ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし

ノベルバユーザー173744

33……ティフィとアルトゥール

 ところで、ティフィは先日の父の爆弾発言に戸惑っていた。

 幼い頃から……まぁ、外見上は若いものの、執政者として采配を振るい、叔父達もいたものの他国との外交ですら老獪な外交官に冷静に対応しあしらい、劣勢だった交渉すら最後にはこちらに有利に切り替えもぎ取ったり、政策の面も、先王の政策を全て白紙に戻し、疲弊した国内をまずは落ち着かせ、富ませる政策を次々に打ち出した。
 それは、国内の民にはありがたいものだったが、逆に貴族には不評で、散々文句を言われたものの、

「それならば、お前達が政策を提示し、その政策を議論する。明日までに、まとめてくるが良い。己の懐のみ富ませるだけで、領民を安堵出来ない領主など、その領地には必要ないだろう。それよりも領民の為に如何に考え、自分の領地ではどのようなものが収益が出て、逆に現在こう行ったものがあるが、どうしても利用するすべが解らないと言うのなら、隠すのではなく私達に相談し、早期解決させ、一日でも早く荒れた地を耕すように勧め、商売ができるように道を整備し、商人が行き来しやすいように宿を作り、盗賊を捕らえる為に何らかの方法を考えるが良い!私は、その方法を献策できるが?モタモタしていては他国に侮られることを忘れたか?」

と一喝し、その言葉に即従い、自分の領地の地図やどういったものがあり、街はこうだと上申した貴族はすぐに財政や領地が落ち着き、豊かになり、逆にしなかった領地との差ができた。
 そうすると、貧しい領民は他の領地に行きたいと言い出し、慌てた貴族はリスティルやミューゼリックのもとを訪れ、頭を下げた。
 こうして、領地は預けるものの、その領民は国民であり、国民を苦しめる領主は次々と地位や領地を追われた。

 リスティルの政策が正しかったのである。

 リスティルは若い頃から異国を転々として、友人も多く、他国との比較や、どういったものが必要か、必要のないものは何かを調べていた。
 ティフィが生まれる前に王位に就いた父である。
 30年余りで、荒廃した国はこの大陸一の大国に発展した。
 その父が位を譲るという。

 まぁ、この国の平均年齢からしてリスティルは高齢である……外見は17歳余りだが……まぁ、そう簡単に死ぬタイプではないので、その点は気にはしていないと言うか、まだ国王を続けるつもりだと思い込んでいた。
 突然言われ困惑と言うか戸惑っている感じである。

「それになぁ……」

 父よりも長い髪を左手でかきつつ、右手は動かす。
 父は父で職務はあるが、王太子としてシェールドから帰ってきてから少しずつ仕事が増えてきていた。
 あの父の温情か、多いのはティフィがシェールドで学んできた植物学的なものが多い。
 地域ごとに育てるものを変え、そして流通によって国を富ませるにはどうすれば良いか、産業の複合化や、シェールドで知ったギルドのこと……。
 だが、まだ自分は未熟だし、と甘えたことを考えていたのだと今更ながら理解した。
 自分は王太子として生きるのではなく、王となり、父達がここまで成長させたこの国をどうするか考えなくてはいけないと……。

「……って、おりゃぁぁ!ティフィ〜!」
「わぁぁ!」

 耳元で怒鳴られ、我に帰る。
 声のする方を見ると、久しぶりの幼馴染みである。

「……」
「おい、何が言いたい」
「……会いたくなかった……」
「何だとぉぉ!」

 海の向こうの隣国シェールドの王弟アルトゥールである。
 ちなみに1つ違いの二人は幼い時から行き来があり、一応、ティフィがクレスールと共に騎士の館に留学した時、アルトゥールも一緒に入学すると我儘を言い、珍しく長兄陛下に怒られたらしく、2年後入学した時にはティフィは、大学院と館を行き来するようになっていて留学の間はすれ違いが多かった。
 ちなみに、シェールドでは男性は20歳にならないと結婚できず、その20歳でアルトゥールは結婚し、翌年娘が誕生した。
 現在、3児の父親で、子供の一人が、デュアンの婚約者のヒナである。
 ティフィのルーズリアは大体男性が18歳、女性は16歳前後で結婚することが多い。

