魔獣の森のお嫁さん
ブリレ会長との面会
ハンター協会に、私と元ハンターのおじいさん3人。そしてブラットを抱えたみっちゃんが駆け込んだ。
協会内に人影はほとんどない。大狩猟祭の真っ最中なのだからそれも当然だ。
私たちの慌ただしい様子に、受付で暇そうにしていた人が驚いていた。
「あの、すいません!会長さんはいますか?森の中で異常があったんです。すぐに知らせたいんです!」
「か、会長ですか!?いると思いますけど、アポイントは……」
「とってるわけないでしょう!緊急事態なんです、すぐに会わせてください!」
「そんなこと言われても、ルールというものがありまして」
受付の人と押し問答をしていると、頭の上から声がかけられた。
「騒がしいですね。何かありましたか?」
「ブリレ会長!聞いてください、森の中で異常があったんです!」
「ノインさん落ち着いて。部屋を用意させますので、話は中でしましょう」
もどかしい気持ちを抑えながら、会長の後に続いて部屋に入る。
他の4人も続いて入ったところで、話を切り出した。
「先ほどなんですけど、この森ガラスのブラットが、こんな手紙を届けてきたんです」
「ふむ、拝見しましょう。ああ、みなさん座ってくださいね」
手紙を渡し、会長がメガネを調節しながら読み進めるのを見守った。
「森に、大型の獣ですか。トカゲ型の爬虫類で、大きさはおよそ森熊の二倍?それだと小さな家くらいありますねえ。数はおそらく1匹。……まあそうでしょう。2匹以上を賄える食料は、ここの森にはありませんからね。凶暴性は低いが、他の獣がたいへんに怯えている、ですか……ふむふむ」
重要な部分を拾って読み進めるあたり、さすがハンター協会の会長をしてるだけある。
会長は二度ほど読み直してから、やっと顔を上げた。
「これを書いたのは?」
「私の旦那の、ジルバーです。字の形を憶えてますから間違いありません」
「ジルバー……?ああ、今回一番奥への案内をしてくれている人ですね。なるほど、予定通りならあの辺りにいるはず。そうすると……ふむ、そういうことですか」
「そういうことって、なにか分かったんですか?」
詰め寄ろうとすると、イスに座って落ち着くように言われてた。
言われた通りに座って言葉を待つと、会長は言葉を選んで話し始めた。
「森の様子がおかしいのは、私たちも気づいていました。ですので、ベテランハンター数人にすでに調べさせています」
「なら……!」
「まあまあ、最後まで聞いてください」
会長は穏やかな調子で話している。
会長がこの様子なら、そんなに大事ではないのかもしれない。もしかしたら、すでに対応策が準備中なのかも。
「今回の大狩猟祭は2年ぶりなのですから、そうそう中止にさせるわけにはいきません。また、兵士の方々とも連絡を取り合い、決めてきた予定も崩すわけにはいきません。ですので、問題の獣討伐のためにわざわざ人員を割くことはできません」
「ええっ!?それってつまり、何もしないってことですか!そんなっ」
ジルバーの手紙には、大きなトカゲの獣が出たせいで、他の獣が逃げ出していると書いてあった。それだけじゃなく、彼は森の中で領都の兵士と2人きりでいる、とも。
大トカゲに追われて逃げ遅れた兵士を助けるために、彼は森に残ったんだから、領都の兵士とも協力して2人を助けるべきなんじゃないの?
