ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし
49……ネグロス侯爵家でのパーティ直前
馬車の扉が開き、まずはテオが内側の鍵を開け、何も無いか確認すると、馬車に取り付けられた段と、侯爵家が用意していた段を使って降りる。
「失礼を」
テオが手を伸ばそうとするのを割り込み、けばけばしい衣装の男が扉の奥に手を伸ばす。
「なっ……」
テオが言いかけたが、
「あら、では失礼いたしますわ」
と奥から姿を見せるのは、扇で顔の半分を隠した金髪碧眼の美女……。
男の手に手を乗せ、畳んだ扇ごとドレスの裾をつまんで降りてくる。
扇を広げ、おほほと微笑む。
その後ろから小柄な青年が先に降り、異国感の漂うドレス姿の小さな少女を抱きおろした。
「ありがとうございます。テオお兄ちゃん、セリお兄ちゃん。やっぱり段が怖かったです……」
「高さに差があったからね。テオ先輩もありがとう」
「いいえ……」
小声だが喋る様子に、男は顔色を変える。
「貴方がラルディーン公爵の令嬢では……」
「まぁ。一応若いですけれど、デビュタントの令嬢の歳ではありませんわね」
「貴様!何者だ!」
「まぁ、いきなり何ですの?私はれっきとした招待を受けた側ですわ。それなのに、招待した側にそんなことを言われるなんて、心外ですわ!」
ローズ様が睨む。
しかしそれには色気も漂い、本気で怒っている風では無い。
だが、相手は聞いておらず、
「こちらには、ラルディーン公爵の令嬢が……」
「ブツブツと文句を言わないで下さらない?それに、令嬢はすでにエスコートされて中に入られたわ。それも解らないの?デビュタントには出席されたのでしょう?」
「してな……いいやしたとも!だが、会場のゴタゴタで見えなかったのだ!」
嘘である。
リスティルとティフィリエルの内々の話によると、ネグロス侯爵はその日、粛清された反国王派……リスティルの甥たちを中心とする出席を拒絶された一派とは違い、出席の書状を送ったが、欠席の連絡もなく来なかった……いや、遅れて少しして帰ったらしい。
その時に、会場内外の装飾品数点が盗まれていたと聞く。
前々から噂で、ネグロス侯爵が出席したパーティでは、暴言や無理やりダンスを迫ったり、何かがなくなっているのだという。
今回、ローズ様とセリではなくテオはその調査も兼ねていたりする。
テオも元諜報特別部隊に所属していた逸材である。
「それに、馬車は去ったというのに、私をエスコートしようとしたお相手を貴方が押しのけたのよ?私はどこに行けばいいの?このまま帰れというの?失礼だわ!」
食ってかかる。
「案内して頂戴な?でなければ……公爵閣下に申し上げてもよくってよ?」
ツンっとそっぽを向いたローズ様に、前後の馬車から降りてきた伯爵、侯爵が夫人を伴って近づいてくる。
「どうされましたの……」
「あら?ローズ様」
「お久しぶりですわ。先日のお茶会は楽しゅうございました」
「本当ですわ。今日はこちらに?」
夫人たちの声に振り返り、優雅にお辞儀をする。
「御機嫌よう、皆様。そして紳士の皆様、私はラルディーン公爵家に滞在しております、ローズと申します」
通常エスコートする紳士が紹介するのだが、扇で口を覆い、目に涙をためたローズ様は訴える。
「先程こちらに参ったのですわ。エスコートをしてくれる友人の弟と共に……それで、彼が先に降りて下さり、私に手を差し出そうとしましたの。それなのに、この方が彼を突き飛ばして……その上、相手がいなくなって困っている私に、『何者だ』と……こんな目に遭うなんて思いませんでしたわ」
ポロポロと涙が溢れる。
その涙に、
「まぁ!何てこと……」
「失礼ですわ……」
「本当に!」
顔をしかめる夫人たちに、その夫たちもネグロス侯爵に、
「侯爵。幾ら何でも、それは客人に失礼ではないか!」
「そうですぞ!貴方がしでかしたこと……すぐに陛下の耳に、その前にラルディーン公爵閣下の耳に入るでしょうな?」
「私がどうした?」
愛妻のアリアをエスコートし、現れたミューゼリックは、内心、すごい演技力だと感心しながら、
「ローズ嬢。申し訳ないことをした。先程貴方のエスコートの為に連れてきた者が、貴方を見失ったと。こちらの落ち度、許しては貰えないか?」
「本当に申し訳ございません」
後ろから姿を見せたテオが謝罪する。
ネグロス侯爵の手を振り払い、ローズ様はテオに近づき、抱きつく。
「あぁ、よかった。貴方だと思っていたのに、知らない方でしたの。怖かったですわ」
「ローズ様。本当に申し訳ございません。突き飛ばされ、驚いている間にでしたので……」
「次はない……そう誓って下さったらよろしくてよ?」
「はい。お誓い致します」
見た目は恋人同士だが、裏で交わされているのは、
『上手くやったか?』
『短時間でしたが、ある程度』
『次に招待は受けてない、解ってるな?』
『はい』
と言う隠語混じりの命令遂行確認だったりする。
しかし、華やかな美女と長身でそこそこ整った顔のテオの会話に、ご婦人方は頬を染め、
「歌劇のワンシーンのよう……」
などと呟いている。
「では、ローズ嬢。娘も心配していた」
「本当ですか。嬉しいですわ」
二組のカップルは順番に中に入っていった。
そしてその後をヒソヒソと話しながら招待客が入っていき、最後に出迎えていた執事が、
