ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし

ノベルバユーザー173744

53……オードニックという国

 オードニックという国は、前にも書いたように砂漠と荒地、鉱山の国。
 牧畜と略奪の国ともいう。

 しかし鉱山は調べてみれば、それなりのものが取れる上に、地質学の専門家であるリスティル、ギルドの共同調査では、シェールドではでない珍しい鉱石が出る。
 それはごく稀に降る隕石と同じ成分が含まれており、過去のシェールドの書簡には、竜王ヴァーソロミューが生まれるもっと前に、巨大な隕石が落ちたとあり、元々高温の鬱蒼としたジャングルが一夜にして焼け野原と化したと遺されているという。
 そして、そのジャングルだった場所の一角に遺された遺跡には、血と骨が大量に遺され、そこで人身御供が日常的に行われていたと言う。
 その行為に悲しんだ神々がその血に染まった地を消し尽くしたらしいと言う噂まで。

 その遺跡の発掘調査で、大地の神と風の女神の祝福のない国とも言われるようになったという。
 ものはほとんど育たず、岩や山、わずかに生える雑草は家畜の餌として食べ尽くされる。

 ちなみに、現代世界でもそうだが馬や牛は葉の上の部分を食べる。
 その為、根は残るし、新芽も残る可能性も高い。
 夏の間は放牧をさせ、柵を作った中で生え替わる新芽を食べていく。

 しかし、ヤギやヒツジは葉だけでなく茎や根までを食い漁る。
 糞などが栄養にできればマシだが、乾燥させた糞は燃料となる。
 木の生えない地域には、大事な火を焚く為の方法である。
 しかし、糞は栄養が豊富である。
 それに消化しきれなかった種なども残っており、新しい芽吹きもある。
 それを乾燥させて燃やすのみでは、芽吹くものはほぼないと言ってもいい。
 その為に土地は荒れて痩せていき、種でも撒いておけばいいが、そのまま放置して移動した後は、文字通り草一本生えないようになる。

 シェールドの中南部も元々そんな荒地が多かったが、中央や地域の領主であるファルト男爵家で育てた飼料用の種を収穫し配り、放牧して土地を移る時に蒔いて貰うことで、草を食べ移動して、又戻った時に生えている草を与えることができ、安定した餌を食べられるようになり、家畜も肥え収入が増えた。
 それだけではなく、麦などの食料を育てる畑に侵入することもなくなり、旅する一族と、その近くの農村との関係も良くなり、人手が足りない時に旅する一族に頼み収穫の時期を終え、その手伝ってくれた分を分け、旅する一族も代わりに増えた家畜をさばき、お返しをした。

 そう言う繋がりを風習や民族の違いを虐げるのではなく、認めていく。
 そして、お互いの利益を求めていく。
 生き抜く道を探していくことに成功しつつある。

 だが、オードリックは政策も立てず、民の生活を考えなかった為に、周囲は繁栄するものの衰退していく。
 そして、不満が募ると、国王は政策を変えるよりも、民に囁く。

「自分たちの国がこのようになったのは隣国が悪い。隣国が我が国から奪っているのだ。ならば、隣国から返して貰えばいい!隣国は元々この国に恩があるのだから」

と……。
 その言葉に、国境を超えて牧草地を荒らしたり、国境の町に家畜と共に現れる隣国の民を殺すことはないが、代わりに武器を持って襲ってくる身分あるものを徹底的に懲らしめるのがクシュナの役目である。
 その徹底的と言うのは二度とこの国に入ってこないように誓約を交わすことで、それを違えると命を失うものである。
 もうあらかたの貴族はそれで追い返し、次こないように牽制していたが、今度はオードニックの国王直々に来るのではないかと言う噂を入手していた。



 そして、目の前には、

「お目目が、痛い……それに……」

涙目で、こほんこほんと咳を繰り返す小柄な従姉妹。
 帰ってきた叔父たちも独特の臭いを纏っており、クシュナは、

「大丈夫ですか?吸いすぎていませんか?それは、オードニック領の高地にわずかに自生する薬草です」

と問いかける。

「知っているのか?」
「いえ、ティフィから貰ったサンプルにありました。これは高地で生きる人が、高山病や疲労を覚えた時にちぎり噛むことで、一時的にその苦痛から解放されるのです。それを精製したものがこの香です。ずっと吸い続けると、興奮状態が続き、急に暴力的になったり、何かからの危険の恐怖を忘れることもできるとか。常習するとやめられなくなるそうですよ」
「まずは、医師だな」

