魔獣の森のお嫁さん
ドラゴンバスター
◆◆
下位とは言えドラゴンの一種であるそれは、身を貫く痛みに耐えかねていた。
度重なるクロスボウの連射により、体には無数の太矢が突き刺さっている。それは身を動かすたびに痛みと血を流しいていた。そしてなによりレッサードラゴンを傷つけていたのは、目の前の小さな生物たちによって殺されるかもしれないという、感じたことのない恐怖だった。
今までは自分より小さな生き物は全て、それのエサでしかなかった。それは自分より小さな生き物にしか挑んでこなかったし、何よりそうしなければ森の深部では生きてこれなかった。
腹を満たすものではないが懐かしいニオイにつられて森の浅部に出てきたレッサードラゴンが感じたのは、軽い落胆だった。
浅部の獣はみな小さく、わざわざ走り回って捕まえても腹を満たすには足りなかった。懐かしいニオイは気になるが、腹が減ったなら追い続けることはできない。目の前に現れたちょっかいを出してくるムカつく小動物を食ったなら、深部へと帰ろう。そう思っていた。
それなのに、今のこの状況はどうだ。
エサだったはずの小さな者どもは、腹の足しになりそうなほど十分にいる。だがしかし、それらは痛烈な反撃をしてきて、それどころか自身の命を脅かしてきている。
これは許されることではない。小さな者は小さな者らしく、大きく強いもののエサとなるべきだ。そうでなければ、今まで自分が食ってきたエサども。そして食われていった同類たちへの侮辱になってしまう。自分は小さな者に殺されてはいけない。
それがそれの常識であり信念でもあった。
だからレッサードラゴンは大きく息を吸った。酸のブレスは自分の喉さえも焼き、苦しむことになるであろう。だが、それはそれにとっては重要ではなかった。自分の命と信念を守るために、持てる最大の攻撃を使う。そんな決意のもと吐き出されようとしていたそれは、レッサードラゴンの魂を込めた一撃になるはずだった。
◇◆
レッサードラゴンが口を開こうとした時、砲弾のように飛び出してきた何かがそのアゴにぶち当たった。
その衝撃でレッサードラゴンの頭は宙を向き、口内に溜められていた酸のブレスは上空へと吐き出された。
「ジルバーくん!?」
アルノーが見上げる先、吹き上がる飛沫の下で、レッサードラゴンに飛び蹴りをかましたジルバーがニヤリと笑った。
「よし、今がドラゴンを倒す最大の好機だ!俺に続け!!」
剣を抜き放ち、アルノーが駆ける。兵士たちがそれに続いて、ふらつくレッサードラゴンに殺到した。次々に剣を突き刺し、傷口を広げていく。レッサードラゴンも抵抗するが、その動きに精彩を欠いている。
鱗は欠けて剥がれ落ち、爪も折れて飛んだ。
やがてレッサードラゴンは膝をつき、最後の抵抗をするかのように口を大きく開けた。
「これで、終わりだ!」
咆哮が放たれる前に、開かれた口の中へアルノーの剣が突き刺さった。
ついにレッサードラゴンの巨体は、地響きを立てて倒れた。兵士たちが喝采を上げ、隣同士で抱き合って喜んでいる。
兵士たちと感動を分かち合ったアルノーのもとへ、ジルバーがやってきた。
「アルノーさん、おめでとう。ついに倒したな」
「ジルバーくんのおかげだよ。特に二度目のブレスを食らっていたら危なかった。ありがとう」
「倒したのはアルノーさんたちだ。俺はちょっと手助けしただけさ」
「だが君がいなければ我々にも甚大な被害が出ていただろう。本当に感謝しているよ」
「それほどでもないさ」
「そうだ、もう1人助けてくれた人がいたな。彼女はどこだ?」
「ジャンヌのことか?それなら向こうにいたぞ」
ジルバーが顔を向けた先で、ジャンヌが手を振っていた。その横ではエーミールが何か話しかけている。ジャンヌがジルバーたちを見ているのに気がついたのか、エーミールがジルバーたちを見た。そしてなにかに気づいたように指をさして何かを叫んだ。
「む、アイツは何を言っているんだ?魔女相手にくだらないことを言ってるんじゃないだろうな」
「うしろがどうとか言ってるみたいだ。いったい何が……」
2人が同時に振り向くと、そこではレッサードラゴンが大きな口を開いていた。
「なっ……」
「危ない!」
