ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし
52……ネグロス侯爵家の秘密
一旦休憩室に案内されたリティだが、不安げにキョロキョロとし、家族やセリ、ローズ様たちを見る。
「やっぱりあの匂い……臭いです……嫌いな匂い……」
半分以上ベソをかく。
ミューゼリックは妻と腰を下ろすが、アリアも不快なのか夫にもたれるようにし、向かい側にお姫様抱っこしたままセリがソファに座り、
「大丈夫大丈夫」
と慰めている間に、テオが部屋中を探し、1人用ソファに腰を下ろしたローズは扇を用い、
「セリ。悪いけれど、私たちの周囲だけでもいいわ、この匂いを遮断して頂戴。リティ姫が吸い過ぎたら危険だわ」
「はい」
二言三言口の中で何かを告げた途端、ふわっと匂いが消えた。
「姫さま、アリア様を中心として一定範囲匂いを遮断しました。でも、この辺り、風の精霊が通ってませんね……精霊避けでも隠しているのでしょうか……」
「それは周到ね。姫、遮断したとは言え辛いでしょう?これで鼻と口を覆っていてね?」
ローズ様はハンカチーフを渡す。
「ありがとうございます」
「良いのよ、実際私も頭に響くわ……この匂い。日常使っていたのかしら?」
「ローズ様」
テオの言葉に振り返ると、テオは衝立をずらし香炉を示す。
そして、盗聴の術具を……。
「……テオ、術で一時的に術具をおかしくしておく。香炉にも。他にないか徹底的に探せ」
小声で告げると、テオは術具に聞こえるように、
「はい。何か飲み物でもあれば良いのですが……ありませんね」
「変ねぇ……こういった休憩室にはつまめるものもあっておかしくないのに……」
「ちょっと聞いてまいります」
「お待ちなさい。姫をお守りするのが貴方の役目でしょう?」
ローズ様はたしなめる。
「でも、アリア様、大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。何とか……」
「ちょっとお待ち下さいな」
ローズは持っていたバッグから小瓶を取り出す。
そして、そのキャップを外し、手のひらに小さな小粒の錠剤を数粒出す。
扇を当てて、
「ミューゼリック様、セリ。これは向こうの毒消しの錠剤です。水なしで飲めますわ。早めにお飲み下さい。アリア様にも姫にも。私もテオも飲みますから大人は二錠。姫は一錠です」
と囁く。
それぞれ口に含んだのを確認し、
「では、テオ……大丈夫?」
立ち上がり、部下に近づくと、
「はい、清涼剤よ。貴方はきちんとしているけれど一応ね」
と口に押し込む。
「ありがとうございます。口臭がとか言われたら恥ずかしいですね。それにスッキリしてきました」
「でしょう?こういったものを持っていないと。でも、貴方が口臭ということは決してないわ。それよりも、他の美しい人に目を向けて、私を忘れたりしないでね?」
「分かっております。ローズ様のお願い通り」
一応隠語をバンバン用いているものの、ローズ様は仕事には厳しいが、優秀な部下をきちんと評価できる平等な上司である。
「でも、本当にどういうことかしら。パーティなのに、長い間待たせるのね……ちょっと疲れてきたわ……」
「大丈夫ですか?」
「アリア様も、姫も連日の移動……疲れているのかも。ミューゼリック様大丈夫ですか?」
「ちょっとな……だるい」
妻を抱きしめ、気だるげに告げる。
「ローズ様もお座り下さい」
「嫌よ。一緒にいたいわ」
言いながらテオに抱きつくようにして周囲を見回す。
と、離れ、少しふらつくようにして、
「ローズ様?」
「……何か気持ち悪い……きゃぁぁ!」
と言いながら、幾つも並ぶ置物を全て叩き落とした。
「ど、どうしましょう!壊してしまったわ」
「大丈夫ですか?お怪我は?」
言いながら、座り込み割れた置物をチェックするローズ様は、発見した盗聴術具を示す。
「何てことでしょう!謝罪しなければ……」
言いながらそっとハンカチに包み、扇で告げる。
「セリ。遮断の術を。向こうから破壊のないよう」
「はい」
「あぁ、困ったわ……」