「旦那様。奥に……お客様がお待ちになられております」
と声をかけたのだった。
「失礼を」
テオが手を伸ばそうとするのを割り込み、けばけばしい衣装の男が扉の奥に手を伸ばす。
「なっ……」
テオが言いかけたが、
「あら、では失礼いたしますわ」
と奥から姿を見せるのは、扇で顔の半分を隠した金髪碧眼の美女……。
男の手に手を乗せ、畳んだ扇ごとドレスの裾をつまんで降りてくる。
扇を広げ、おほほと微笑む。
その後ろから小柄な青年が先に降り、異国感の漂うドレス姿の小さな少女を抱きおろした。
「ありがとうございます。テオお兄ちゃん、セリお兄ちゃん。やっぱり段が怖かったです……」
「高さに差があったからね。テオ先輩もありがとう」
「いいえ……」
小声だが喋る様子に、男は顔色を変える。
「貴方がラルディーン公爵の令嬢では……」
「まぁ。一応若いですけれど、デビュタントの令嬢の歳ではありませんわね」
「貴様!何者だ!」
「まぁ、いきなり何ですの?私はれっきとした招待を受けた側ですわ。それなのに、招待した側にそんなことを言われるなんて、心外ですわ!」
ローズ様が睨む。
しかしそれには色気も漂い、本気で怒っている風では無い。
だが、相手は聞いておらず、
「こちらには、ラルディーン公爵の令嬢が……」
「ブツブツと文句を言わないで下さらない?それに、令嬢はすでにエスコートされて中に入られたわ。それも解らないの?デビュタントには出席されたのでしょう?」
「してな……いいやしたとも!だが、会場のゴタゴタで見えなかったのだ!」
嘘である。
リスティルとティフィリエルの内々の話によると、ネグロス侯爵はその日、粛清された反国王派……リスティルの甥たちを中心とする出席を拒絶された一派とは違い、出席の書状を送ったが、欠席の連絡もなく来なかった……いや、遅れて少しして帰ったらしい。
その時に、会場内外の装飾品数点が盗まれていたと聞く。
前々から噂で、ネグロス侯爵が出席したパーティでは、暴言や無理やりダンスを迫ったり、何かがなくなっているのだという。
今回、ローズ様とセリではなくテオはその調査も兼ねていたりする。
テオも元諜報特別部隊に所属していた逸材である。
「それに、馬車は去ったというのに、私をエスコートしようとしたお相手を貴方が押しのけたのよ?私はどこに行けばいいの?このまま帰れというの?失礼だわ!」
食ってかかる。
「案内して頂戴な?でなければ……公爵閣下に申し上げてもよくってよ?」
ツンっとそっぽを向いたローズ様に、前後の馬車から降りてきた伯爵、侯爵が夫人を伴って近づいてくる。
「どうされましたの……」
「あら?ローズ様」
「お久しぶりですわ。先日のお茶会は楽しゅうございました」
「本当ですわ。今日はこちらに?」
夫人たちの声に振り返り、優雅にお辞儀をする。
「御機嫌よう、皆様。そして紳士の皆様、私はラルディーン公爵家に滞在しております、ローズと申します」
通常エスコートする紳士が紹介するのだが、扇で口を覆い、目に涙をためたローズ様は訴える。
「先程こちらに参ったのですわ。エスコートをしてくれる友人の弟と共に……それで、彼が先に降りて下さり、私に手を差し出そうとしましたの。それなのに、この方が彼を突き飛ばして……その上、相手がいなくなって困っている私に、『何者だ』と……こんな目に遭うなんて思いませんでしたわ」
ポロポロと涙が溢れる。
その涙に、
「まぁ!何てこと……」
「失礼ですわ……」
「本当に!」
顔をしかめる夫人たちに、その夫たちもネグロス侯爵に、
「侯爵。幾ら何でも、それは客人に失礼ではないか!」
「そうですぞ!貴方がしでかしたこと……すぐに陛下の耳に、その前にラルディーン公爵閣下の耳に入るでしょうな?」
「私がどうした?」
愛妻のアリアをエスコートし、現れたミューゼリックは、内心、すごい演技力だと感心しながら、
「ローズ嬢。申し訳ないことをした。先程貴方のエスコートの為に連れてきた者が、貴方を見失ったと。こちらの落ち度、許しては貰えないか?」
「本当に申し訳ございません」
後ろから姿を見せたテオが謝罪する。
ネグロス侯爵の手を振り払い、ローズ様はテオに近づき、抱きつく。
「あぁ、よかった。貴方だと思っていたのに、知らない方でしたの。怖かったですわ」
「ローズ様。本当に申し訳ございません。突き飛ばされ、驚いている間にでしたので……」
「次はない……そう誓って下さったらよろしくてよ?」
「はい。お誓い致します」
見た目は恋人同士だが、裏で交わされているのは、
『上手くやったか?』
『短時間でしたが、ある程度』
『次に招待は受けてない、解ってるな?』
『はい』
と言う隠語混じりの命令遂行確認だったりする。
しかし、華やかな美女と長身でそこそこ整った顔のテオの会話に、ご婦人方は頬を染め、
「歌劇のワンシーンのよう……」
などと呟いている。
「では、ローズ嬢。娘も心配していた」
「本当ですか。嬉しいですわ」
二組のカップルは順番に中に入っていった。
そしてその後をヒソヒソと話しながら招待客が入っていき、最後に出迎えていた執事が、
「旦那様。奥に……お客様がお待ちになられております」
と声をかけたのだった。
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