 妻とリティを別室に、そして、入浴とドレスを証拠品として持ってこさせると、ミューゼリックは入浴後自分たちの服を甥で王太子の直属機関に送る。
 大人たちは何とか大丈夫だが、まだ幼いリティには刺激が強すぎたのか、咳が続き息苦しそうな為、即診て貰う。
 一応、リティの周囲がある程度落ち着くまでと残っていたアルスは、喘息発作に近い咳を繰り返すリティに吸引をさせて落ち着かせる。
 そして、酷い咳の為に熱を出したリティを休ませた。

「……この咳発作は、アレルギーではないんだが……」
「あの……」

 入浴したセリが髪を乾かしながら答える。

「姫が『前の家』と言っていました。その前の家の主人が、この匂いのするタバコとかお香を焚いて、暴れていたとか……だから嫌い、気持ち悪い……と」
「……では、服にこれだけ匂いがつくんだ、大量に炊かれていて、リティにはかなり辛かっただろう。それよりも、セリ……頭拭くのそんなに時間がかかるのか?」
「し、仕方ないでしょう……長いですし、重いんですよ……乾かすの時間かかるので切りたいんですけど、両親が許してくれなくて……」

 嘆く。
 セリの髪は母親と同じ黒い……祖父から聞くと、昔は『緑なす黒髪』と言われて、みずみずしく豊かな髪だと言われて育ったのだが、兄弟は柔らかく軽いが、セリは伸ばすと重くて仕方がない。
 ショートにしたいのだが、両親……特に父が、愛妻に瓜二つのセリが髪を切ることを反対する。

「一応風の魔法で、水を飛ばすんですけど、あまり効き目なくて……」
「まぁ、乾かした方が良いと思うが、お前は風とそんなに相性良くないだろう?」
「そ、そうなんです……何故か分かりませんが、グランディアの血を引いているのに、風は従えなくて……」
「風は従わせるんじゃない。友として対等に付き合うんだ。従わせるのは火。力の強さを見せる為。水は自分を見て貰う……水面を鏡と称するだろう?で、土は知識を請う」
「……じいちゃんは、そんなこと言ってませんでした……」

 目を見開くセリに、

「お前の祖父は生まれついての精霊使い。風は無条件で従うだけの愛情を持っていたんだ」
「じゃぁ、私は……」
「お前は外見はグランディアだが、グランディアらしくあるが、グランディアらしくない。風は気まぐれだ。気まぐれ風を制御するなんて、よっぽどだ。それよりも乾かしてやる」

アルスは風を吹かせ、セリの髪を乾かす。

「ありがとうございます。編んでおこう」

 一つにまとめ、三つ編みにする。
 そして、

「私はグランディアらしくないというのは……」
「お前は、父方の祖父がグランディアの血を引くカズールの人間でもあり、母方はグランディアだが、お前自身は姿はどうであれ、水や土の精霊と相性が良いはずだ。お前の兄弟はアホが多い癖に無意識に風に好かれる体質揃い。お前のことを嫌いではないが、お前は性格が父親に近いから、真面目な土や、己の内面と向き合うようになる水と相性がいい。つまり、土の対称に位置する風とはさほど……と言っても、全体的なレベルは高いから分かりにくいんだな」

アルスはうがいをさせた後、薄めたジュースを飲ませつつ、まだ涙目のリティの頭を撫でる。

「姫は数日休もう。ハーブウォーターの匂いが嗅ぎ取れない位、焚きしめられていた。ここまで吸い込んだら辛かっただろう」
「でも、ロ、ローズさまや……パパとママとお兄ちゃんたちが……」
「でも、一番辛かったのは姫だろう。よく頑張ったな。お休み。これからうるさくなるから。それにアリアも休むと良い。旦那たちは作戦がある」

 うとうとと眠り始めたリティに、アリアも少々疲れたように微笑む。

「ありがとうございます。でも、リティが辛い思いをしているのに……」
「一緒に休めば良い。私がきちんと結界を張り巡らせておこう」
「アリア。リティを頼む」

 ミューゼリックは妻に微笑む。
 躊躇ったものの、アリアも正装で長時間緊張していたこともあり、夫や息子たちを見ると、頰をうっすら赤くして、

「ごめんなさい。リティと休ませて頂きますね。貴方、デュアン、皆さん」
「あぁ、後で戻ってくるから」

ミューゼリックは抱きしめると、アルスに頼み部屋を出て行った。
 アリアはベッドに潜り込むと、娘を抱きしめ、その頭を撫で、目を閉じたのだった。

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