流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

依頼人



「お仕事をもらいに来たら、O・C・Uの軍隊の応接室に通されちゃった………あの、ヨシュアさん? 企業のお仕事ではなかったのですか?」


同業者のヨシュアから持ち込まれたテストパイロットの依頼を承諾したマイト達は翌日ヨシュアの案内でなぜかO・C・U軍施設の応接間にお邪魔していた。


「まあ、企業とは入ったが、国営企業でないとは言っていないぜ?」
「貴方を信じたのは間違いだったのかしら……」


ヨシュアはニカッと笑って悪びれた様子もなく種明かしする。アナスタシアは深い溜め息をついて頭を抱えていた。


「ていうか、国営企業の依頼って失敗したら大事になりますよね? ねえ、ほんとに僕でいいの? 国のお仕事ですよ!?」
「だいじょうぶだって、気楽に考えろって」


マイトは不安そうにヨシュアに何度も同じことを質問する。ヨシュアはニカッと笑った表情のまま飄々とマイトの質問を受け流している。


「ヨシュアの言うとおりだ。気楽に考えてもらって構わない」


プシュっと自動ドアが開く音共に一人のO・C・Uの士官服を着た軍人が入ってきた。
短く切り整えられた金色の髪型、欧州系の中性的な顔にブラウンのつり目の瞳、眼鏡を掛けて知的な印象をマイト達に与えていた。


「おう、アナベル。依頼通り連れてきたから、契約内容の確認してやってくれや。俺が説明してもこいつら信用しねーし、全然落ち着かないみたいだからよ」


ヨシュアは応接間に入ってきた軍人のアナベルに軽く手を上げて挨拶して、マイト達に説明してくれと頼む。
アナベルは姿勢良く直立するとマイト達に向かって敬礼した。


「依頼の話の前に、まずは自己紹介からさせてもらいましょう。自分はO・C・U軍事産業体およびO・C・U情報部所属のアナベル・カサンドラ少佐です。マイト・ダイナー君、アナスタシア・シュヴェーゲリンさん、本日はわざわざご足労いただきありがとうございます」
「あ、僕はマイト・ダイナーです。アナベル少佐初めまして」


マイトはヨシュアから離れると慌てて自己紹介し、アナベルに敬礼を返す。


「アナスタシア・シュヴェーゲリンです。はじめまして、少佐。早速ですが、今回の依頼、国営企業のパイロットとは聞いていませんでしたが?」


アナスタシアも自己紹介するが、その口調には避難の混じった棘が隠れていた。


「そうですね、たしかに普通ならあり得ない依頼ですね。まず確認しておくと、最初に提示した依頼内容に変更はありません。一ヶ月の訓練で結果が出せればよし、結果が出なければ依頼は失敗となりますが、罰則もありません」


アナベル少佐は苦笑しながら端末を操作し、契約書を表示し、契約内容をハスキーボイスで説明する。


契約書にはヨシュアが伝えた内容と同じ依頼内容が文章として表示され、正式にO・C・U軍事産業体の承認サインも入っている。


「その、ずいぶんと条件が良すぎですが、失敗しても問題ないといわれても……国営企業の命運をかけた機体で、しかも、軍の情報部が関係している依頼で失敗しても問題ないっていうのは……」
「それほど、今回の我々の機体は不利なんです。おそらくまともに発表しても評価は芳しくない。素人にも扱えるという事をアピールできないと、O・C・U領内からの需要すら来ない程です」


マイトが恐る恐る手を上げて意見を述べる。アナベル少佐はマイトの意見を聞いて苦笑を浮かべながらO・C・U軍事産業体の内情を伝えた。


「はっきり言ってしまえば、我々はすでに今回の式典を諦めていたのですよ。エウロパのジニック社やアナイム重工におされて、O・C・Uに本拠を移したシダテル軍事産業が、 我々と同じ性能で我々の機体より安価、さらに我々の機体には搭載されていない可変型のフレームアーマーを開発した時にね」


アナベル少佐がまた端末を捜査すると応接間のテーブルの上に立体ホログラム映像が現れ、O・C・U軍事産業体とシダテル軍事産業が開発したフレームアーマーのデーターが表示される。


「今回は諦めて、機体は次の機体をつくるためのデータ収集機として利用しよう。我々はそう考えていました。ですが、マイト君という我々にとって都合のいいパイロットが見つかったため、一か八かで、操縦性を売りにする戦略にかえたのですよ」
「つまりは、失敗を前提としていたと?」
「ええ、もとより勝ち目のない状態です。藁にもすがる思いというやつですよ」


アナベル少佐の話を聞いてアナスタシアは失敗が前提であることを再確認する。
アナベル少佐は苦笑しながらアナスタシアの問に肯定する。


「まあ、マイトが上手いことやれば万々歳、失敗しても次に回せばいいよねーってぐらいの頼なわけだ」
「そういうことなら、僕としては安心ですけど……本当に僕でいいんですか?」


ヨシュアがマイトの背中を叩きながら引き受けるように促す。
マイトも不安な表情でアナベル少佐とヨシュアに顔色を伺う。


「ええ、マイト君以外には条件に合うパイロットは見つかりません。重ねて言いますが、この依頼は失敗しても構いません。我々の賭けに協力してほしいというだけの話です。この依頼、受けていただけませんか?」
「契約はギルドを通すから反故にされることもない。昨日も言ったが訓練だと思って受けてみろよ」