「こっちは、ラルディーン公爵のおっちゃんが養女を迎えたとか、デュアン兄ちゃんが大怪我で大変だとか、パルスレット公爵の馬鹿のこととか次々に情報が入って、アオキにいに『とっとといってこんかぁぁ』って、ヒナと来たんだぞ。その上お前の親父、俺のことこき使って、あれやれ、これやれって……俺は、この国の人間じゃねぇっての!」
「うん、ミィはそうだね。でも、ミィの娘のヒナがデュアン兄さんの婚約者でしょ?ヒナが辛い目に遭いたくないよね?って、やれ」
「やるか!俺はシェールドの王弟で、こっちに口を挟めば外交問題になる」
「こっちは手が離せない。ミィと遊んでる暇はない。文句があるならアオキ兄さんに言え」
「言えるか!」

 アルトゥールと、双子の姉のアーデルハイドは3歳から両親ではなく、17歳年上の双子の兄と15歳上の姉、そして長兄の正妃となるルエンディードたちに育てられた。
 特にルエンディードは、幼児期、実の母親だと信じていた程可愛がられ、甘やかして貰い、兄達が忙しい時はその実家のマルムスティーン家で大きくなったようなものである。
 両親……特に父親とは距離があると言うよりも、父親という感覚がない。
 向こうもアルトゥールのことを息子と思っていないのだと思う。
 それはそれで良いのだが、自分にも一応母親のセイラにはそれなりに思うことがあり、微妙に感じることもある。
 その代わり、ティフィは両親がいて大切に可愛がられて来たのだろうなと羨ましく思っていた。

「それに、手が離せないって言うなら、考え事して手が止まってる自分を理解しろ、馬鹿」
「……あ、本当だ。終わらないと思った」

 そのまま仕事を復活させる。
 アルトゥールは文句を言いたくなったが、ティフィの執務室にあるソファに腰を下ろし背伸びをする。
 だが、そこには冷たくなったお茶と、滅多に食べないお菓子が置かれたままになっている。

「おい、ティフィ。お前、お菓子食うのか?」

 アルトゥールは、母国では滅多に喋らないぞんざいな口調で問いかける。



 前にこの言葉遣いで喋ったところ、守り役で剣術をしごいてくれたカズール伯爵シエラシールにボコボコにされた。
 余りにも容赦がなく、長兄が止めたのだが、シエラシールは、

「お前はアレクか!幾ら兄弟とはいえ、国王陛下である兄たちに向かってそういう喋り方をするように私達は教えていないよ!マナーの再教育だ!」
「いやいや、父さん。のぞみも解ってるから。いつもはちゃんと出来てるよ。今日は多分騎士の館で友人たちと喋っていた言葉遣いになったんだと思うから……」
幸矢こうや!甘やかさない!お前は自覚があったから違うけど、蒼記あおきも実際そう言うところがあった。公私はは分けるべきで、兄弟でもルールが必要だ。特に、お前は望とねがいに甘すぎる!」
「と言うか、息子……みたい?」
「息子じゃないだろう!弟だ。ちゃんと面倒を見てきた。それは良いが、弟の成長を考えるなら突き放すか、厳しくしなさい!出来ないなら口を挟むな!」

と一喝し、謹慎という名目でカズール領に送られ、しばらく徹底的にマナーから何からやり直された。
 それ以来、母国、家族の中でも言葉遣いには注意している。
 それ以上に死にたくはない……。



「ん?あぁ、それは、リティとラディエルたちが持ってきてくれたんだ。手が離せなくて食べてない」
「ふーん……」

 小さいサイズのクッキーに、

「これ、お前サイズ?小さいなぁ」

と言いながら1つつまみ、ポイっと口に放り込む。

「うん、うまい」
「食べるな!折角リティ達が作ってくれたんだぞ」
「このサイズは、お前用にか?」
「いや、リティサイズ。リティは食が細いんだ」
「あぁ、ダイエットしてるにしては、時間はゆっくりだし、一口は小さいし、うちのヒナより食べてないな……」

 思い出す。
 まだ万全ではないリティは兄を監視するようにと父親やティフィの父によって、一緒の部屋で寝起きし、食事も取るのだが、デュアンが上品だが良く食べるのに対して、リティはちょこちょこと摘んでいる。
 量は本当に少ないが、幸せそうに噛みしめる姿は、小動物のようである。

「でも、本当に14歳なんだ、あれで」
「悪いか」
「何で機嫌が悪いんだよ。可愛いなぁって言ってるんだろ。うちの六槻むつき姉ちゃんも小さいぞ」
「……まぁ、そうだな」

 六槻はシエラシールの娘で、兄達の乳兄妹。
 アルトゥールの愛称のミィは六槻がつけたものである。

「それよりも、何でイライラしてるんだ?」
「してない」
「してるだろ。お前、そんなんじゃ仕事は進まないぞ。ここにきて休めよ。さっき、お茶頼んでおいてやった」
「ミィが飲みたいだけだろう」