言いながらハンドバッグに収めると、次はテオと共に回り、次々と2人でそういった道具を発見。使い物にならないようにする。
「本当にいつまでここにいるのかしら、ミューゼリック様。アリア様や姫は大丈夫ですか?」
「調子が悪そうだ。困ったな……帰らせて貰うか……」
ミューゼリックは、言いながら気配を察知した扉の前に立つ。
セリはリティを抱き上げ、そして即アリアをかばう体制をとる。
テオは窓、そしてローズは何の変哲も無い壁に向き合う。
と、扉がノックされ、
「失礼致します」
と言いながら開く扉に、
「入れと入っていないが?」
「遅くなりまして申し訳ございません。お飲物をお持ちしました」
ワゴンを押すメイドは片腕に、籠手と一体となった武器を構えている。
ミューゼリックはワゴンを蹴り飛ばし、扉を叩きつけ、抑え込む。
「ここの主人は、客に何をするんだろうなぁ?」
「主人の命令にございます。その小娘を渡せば……グフッ!」
「何をしている!」
外で声が響く。
成人前の少年風の声……。
「ぼっちゃま……」
「私はお前を知らん!ここがどなたに案内した部屋か解っているのか?」
「ちっ!」
「何をする!」
ミューゼリックは一瞬攻撃のできる3人を見ると、扉を開け、術を操り防御しているマクシムを取り囲む、数人の武装したメイドに侍従を見る。
「オラァ!」
側にいた侍従を蹴り上げ、メイドの首筋に手刀を叩きつける。
そしてマクシムは得意の炎の魔法で攻撃し、気絶させる。
「申し訳ございません!ラルディーン公爵閣下……」
「それよりも、帰還する。マクシム、ついてこい」
「はい」
ミューゼリックは引き返し愛妻を抱き上げると、
「皆、帰還しろ!ついてこい」
「姫さま、口は覆っていてね?」
セリは抱き上げたリティに言い聞かせる。
小さくこくんと頷くリティは首に腕を絡め、ぎゅっとしがみつく。
ミューゼリックの声に、クレスはハッとする。
何かがあったと話していたが、自分も両親や妻の元に戻るかと思っていると、1人の男と出会う。
横を行き過ぎようとしたクレスは一瞬の殺気に、身を翻す。
「避けるとはな」
「そんな物騒なもの持ち歩くんじゃねぇよ。弱っちいのに」
クレスはナイフを振りかざす男の手首を握り、即ナイフを奪うと、片腕で投げ飛ばした。
この技は、騎士の館の教官たちに教わったグランディアの武術で、武器を持たなくても相手の力を使って投げ飛ばす技である。
そして、気絶させると、
「チッ、少しだけ情報と思ったが……あったな」
奪い取ったナイフは、クレスの最近までいた辺境の向こう……オードニック共和国のもの。
元々南方で砂漠だけの国。
リスティルに言わせれば、
「周囲から略奪しかできないバカどもしかいない国。上部ばかり金をかき集め、一般の国民を苦しめる。一応調べたら鉱山があったよ。そこを発掘するなりわずかでも開墾、水路の確保などをすればいいのにバカが!こっちだって援助してやるのに……まぁ、国が上の首のすげ替えをしたらだけどね」
とにっこり笑っていた。
危険のないように、ハンカチで包み、収めると、
「親父たちと撤収……あ、デュアンは大丈夫か?」
言いながら戻っていったのだった。
そのデュアンは、料理と格闘していた。
熱いオーブンから出した肉はいい匂いが漂うものの、しばらく冷まし、そして、肉汁と幾つかの調味料でもう一つのとろみのあるソースを仕上げる。
そして肉を薄く切ると、
「わぁぁ……これはうまそうだ。パサパサじゃないよ」
「最初に焼くことでうまみを閉じ込めるんです。厚く切ってもいいですが、薄く切ってクラッカーに乗せられますし。そのままサラダと一緒に」
せっせと切りながら並べていく。
「じゃぁ、出していこうか」
順番に出していく様子に、最後まで切り終えたデュアンは大きく息を吐いた。
体が小さくなった分、少々体力も落ちたのかもしれない。
それに、先、父の声がして、帰還とあった。
もう、消え時かもしれない。
「すみません……少々お手洗いに……」
「あぁ、マリア、ありがとう。トイレはあっちだ」
「ありがとうございます」
