街の人に迷惑はかけられないのだ。

 だが、騎士団総帥のカズール伯爵の義兄である館長や、その家族や、元騎士と言う教官がたは優しく厳しく真摯に思春期の生徒たちと向き合い、育ててくれた。
 館長の息子である隼人教官を、実はマクシムは父と呼んでいた。

 武器の扱いはさほど目立たないが、代わりに座学と時々自分では持て余す何かがあったマクシムの元に、時々便りが届く。
 それは、今ではもう離婚してしまったが、母からのもので、



『マクシム
 元気にしていますか?
 お父様が又、借金をして領民に税を押し付けようとしています。
 何度もやめるように言っても、聞き入れて下さいません。
 それに、カークくんのお父様のところに行ったり、パルスレット公爵のお屋敷に出向き、帰ってこないこともあります。
 借金の返済を催促する商人が日々来ては、お金を工面することもしばしばです……私は、もう疲れてしまいました。
 カークくんのお母様……にお会いしたい……』



と言ったような内容だった。
 父の浪費は物心つく前からあり、一人息子のマクシムは、父の跡を継ぐというよりも借金を継ぐのではないかと思っていた。
 どうすればいいのかと思い、自分自身もまだ勉強がしたい……そうすれば何とかなるのではないかと必死だった。

 しかし、ある日、



『マクシム
 もう耐えられません。
 お父様と離婚します。
 貴方を残し、去る私を許してね』



と言う手紙に、力が暴走し、それを救ってくれたのが館長と教官だった。

 ベッドに横たわるマクシムの握っていた手紙を取り、館長はじっと読んだ。
 そして、教官に手渡すと、

「マクシム。この封筒の手紙は確か、ここに入ってから毎月のように届いていたね?お前の母親からだと言うことで、手渡していたが、内容を聞いてもいいかな?」

澄んだ声が響く。

「……父が……借金を繰り返し……母は父と喧嘩をしていました……僕は、一人息子で、跡継ぎだと言われていました……でも、父は爵位を持っているのをいいことに遊び歩き、母が借金を払う日々で……僕は頑張って、お金がないことは周囲に言えないから、成績優秀者になって奨学金を得て……家の為に……嘆く母の為に頑張って……」
「家の為に、母親の為に……騎士はそんな理由でなるべきではない」
「……っ!」

 館長の声が突き刺さる。
 我慢していた涙が溢れた……。

「父上!言葉が足りませんよ!マクシム」

 隼人はマクシムの涙を拭うと、穏やかに微笑む。

「マクシム……館長が言いたいのは、騎士だけではなく、誰かの為に生きるのはいいことだけれど、マクシム。お前は自分を抑え、周囲に気を回して、我慢しすぎだよ。ここは騎士の館。でも、騎士だけじゃない。他の道を選ぶ子もいる。マクシム。今まで届いた手紙は私が預かるよ。そして、お前は一応私が、叔父たちに頼んでおくから、ルーズリアに休暇の時も戻らなくていい。休暇は私の家で過ごしなさい……父上。館長、構いませんよね?」
「……使いを送る。マクシム。眠りなさい」

 立ち上がった館長は無表情でスッと出て行った。



 ……その時は泣いていて分からなかったが、後日、教官でシェールドで生活する間、養父母となってくれた隼人とその妻の智慧ちえ、そして姉達とその夫……それはそうそうたるメンバーだったのだが……に笑われた。

「あぁ、あの後お父様が激怒されていて、酷く荒れていたわぁ……いつもは、お父様をからかうお母様が、必死に、『やめてぇぇ!エイ!私は、貴方の顔が好きなのぉぉ!なのに、その般若のような顔、絶対に似合わないわ!私のせい?ごめんなさい〜!』って謝っていたわ」
「そうそう。お前の部屋に行って、手紙を全部回収して、全部読んだと思ったら、粉砕しようとして、シエラ兄さんが、『ダメだよ!兄さん!これは証拠!リー兄さんが欲しがってたんだから、頂戴!代わりにアレクあげるから!』『いらん!』『じゃぁ、可愛い可愛いイズミさんとムツキとお茶会!』『……久しぶりに、コウヤと過ごしたい……』『了解!シルゥ兄様もつける!』って」
「あははは……!シエラ師匠も、何でシルゥ伯父上をつけるのか……」
「お前が言うな!癒されたいんだろ」

