ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし

ノベルバユーザー173744

10……公爵家の娘。

 リティは静養しつつ、周囲は少しずつデビュタントの準備を始めていく。

 特に公爵家は、久々の大きな行事と言うことで、浮き足立っていると言うよりも、皆朗らかに笑っている。
 リナとレナはリティが少しずつ起きている時間が長くなると、邸を案内してくれたり、初夏になりつつあると言うことで、庭の四阿でレディとしてのレッスン兼ティータイムを準備してくれる。
 しかも、そのティータイムはティーパーティと言ってもおかしくないもので、忙しいミューゼリックや兄のデュアンリールは休日に、そして母のアリア、そして従兄弟のティフィリエルとマシェリナ、ミシェリア、ナディアラ、ラディエルという、国王の子供達が顔を見せるようになっていたのである。

 ティフィリエルはリティの兄デュアンリールよりも7歳下。
 ちなみに童顔の兄は三十路も後半であるが、10代に見える程である。
 ティフィリエルは今年30才だが、10代半ばのリティと変わらない年頃である。
 と、リティは思っているのだが、リティ自身、年齢にそぐわぬ華奢さで、8歳のラディエルと変わらない位に見えることは知らない。

 ティフィリエルの妹三人は、整った両親の良いところを貰った美貌の持ち主で、ラディエルは母親に似ている。
 そして、ティフィリエルは、唯一顔立ちと言い髪の色、瞳も父親に瓜二つの冷たい美貌とも呼ばれる鉄面皮に育った。

 今日は、母と四阿でレッスンの後、仕事から帰ったデュアンとのダンスレッスンがあったのだが、ティフィリエルが非公式であるもののやって来た。
 出迎えに向かい、丁寧に教わった挨拶をする。

「あ、お忙しいのにようこそお越し下さいました、お兄さま」
「いや、今日は、デュアン兄上が本当はリティのダンスのレッスンがあるけれど、仕事で無理だからと言われたんだ。突然済まない」
「いえ。来て下さって嬉しいです」
「あ、そうだ。これをプレゼントしようと思って持って来たんだ」
「何ですか?」

 クリクリの瞳が小動物にしか見えないリティに、袋を手渡す。

「ありがとうございます。えと……、見ても構いませんか?お兄様」
「あぁ」

 いそいそと袋を開け、目を丸くする。

「わぁ……香水ですか?」
「ラベンダーウォーターと薔薇水なんだ。ほら、私のハンカチーフにも少し香るだろう?スプレーに移して、一回すると良いと思う。私は兄さんと違って、趣味が植物を育てることで、ポプリとかもよく作るんだ」
「素敵ですね。ラベンダーウォーターは、ある地域で名産ですね。それに薔薇も」
「両方私の領地なんだ。アロマ用のローズオイルやラベンダーオイルも作っている。でもそのままつけると肌に敏感な人はダメだから、ラムダナッツオイルなどを混ぜるけれど、ラムダナッツオイルはシェールド特産だからね。今度シェールドに行った時に、叔父上や兄さんに頼んで買いに行くと良いよ。それに、あちらは固有の植物が多い上に、絶対的な管理でグランディアの動植物園があるんだ。見に行ってみると良いよ」
「そうなんですか!とっても楽しみになっちゃいました」

 頰を赤くした少女は、嬉しそうにプレゼントされた2つを見つめている。

「嬉しいです。瓶も可愛いです。使うのが勿体無いです」
「いやいや、使って?又プレゼントするから。ね?リナ、レナ。よろしく頼むよ?」
「かしこまりました」
「お嬢様?四阿に」
「あ、はい。お兄様。どうぞこちらです」

 案内して行く。
 四阿には母のアリアもいて、

「ようこそ、皆。リティお疲れ様」
「ママ。お兄様に頂いたのです」
「まぁ、ありがとう。ティフィくん」
「いえ、本当は父が私の温室からチェナベリーの苗を持っていけと言うので、叔父上や叔母上に伺ってからと思いまして」
「チェナベリー……」

従姉妹の少女は、目をキラキラさせる。
 チェナベリーは、シェールドの野生のベリーの木である。
 ハートの形の可愛い実が生るのだが、基本育つのは金の森が中心で、金の森は国王の直轄領地でその上野生の生き物の宝庫である。
 特に、ブラックドラゴンやナムグの生息繁殖地で禁猟となっている。
 入っても問題ないが過剰に搾取はダメ。
 共存共栄である。