アナベル少佐とヨシュアはマイトが気負わないように気楽な感じで依頼を勧めてくる。


「えと、アナスタシアさん……」
「アナベル少佐もここまで言ってるみたいだから、たぶん大丈夫だと思うわ。マイト君の好きになさい」


助けを求めるようにアナスタシアを見るマイト。アナスタシアは受けてもいいと肯定はするが、マイトが自分に頼りすぎないように気をつけないといけないかなと思い始めていた。


「そういうことなら……アナベル少佐、この依頼受けさせていただきます。操縦訓練も受けてない僕ですけど、この一か月で出来る限りのことをやって結果を出してみます」
「ありがとう、マイト君」


マイトが依頼を改めて引き受けると聞いてアナベル少佐は安堵したように息を吐き、マイトに握手を求める。
マイトは慌ててズボンの裾で手を拭いて汗を拭き取り、アナベル少佐の握手に応えた。


「さてと、契約も無事成立したことだ。アナベル少佐とアナスタシアで契約書の作成はやっといてくれ。マイト、お前は俺が鍛えてやるからついてこい」
「いきなりなんですか、ヨシュアさん。訓練は軍の施設でやるんですよね?、なぜにヨシュアさんが?」


話が纏まるとヨシュアがマイトの肩を力強く叩き、アナベル少佐とアナスタシアに契約書の作成を任せる。
マイトはヨシュアの方に振り向いて疑問を浮かべた顔で見上げている。


「実は俺、O・C・U軍にも所属してるんだよ。で、依頼を受けた場合の指導は俺を通してやるんだ。下手に普通の軍人通して、トラブルにならんようにな」


ヨシュアはサングラスを外してニカッと笑い、ポケットからO・C・U軍に所属してる証明証を見せる。
そこには確かにヨシュアがO・C・U軍属であることが表示されていた。


「もしかして、僕が式典に参加するのって、正規のパイロットの方に恨まれてたりするんでしょうか……」
「そりゃ、そうだろう。エースとしての花形であるテストパイロットを傭兵がやるんだ、恨まれて当然よ。で、トラブル防止のための俺様ってわけよ」


マイトの疑問に笑みを浮かべたまま答えるヨシュア。マイトは自分の嫌な予感が当たってため息を付いた。


「やっぱり、おいしい話にはトラブルはつきものですね」
「これぐらいは諦めな。さあ、さっさと訓練するぞー、俺はスパルタだからなー」
「って!? また担がないでくださいよ!! 逃げませんから!!」


ヨシュアがマイトを抱きかかえて訓練所へと向かう。マイトは必死に暴れるがやはり体格差からヨシュアはびくともしなかった。


「では、私たちは契約のほうを詰めましょうか」
「わかりました。でも、本当にこんな好条件でいいんですか?」


マイトとヨシュアを見送ったアナベル少佐とアナスタシアは応接間に残り、今回の依頼の契約書の作成に入る。
アナスタシアは契約内容を見て、アナベル少佐に内容を再確認する。


「本当はもう少し条件を厳しくするつもりだったんですがね」
「実際にはそのようなことはなかったですけど、何故条件を厳しくしなかったんですか?」


アナベル少佐は苦笑しながらアナスタシアの質問に答える。


「部屋に入った瞬間、一目見て契約のことなど忘れました。見入ってしまいましてね、喜ぶ姿が見たいと思い、条件を甘くしてしまいましたよ」
「……は?」


アナベル少佐はまるで恋をするように頬を染めて告白する。
アナスタシアは心底不快そうな声で聞き返してしまう。


「あの、アナベル少佐? お気持ちは嬉しいのですが、私への私情と仕事の話を一緒にされるのは……(この色ボケ士官、何言ってるのよ)」


つい漏らしてしまった不快の声を誤魔化すように頬をひくつかせながら愛想笑いをしてやんわりと私情を挟むことを注意する。ちなみに心の中ではアナベル少佐を罵倒していた。


「え? シュヴェーゲリンさんへの気持ち? 何を言ってるんですか?」
「え? いや、喜ぶ姿がどうとか……」


アナベル少佐はキョトンとした顔で聞き返し、アナスタシアは必死に表情筋を駆使して愛想笑いを続けて窘める。


「ああ、勘違いなさってたんですね。私が言っていたのはマイト君のことですよ。私は同性には興味ありませんから。彼の姿、雰囲気、喋り方、すべてが私の心をときめかせますよ。まあ、仕事の依頼に私情を混ぜたことは問題でしたが、彼に心を奪われてしまったのだから、仕方のないことです。人間、恋を忘れては生きていけませんからね」
「え? 同……性……ですか?」


アナベル少佐はマイトの姿を思い出して恋する乙女のような表情をする。
一方アナスタシアは同性という言葉を理解できなかったのか、アナベル少佐を足元から頭の天辺まで何度も見直して聞き返してしまう。


「ああ、勘違いなさっていたんですね。軍隊って男社会じゃないですか、女というだけで馬鹿にする奴らがいるので肩肘張っていたら、この外見と名前も相まってよく男性と間違えられるんですよね」


よく性別を勘違いされるのかアナベル少佐は苦笑しながら自身の身分証明証を提示する。
アナベル少佐の身分証明証の性別の欄には確かに女性と表示されていた。


「たっ……大変失礼な発言をして申し訳ありませんでしたー!!」


アナスタシアは土下座する勢いで頭を下げてアナベル少佐に謝罪した。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品