 言いながら、このままでは仕事は出来ないと諦め、席を立つ。
 そしてアルトゥールの向かいに腰を下ろすと、クッキーの入れられたカゴを引き寄せる。
 手にしたのは緑色のクッキー……抹茶である。

 小さいのは、王宮に滞在するリティや、時々やって来る弟のラディエルの親友になったクレスールの子供達が食べやすいようにと、早急に業者に小さい型抜きを作って貰ったのだと言う。
 それを聞いてリティ達が、ラディエルとヒナを巻き込んで粉まみれになりながらクッキーを作ったのだと言う。
 一度汚れを落として、ちょこちょことこの部屋に顔を覗かせた6人に、何とかここまでは出歩いていいと言われたらしいデュアンが置いて行ったのである。
 そう言えば、ティフィの後には、両親の元に持っていくとラディエルは頰を赤くして言っていた。

「兄上も食べてね?」

 嬉しそうな弟に、その時だけは椅子から離れていたティフィは頭を撫でた。

「ありがとう。ラディエル」
「ううん!兄上が頑張ってるもん。僕にはまだお手伝いできないけど、待っててね!僕、兄上のお手伝いが出来るように勉強するからね」
「あぁ、待ってるよ。それに皆もありがとう。頑張ったんだね、こんなに一杯」

 5人にも頭を撫でる。
 ノエルの2人の妹はまだ小さい。
 その為怖がられないように膝を折って、頭を撫でたのだが、ぎゅっと抱きついてくる。
 キャハキャハと嬉しそうに笑う2人に、こちらも微笑んだ。

 小さい頃の妹たちはおしゃまで少々どころかお転婆だった。
 余り近くにこんなに可愛い小さい子はいなかったような気がする。

「ふーん……ティフィ、そんな顔できるんだ」
「何がですか?デュアン兄上」
「ふふふ……なーんでも。じゃぁ、皆、ティフィお兄ちゃんはお仕事だから、次はリー伯父さんの所に行こうね。お兄ちゃんにバイバイしよう」
「バイバイ、おにーたん」
「バイバイ、またね」

 小さい手を振り出て行った弟たちを見送ったのだった。

 2つ目をつまみながらため息をつく。

「どうしたんだよ」
「……国のことだから言えない」
「ん?あぁ、お前付きだった近衛のカークだっけ?あいつのことか?」
「……何で知ってる」
「ん?スイにいちゃんが、あいつの実家借金があるって言ってた」

 トントンっとノックがされ、

「失礼致します」

 ワゴンを押しながら入ってきたメイドは、ゆっくりとお茶を準備する。
 そして、丁寧にテーブルに置かれたティーカップを黙って見ていたアルトゥールは、にっこり笑いメイドに声をかける。

「ねぇ、悪いけど、私はこの国で死ぬつもりはないんだ。毒を淹れて貰っても嬉しくないんだけど」
「……!」

 手を伸ばそうとしていたティフィは、顔見知りのメイドを見る。

「な、何をおっしゃって……」
「私の国では、陛下は白湯しか飲まないんだ。それと祖父の淹れるお茶だけ。それに陛下は敏感でね。絶対に口にしないよ。こんな王宮の奥で、お茶の色が濃すぎる……私が自分で面倒がってティーポットに茶葉を入れっぱなしにした出がらしのお茶のようなものを、メイドが王太子殿下に出すのかい?」
「!」
「待て!」

 身を翻そうとしたメイドを、近衛が捕らえる。
 慣れた手つきで、舌を噛まないように身に帯びていたチーフで簡易的な猿ぐつわを作る。
 そして、外にいた衛兵と共に連れ出した。

「そ、そんな……」

 ティフィは呆然とする。
 その前で、ティフィが口にしないように横にずらしながら、

「デュアン兄さんが、何度かティフィを襲う者を捉えていたの、知らなかった?」
「……っ……知らなかった……」
「で、本当はコウヤ兄ちゃんが来るつもりだったんだけど、無理だろ。捕まえとくからってアオキ兄ちゃんが、で、俺が来たんだよ。デュアン兄さんあれでも動こうとしてたらしいから、ヒナは保険。俺は、一応クレスール兄ちゃんもいるけど、陛下についてるから、ここに来た。数日中にはウェイト兄ちゃんとカイ兄ちゃんが来る」
「……私は……何も……」