ジルバーが反射的にアルノーを突き飛ばした。直後、ジルバーを酸の蒸気が包み込んだ。
◇◇
「きゃっ、危ないっ!」
うっかりぬかるみに足を取られて転びそうになった体を、杖で支えて立て直した。
「大丈夫かいノインちゃん。やっぱり村で待ってた方がよかったんじゃないか?」
「このくらい平気です。昔から転ぶのには慣れてますから、今さらどうってことないですよ」
足手まといにはならないと言って無理に森に入ったのに、すぐに転びそうになってしまった。そんな恥ずかしさを笑ってごまかす。
森には仮設ではあるが途中まで道が敷かれ、森に慣れてない人でも通りやすいようになっている。大狩猟祭で収穫されたものはこの道を通って村まで運ばれることになる。
ジルバーから手紙が届いた翌朝、私は村の人たちとともに森に入っていた。ジルバーの手紙を受けて会長が決断したことは、村の近くで活動しているハンターたちを森の奥へと応援に送るということだった。
そしてその穴埋めとして、引退したハンターや若い村人、あるいは村の外からきた人を急きょ雇って収穫に当たらせる。
大狩猟祭の期間は仕事を求める人が多かったので、それはとても上手い作戦だった。
本当は私も森の奥へ行きたかったんだけど、足が不自由なので諦めるしかなかった。だからせめてこのくらいはと思ったのだけど、どうにもうまく行ってない。今転びそうになったせいで、ブーツの紐が切れてしまっていた。
でもこのくらいではくじけない。ジルバーは今も森の奥で頑張っているのだから。
「ノインちゃんは無理しないでええから。会長が言ってたとおり、シロウトさんが危ない方へ行かないように見といてや」
「そうじゃそうじゃ。肉体労働は、元気が有り余っとるこいつらに任せときゃいいんじゃ」
「そう言うお前も働け。若者に負けるなよ」
「あはは、ありがとうございます。すぐに靴紐を直したら追いつきます。先に行っててください」
「そうかい?じゃあ、気をつけてくるんだよ」
元ハンターのおじいさんたちと別れて、すぐに靴紐を直しにかかる。
ジルバー、私も頑張るから、ジルバーも負けないでね。
下位とは言えドラゴンの一種であるそれは、身を貫く痛みに耐えかねていた。
度重なるクロスボウの連射により、体には無数の太矢が突き刺さっている。それは身を動かすたびに痛みと血を流しいていた。そしてなによりレッサードラゴンを傷つけていたのは、目の前の小さな生物たちによって殺されるかもしれないという、感じたことのない恐怖だった。
今までは自分より小さな生き物は全て、それのエサでしかなかった。それは自分より小さな生き物にしか挑んでこなかったし、何よりそうしなければ森の深部では生きてこれなかった。
腹を満たすものではないが懐かしいニオイにつられて森の浅部に出てきたレッサードラゴンが感じたのは、軽い落胆だった。
浅部の獣はみな小さく、わざわざ走り回って捕まえても腹を満たすには足りなかった。懐かしいニオイは気になるが、腹が減ったなら追い続けることはできない。目の前に現れたちょっかいを出してくるムカつく小動物を食ったなら、深部へと帰ろう。そう思っていた。
それなのに、今のこの状況はどうだ。
エサだったはずの小さな者どもは、腹の足しになりそうなほど十分にいる。だがしかし、それらは痛烈な反撃をしてきて、それどころか自身の命を脅かしてきている。
これは許されることではない。小さな者は小さな者らしく、大きく強いもののエサとなるべきだ。そうでなければ、今まで自分が食ってきたエサども。そして食われていった同類たちへの侮辱になってしまう。自分は小さな者に殺されてはいけない。
それがそれの常識であり信念でもあった。
だからレッサードラゴンは大きく息を吸った。酸のブレスは自分の喉さえも焼き、苦しむことになるであろう。だが、それはそれにとっては重要ではなかった。自分の命と信念を守るために、持てる最大の攻撃を使う。そんな決意のもと吐き出されようとしていたそれは、レッサードラゴンの魂を込めた一撃になるはずだった。
◇◆
レッサードラゴンが口を開こうとした時、砲弾のように飛び出してきた何かがそのアゴにぶち当たった。
その衝撃でレッサードラゴンの頭は宙を向き、口内に溜められていた酸のブレスは上空へと吐き出された。