と言いながら出て行ったデュアンは、裏口から姿をくらましたのだった。
「やっぱりあの匂い……臭いです……嫌いな匂い……」
半分以上ベソをかく。
ミューゼリックは妻と腰を下ろすが、アリアも不快なのか夫にもたれるようにし、向かい側にお姫様抱っこしたままセリがソファに座り、
「大丈夫大丈夫」
と慰めている間に、テオが部屋中を探し、1人用ソファに腰を下ろしたローズは扇を用い、
「セリ。悪いけれど、私たちの周囲だけでもいいわ、この匂いを遮断して頂戴。リティ姫が吸い過ぎたら危険だわ」
「はい」
二言三言口の中で何かを告げた途端、ふわっと匂いが消えた。
「姫さま、アリア様を中心として一定範囲匂いを遮断しました。でも、この辺り、風の精霊が通ってませんね……精霊避けでも隠しているのでしょうか……」
「それは周到ね。姫、遮断したとは言え辛いでしょう?これで鼻と口を覆っていてね?」
ローズ様はハンカチーフを渡す。
「ありがとうございます」
「良いのよ、実際私も頭に響くわ……この匂い。日常使っていたのかしら?」
「ローズ様」
テオの言葉に振り返ると、テオは衝立をずらし香炉を示す。
そして、盗聴の術具を……。
「……テオ、術で一時的に術具をおかしくしておく。香炉にも。他にないか徹底的に探せ」
小声で告げると、テオは術具に聞こえるように、
「はい。何か飲み物でもあれば良いのですが……ありませんね」
「変ねぇ……こういった休憩室にはつまめるものもあっておかしくないのに……」
「ちょっと聞いてまいります」
「お待ちなさい。姫をお守りするのが貴方の役目でしょう?」
ローズ様はたしなめる。
「でも、アリア様、大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。何とか……」
「ちょっとお待ち下さいな」
ローズは持っていたバッグから小瓶を取り出す。
そして、そのキャップを外し、手のひらに小さな小粒の錠剤を数粒出す。
扇を当てて、
「ミューゼリック様、セリ。これは向こうの毒消しの錠剤です。水なしで飲めますわ。早めにお飲み下さい。アリア様にも姫にも。私もテオも飲みますから大人は二錠。姫は一錠です」
と囁く。
それぞれ口に含んだのを確認し、
「では、テオ……大丈夫?」
立ち上がり、部下に近づくと、
「はい、清涼剤よ。貴方はきちんとしているけれど一応ね」
と口に押し込む。
「ありがとうございます。口臭がとか言われたら恥ずかしいですね。それにスッキリしてきました」
「でしょう?こういったものを持っていないと。でも、貴方が口臭ということは決してないわ。それよりも、他の美しい人に目を向けて、私を忘れたりしないでね?」
「分かっております。ローズ様のお願い通り」
一応隠語をバンバン用いているものの、ローズ様は仕事には厳しいが、優秀な部下をきちんと評価できる平等な上司である。
「でも、本当にどういうことかしら。パーティなのに、長い間待たせるのね……ちょっと疲れてきたわ……」
「大丈夫ですか?」
「アリア様も、姫も連日の移動……疲れているのかも。ミューゼリック様大丈夫ですか?」
「ちょっとな……だるい」
妻を抱きしめ、気だるげに告げる。
「ローズ様もお座り下さい」
「嫌よ。一緒にいたいわ」
言いながらテオに抱きつくようにして周囲を見回す。
と、離れ、少しふらつくようにして、
「ローズ様?」
「……何か気持ち悪い……きゃぁぁ!」
と言いながら、幾つも並ぶ置物を全て叩き落とした。
「ど、どうしましょう!壊してしまったわ」
「大丈夫ですか?お怪我は?」
言いながら、座り込み割れた置物をチェックするローズ様は、発見した盗聴術具を示す。
「何てことでしょう!謝罪しなければ……」
言いながらそっとハンカチに包み、扇で告げる。
「セリ。遮断の術を。向こうから破壊のないよう」
「はい」
「あぁ、困ったわ……」
言いながらハンドバッグに収めると、次はテオと共に回り、次々と2人でそういった道具を発見。使い物にならないようにする。
「本当にいつまでここにいるのかしら、ミューゼリック様。アリア様や姫は大丈夫ですか?」