 しかし、身の程知らずはいるもので、ドラゴンやナムグの子供、果てはシェールドの民を誘拐し異国に連れ去ろうとするものが横行した時代があったらしい。
 その時代は、現国王の曽祖父の父の時代。
 二人目の偽王ととして名前は消されているが、現在の王の曽祖父アルフレードの父は父王の次の王に選ばれなかったことに腹を立て、王に選ばれていた姉の長男を監禁し、父王を殺害したとも言われている。
 姉が嫁いでいたのがマルムスティーン侯爵家……国王の側近の『五爵』の一家。
 シェールドの第二の暗黒時代を終わらせたのは、正式な国王アルフレッド王。
 そして、その従弟であるアルフレードに王位を譲り、自分はマルムスティーン家の当主として従弟を支えたのだと言う。

 そして、アルフレード王は国内が落ち着くと、末子で一人息子のアヴェラートに王位を譲り、混乱する国内を王宮からではなく地域を飛び回り平定して行った。
 アヴェラートは余り丈夫な体質ではなかったのだが、これ又末子で一人息子のアレクサンダー・レオンハルトが、王位に就く前から王宮や養育されていた屋敷を抜け出しては悪事を調べ上げ締め上げ、それは王位についてからも変わらず、長男が成人してすぐ王位を譲ると、妃と共に旅に出て行った。
 ちなみに当時3歳になったばかりの双子の末っ子たちも息子に預け、現在もあちこちで暴走しているらしい。

 で、話は戻るが、チェナベリーは現在のシェールドの国王アルドリーの唯一食べられる甘味で、アルドリーはある原因で摂食障害なのだと言う。

 リティは腰を下ろすとティフィを見る。

「あの。チェナベリー、ここで育つんですか?」
「うーん、森の中の茂みだからね。光が強すぎてもダメだけど、なくてもいけない。風通しが良くて、寒すぎないところ」
「難しいですね」
「と言うか、ここの周りなら良いんじゃないかって父上は言ってた。ここに大きな木があるし、季節によっては陰が出来る。風通しもいいから最適だって……あぁ、ありがとう」

 ティフィはリナに渡された紅茶に、お礼を言いつつ答える。

「まずはプランターで育ててみて、大丈夫なら植えようかと思ってる。土の問題があるかもしれないしね。デビュタントが終わってから、時間を見て調べるつもりだよ。その時には秋になるかな。その時期に植えるとダメだから、地植えは来年かな」
「凄いですね。お兄様。学者さんみたいです」
「いや、一応学位は持ってるんだ」
「そうなのですか!デュアンお兄ちゃんも、学者さんって……」
「兄上はシェールドの学位を取りまくっているけど、特に興味というか、うわぁ!ってなったのは、ミカを戴いてから、生き物に……特に、フカフカしたものにはまっているみたいだね」

 遠い目をする。

「ミカと彼らといると顔面崩壊……だし、あ、リティにもデレデレだよね」
「お兄ちゃんはとっても優しいのです」

 えへへ……

頰を赤くする。
 今回も、デュアンは餌付け成功したらしい。

「そうだね。あ、叔母上。そう言えば父が、これを使ってくれないかと持ってきました」
「あら、何かしら?」

 甥と娘の会話を微笑ましげに聞いていたアリアは、差し出された2つの皮袋に首を傾げる。

「実は、昔、父が発掘していた頃に集めていたもので、小さいけれど質のいいものだそうです。こちらが穴の開いているものですので、髪に編み込んだり、ドレスに縫いこんでも可愛いんじゃないかと。で、こちらはカッティングをして使って欲しいと」
「まぁ!」

 中を開けると、アリアは感嘆する。

「素敵。綺麗ね。髪に編み込むのも、付け毛にこの石をちりばめて見てもいいかもしれないわ。お兄さまにお礼をお伝えしないと……」
「いつも母や父や家族がお世話になっていますので、いいと思いますよ?」
「ダメよ〜?本当にお兄さまにはご迷惑をかけているもの。それに、ティフィくんにも」
「いえ、私は全く。逆に私がリティのデビュタントのパートナーで良いのかと、迷惑をかけて大丈夫かと思うのですが……」

 少々物憂げに告げるティフィに、アリアは、

「本当にお願いしていたのは私たちよ。ティフィくんで本当に嬉しいわよね?レティ?」
「は、はい!お兄さま、本当に嬉しいです。よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 珍しいティフィの微笑みに、アリアはあらっと目を見開いたのだった。

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