「ジルバーくん!?」
アルノーが見上げる先、吹き上がる飛沫の下で、レッサードラゴンに飛び蹴りをかましたジルバーがニヤリと笑った。
「よし、今がドラゴンを倒す最大の好機だ!俺に続け!!」
剣を抜き放ち、アルノーが駆ける。兵士たちがそれに続いて、ふらつくレッサードラゴンに殺到した。次々に剣を突き刺し、傷口を広げていく。レッサードラゴンも抵抗するが、その動きに精彩を欠いている。
鱗は欠けて剥がれ落ち、爪も折れて飛んだ。
やがてレッサードラゴンは膝をつき、最後の抵抗をするかのように口を大きく開けた。
「これで、終わりだ!」
咆哮が放たれる前に、開かれた口の中へアルノーの剣が突き刺さった。
ついにレッサードラゴンの巨体は、地響きを立てて倒れた。兵士たちが喝采を上げ、隣同士で抱き合って喜んでいる。
兵士たちと感動を分かち合ったアルノーのもとへ、ジルバーがやってきた。
「アルノーさん、おめでとう。ついに倒したな」
「ジルバーくんのおかげだよ。特に二度目のブレスを食らっていたら危なかった。ありがとう」
「倒したのはアルノーさんたちだ。俺はちょっと手助けしただけさ」
「だが君がいなければ我々にも甚大な被害が出ていただろう。本当に感謝しているよ」
「それほどでもないさ」
「そうだ、もう1人助けてくれた人がいたな。彼女はどこだ?」
「ジャンヌのことか?それなら向こうにいたぞ」
ジルバーが顔を向けた先で、ジャンヌが手を振っていた。その横ではエーミールが何か話しかけている。ジャンヌがジルバーたちを見ているのに気がついたのか、エーミールがジルバーたちを見た。そしてなにかに気づいたように指をさして何かを叫んだ。
「む、アイツは何を言っているんだ?魔女相手にくだらないことを言ってるんじゃないだろうな」
「うしろがどうとか言ってるみたいだ。いったい何が……」
2人が同時に振り向くと、そこではレッサードラゴンが大きな口を開いていた。
「なっ……」
「危ない!」
ジルバーが反射的にアルノーを突き飛ばした。直後、ジルバーを酸の蒸気が包み込んだ。
◇◇
「きゃっ、危ないっ!」
うっかりぬかるみに足を取られて転びそうになった体を、杖で支えて立て直した。
「大丈夫かいノインちゃん。やっぱり村で待ってた方がよかったんじゃないか?」
「このくらい平気です。昔から転ぶのには慣れてますから、今さらどうってことないですよ」
足手まといにはならないと言って無理に森に入ったのに、すぐに転びそうになってしまった。そんな恥ずかしさを笑ってごまかす。
森には仮設ではあるが途中まで道が敷かれ、森に慣れてない人でも通りやすいようになっている。大狩猟祭で収穫されたものはこの道を通って村まで運ばれることになる。
ジルバーから手紙が届いた翌朝、私は村の人たちとともに森に入っていた。ジルバーの手紙を受けて会長が決断したことは、村の近くで活動しているハンターたちを森の奥へと応援に送るということだった。
そしてその穴埋めとして、引退したハンターや若い村人、あるいは村の外からきた人を急きょ雇って収穫に当たらせる。
大狩猟祭の期間は仕事を求める人が多かったので、それはとても上手い作戦だった。
本当は私も森の奥へ行きたかったんだけど、足が不自由なので諦めるしかなかった。だからせめてこのくらいはと思ったのだけど、どうにもうまく行ってない。今転びそうになったせいで、ブーツの紐が切れてしまっていた。
でもこのくらいではくじけない。ジルバーは今も森の奥で頑張っているのだから。
「ノインちゃんは無理しないでええから。会長が言ってたとおり、シロウトさんが危ない方へ行かないように見といてや」
「そうじゃそうじゃ。肉体労働は、元気が有り余っとるこいつらに任せときゃいいんじゃ」
「そう言うお前も働け。若者に負けるなよ」
「あはは、ありがとうございます。すぐに靴紐を直したら追いつきます。先に行っててください」
「そうかい?じゃあ、気をつけてくるんだよ」
元ハンターのおじいさんたちと別れて、すぐに靴紐を直しにかかる。
ジルバー、私も頑張るから、ジルバーも負けないでね。
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