「調子が悪そうだ。困ったな……帰らせて貰うか……」
ミューゼリックは、言いながら気配を察知した扉の前に立つ。
セリはリティを抱き上げ、そして即アリアをかばう体制をとる。
テオは窓、そしてローズは何の変哲も無い壁に向き合う。
と、扉がノックされ、
「失礼致します」
と言いながら開く扉に、
「入れと入っていないが?」
「遅くなりまして申し訳ございません。お飲物をお持ちしました」
ワゴンを押すメイドは片腕に、籠手と一体となった武器を構えている。
ミューゼリックはワゴンを蹴り飛ばし、扉を叩きつけ、抑え込む。
「ここの主人は、客に何をするんだろうなぁ?」
「主人の命令にございます。その小娘を渡せば……グフッ!」
「何をしている!」
外で声が響く。
成人前の少年風の声……。
「ぼっちゃま……」
「私はお前を知らん!ここがどなたに案内した部屋か解っているのか?」
「ちっ!」
「何をする!」
ミューゼリックは一瞬攻撃のできる3人を見ると、扉を開け、術を操り防御しているマクシムを取り囲む、数人の武装したメイドに侍従を見る。
「オラァ!」
側にいた侍従を蹴り上げ、メイドの首筋に手刀を叩きつける。
そしてマクシムは得意の炎の魔法で攻撃し、気絶させる。
「申し訳ございません!ラルディーン公爵閣下……」
「それよりも、帰還する。マクシム、ついてこい」
「はい」
ミューゼリックは引き返し愛妻を抱き上げると、
「皆、帰還しろ!ついてこい」
「姫さま、口は覆っていてね?」
セリは抱き上げたリティに言い聞かせる。
小さくこくんと頷くリティは首に腕を絡め、ぎゅっとしがみつく。
ミューゼリックの声に、クレスはハッとする。
何かがあったと話していたが、自分も両親や妻の元に戻るかと思っていると、1人の男と出会う。
横を行き過ぎようとしたクレスは一瞬の殺気に、身を翻す。
「避けるとはな」
「そんな物騒なもの持ち歩くんじゃねぇよ。弱っちいのに」
クレスはナイフを振りかざす男の手首を握り、即ナイフを奪うと、片腕で投げ飛ばした。
この技は、騎士の館の教官たちに教わったグランディアの武術で、武器を持たなくても相手の力を使って投げ飛ばす技である。
そして、気絶させると、
「チッ、少しだけ情報と思ったが……あったな」
奪い取ったナイフは、クレスの最近までいた辺境の向こう……オードニック共和国のもの。
元々南方で砂漠だけの国。
リスティルに言わせれば、
「周囲から略奪しかできないバカどもしかいない国。上部ばかり金をかき集め、一般の国民を苦しめる。一応調べたら鉱山があったよ。そこを発掘するなりわずかでも開墾、水路の確保などをすればいいのにバカが!こっちだって援助してやるのに……まぁ、国が上の首のすげ替えをしたらだけどね」
とにっこり笑っていた。
危険のないように、ハンカチで包み、収めると、
「親父たちと撤収……あ、デュアンは大丈夫か?」
言いながら戻っていったのだった。
そのデュアンは、料理と格闘していた。
熱いオーブンから出した肉はいい匂いが漂うものの、しばらく冷まし、そして、肉汁と幾つかの調味料でもう一つのとろみのあるソースを仕上げる。
そして肉を薄く切ると、
「わぁぁ……これはうまそうだ。パサパサじゃないよ」
「最初に焼くことでうまみを閉じ込めるんです。厚く切ってもいいですが、薄く切ってクラッカーに乗せられますし。そのままサラダと一緒に」
せっせと切りながら並べていく。
「じゃぁ、出していこうか」
順番に出していく様子に、最後まで切り終えたデュアンは大きく息を吐いた。
体が小さくなった分、少々体力も落ちたのかもしれない。
それに、先、父の声がして、帰還とあった。
もう、消え時かもしれない。
「すみません……少々お手洗いに……」
「あぁ、マリア、ありがとう。トイレはあっちだ」
「ありがとうございます」
と言いながら出て行ったデュアンは、裏口から姿をくらましたのだった。
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