 笑うのはレイズ・マルムスティーン侯爵家の次男で、紅騎士団長……義理の4人の姉のうち3番目の姉の夫で、殴るのは、末の姉の夫でレイズ・マルムスティーン侯爵家の長男ラファエル。

「館長……お祖父様は本当は感情が豊かな方なんだ。でも、特に腹を立てたり、自分の子供や孫同然に思っている騎士の館の生徒たちを悲しませたり、苦しめる存在には容赦がない。確かあの後、数日館から消えてただろう?」
「ぼ、僕は寝ていたので知りませんが、館長……お祖父様の授業が別の授業になったと……」
「その間、王宮に居たんだよ。で、しごかれた……俺」

 一番上の姉の夫で、国王陛下の側近の一人のチィ……愛称らしい……がガックリする。

「まぁ、俺は弱いんだけどさ、実際。兄貴にはぶっ飛ばされるし……でも、コイツと一緒にされたくねぇ……」

 示されたのは、有名な聖騎士のカイ・レウェリン卿の長男だと言う青年。

「何で?チィ兄さん。仲間!」
「お前より可愛いセリが良い」
「俺も同じ。お前帰れ。セリ呼べ」
「えぇぇ!ラファ兄さんまで!俺だってそこそこ……くぅぅ……あいつどこ行ったんだ。母上が泣くし、ツキも真顔で『お前よりセリが良い。濃いんだよ!この変態が!』って、酷い……」

 ガックリする彼は端正だが、父のカイ卿の男性だが清楚な印象の美貌よりも派手な美形だった。
 本人もその華やかさを自覚しているのか、結構他の3人よりも……いや、ケバい。
 一番品があるのがラファで、流行色やおしゃれなのはチィ、そしてもう一人はスポーティな格好と言えば良いのか、動きやすいものを着てきた印象である。

「お前にはまず謙虚さがない!努力も足りん!セリとチィを見ろ!全く!」
「わぁぁ!やぶ蛇……」

 頭を抱える姿にプッと吹き出す。

「す、すみません……先輩達……」
「兄ちゃんだが?そうだなぁ……俺もこの馬鹿より、ヨウの方が可愛い」

 ラファが頭を撫でる。



 ヨウ……万葉まんようと、祖父の館長はマクシムに新しい名前をつけてくれた。
 万葉と言うのは『よろずの世に言の葉が伝わるように』と言う意味だと言う。
 万は、とても数が多い、とても長いと言う意味で、葉は、言葉であり、時代も意味するのだと言う。

 そして外部からの連絡を全て祖父と養父母は絶ってくれた。
 父と別れた母にも、直々に便りを送り、説教したとも言う。
 ルーズリアにも送ってくれるなと国王直々に便りが送られた。

 そして落ち着いた少年は騎士としての勉強を続けながら術も磨き、最後にルーズリアに戻ってきた。
 カークのことはショックだった……カークは悪くない。
 あの時カークは言った。

「マックス……俺に何かあったら……デュアン団長に伝えてくれ」

と……。
 そして、最後に出て行った時、こちらを振り返った顔は、泣きそうだった……。

「じゃぁな!マックス」



 あの顔が忘れられない……。

 その後、反逆者として捕まったと噂に聞いた。
 でも、パルスレット公爵達罪の重い者は処刑されたが、カークは話題にならなかった。
 秘密裏に牢獄を探ろうとしたが、警備が厳しかった上に、時間がなかった。
 デュアンも体調不良でかなり辛いらしい。
 どうすれば……会えるだろう。
 カークに、デュアンに……。



 必死だった。
 すると、父が実家で行うパーティにデュアンは出席しないが、その父であるラルディーン公爵夫妻が出席すると言う。
 嫌々だが実家に帰ってみれば、父は変わっておらず……その上……。



 マクシムは、拳を握りしめる。
 そして、扉が開くのを待って居たのだった。

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