 項垂れるティフィに、アルトゥールはクッキーをつまみながら、

「そりゃ、知らない方がいいだろ。アルス先生が言ってたぞ。うちんとこのルードじいちゃん、一歳頃暗殺者に襲われて死にかかったんだって。で、何とか助かったんだってさ。でも、危ないからって安全な所にって隠したんだよ。お前も王太子なんだから、自分から前に出るなよ」
「アルトゥールは出てるじゃないか……」
「そりゃ実戦に身を置いてるからな。本当は兄ちゃん……特にコウヤ兄ちゃんは騎士として生きたかったんだ。でも、仕方ないだろ」
「王になるから?」
「兄ちゃんのあの目立つ顔で、騎士出来るか?アオキ兄ちゃんならまだしも」

 思い出し頷く。
 国王アルドリーは、世界的にもプロマイドが売れまくる程、美貌の持ち主である。
 一応、父のリスティルも母のティアラーティアも美貌の持ち主だが、それを超える美貌で、身分を隠して出歩くのも無理である。
 髪の色に瞳も、他の誰も持っていない色で、術で変化も出来ない。
 それだけでなくオーラが違うのである。

「それはそうだな」
「だろ?それに、お前も、親父さんに似てるから外に出にくいだろうし」
「いや、お忍びは時々してるよ。ギルドとか……その関連」
「アホ。ギルドのメンバーはお前のこと知ってるからだよ。お前は俺の親父のように失踪出来るか?」
「……無理、と言うか、ここがあるし……。情けないな……叔父上の屋敷とか位で、旅に出ることもないし」

 ため息をついたティフィに、うーんと背伸びをすると、

「その方がいいんじゃねぇ?俺の親父みたいに、仕事も家族もほったらかして失踪なんて、馬鹿だよ。しかも、兄ちゃんが20になったら即譲位。もうここ何年もろくに顔合わしてねぇもん、俺」
「私だって、父が……」
「でも、ちゃんと戻って来ただろ?俺んとこは……無理。あんなの親父とも思いたくねぇ。兄ちゃんの息子に生まれたかった……まぁ、王位を継ぎたいとかじゃないけど……俺は、あんな親父にはなりたくない。似てるって言われるのも嫌だ」
「ミィ……」

かける言葉がない……。
 それが解ったように苦笑し、その後、にやっと笑う。

「お前もそろそろ結婚しろよ。お前のことだ、子育てに頭抱えるから」
「何かあったら、お前の子育ての大変さを愚痴っていたアオキ兄さんに聞くから」
「あぁ、アオキ兄ちゃんは、聞いても無理無理。俺の悪戯をますます悪化させて、シエラ父ちゃんに訓練場送りされてたから。俺は、正座でじいちゃん達のありがたいお言葉を、延々と聞かされて、最後に兄ちゃんの『もうしないね?』の一言で、ごめんなさい、だ」
「……目に浮かぶね。言うか、私はそう言うことなかったなぁ……」
「だろうなぁ……」

 と、忙しげに扉が叩かれ、

「ティフィ!」
「2人とも、無事だね!」

 と駆けつけて来たのは、両親。
 アルトゥールは振り返り、

「大丈夫ですよ。ティフィが飲む前に私が止めたので」
「あぁぁ……!ありがとう……ありがとう、アルトゥール」

 息子に駆け寄りながらティアラーティアはお礼を言う。
 声は震え、青ざめた顔で息子の様子を確認する。

「良かった……大丈夫とは分かっていたけれど……」
「ミィ……アルトゥールに助けて貰いました。年上なのに情けないです」
「それにしても……アルトゥール。もし何かあったらどうするの」
「大丈夫ですよ。毒にも耐性つけてますし」
「アホ!」

 リスティルはガンッと頭を殴る。

「お前はシェールドの王子であるのと同時に、私の息子同然なんだ。私も琥珀ちゃんも、ティフィだけじゃなく、お前のことも心配してたんだからね!反省しなさい!」
「いってぇぇ……!」
「……アルが心配してたよ。真っ青な顔して……こっちに来るって言うのをアーサー達が必死で引き止めてるって。で、前倒しで送るからって」
「に、兄ちゃんが……?」
「当たり前でしょ。昔から言ってたよ。弟と言うよりも可愛い息子だって。今回出したのも、アーサー達がアルに黙ってて、激怒してたらしいよ」
「知らなかった……」

 頭を撫でながら項垂れる。

「兄ちゃんに謝らないと……」
「そうしな。で、怒られるといいよ」
「……ひでぇ、俺の父親がわりって言ったのに」
「それはそれ、馬鹿をしたら叱られる、当たり前でしょ?」

 リスティルの言葉に、少し泣きそうな、歪んだ顔でアルトゥールは笑ったのだった。

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