そんな私の思いを知ってか知らずか、会長は話を続ける。
「ノインさん、あなたもハンターであったなら分かっているはずですよね。森は常に危険であり、いつ命を落としてもおかしくない場所であると。そして今回のことも、特に異常事態というほどではありません。いつでも起こりうることの範囲内なのです」
「……それは、そうですけど」
そうだった。森に住んでいたせいで、そのことについて危機感が薄れていたのかもしれない。元から森は、危険が潜んでいる場所だったんだ。
でも、それが分かっているからといって、この不安がぬぐえるわけではない。
ジルバーがわざわざブラットにこの手紙を運ばせたのには、何か理由があるんじゃないだろうか。
「おじさん、ノインちゃんをいじめないであげてよ!」
私がうつむいているのを、困っていると勘違いしたのだろう。みっちゃんが立ち上がって言った。
「ノインちゃんは、旦那さんがピンチだから心配だって言いにきたんだよ。だったら、それを安心させてあげるのがハンターの仕事じゃないの?そうでしょ?」
「みっちゃんありがとう。でも私は大丈夫だから」
「ノインちゃんもそこで諦めちゃダメだよ。みんな村の仲間なんだもん、助け合わなきゃ!」
みっちゃんの真っ直ぐな励ましのおかげで、元気が出てきた。
私が不安そうな顔をしていたら、みっちゃんを心配させてしまう。私はもっと頑張らないと。
みっちゃんをギュッと抱き寄せて、頭をなでた。
「ありがとね。そうだよね、諦めちゃダメだよね。私も、自分ができることをやるよ」
「うん、そうだよ。あたしも手伝うから、がんばろう」
2人で顔を見合わせてにっこり笑う。
「おう、ワシらも手伝うぞ」
「そうやな。ちょうどヒマで仕方がなかったところや。いっちょやったろうやないかい」
「おうとも。これでも少し前まで現役じゃったからな、今でも十分動けるところをみせてやるわい」
3人のおじいさんたちも声を上げた。
するとみっちゃんの腕の中で、ブラットが「カア」と一声鳴いた。
「ブラットも手伝うって」
「ふふふ、ありがとうね」
ブラットの羽をなでてやると、嬉しそうに目を細めた。
そうしていると、会長の大げさな咳払いが聞こえた。
「うぉっほん。んん。えー、みなさん盛り上がっているところ悪いですが、よく聞いてください」
「意地悪なハゲおじさんは黙っててよ」
「誰がハ……!!んんん。いいから、黙って最後まで話を聞いてらえるかな?」
みっちゃんの反論に、一瞬だけ鬼メガネの本性が出たが、すぐに相手が小さな女の子だと思い直したようだ。
でもその一瞬の怒気に当てられて、みっちゃんが怯えてしまっていた。
「先ほども言った通り、この程度のことは予想されていた誤差の範疇です。心配することはありません。調査に出しているハンターからも、大きな問題は発生していないと報告を受けています。だから、心配することはないんです」
ことさらに笑顔で優しく語りかけてくるが、みっちゃんはすっかり萎縮している。
そうだよね。私もあの鬼の顔を自分に向けられたら、怖くて動けなくなると思うよ。
みっちゃんの肩を抱いて、頭をなでてあげる。
「ノインさんのおかげで、問題の原因が特定できたことはとても大きな功績です。おかげで、被害をより小さくすることができるでしょう。私はこれから、その対策を兵士の方々と話し合いに行ってきます。ですがみなさんは、その結果を大人しく待っていることはできないですよね?」
会長の問いかけに、私とおじいさんたちがうなずく。
「でしたら、いくつか協力していただきたいことがあります。みんなで力を合わせて、この大狩猟祭を平和に終わらせましょう」
いいですね?
この場に不似合なくらいのにこやかな笑顔に、私たちは無言でうなずいた。
協会内に人影はほとんどない。大狩猟祭の真っ最中なのだからそれも当然だ。
私たちの慌ただしい様子に、受付で暇そうにしていた人が驚いていた。
「あの、すいません!会長さんはいますか?森の中で異常があったんです。すぐに知らせたいんです!」
「か、会長ですか!?いると思いますけど、アポイントは……」
「とってるわけないでしょう!緊急事態なんです、すぐに会わせてください!」
「そんなこと言われても、ルールというものがありまして」
受付の人と押し問答をしていると、頭の上から声がかけられた。
「騒がしいですね。何かありましたか?」
「ブリレ会長!聞いてください、森の中で異常があったんです!」
「ノインさん落ち着いて。部屋を用意させますので、話は中でしましょう」
もどかしい気持ちを抑えながら、会長の後に続いて部屋に入る。
他の4人も続いて入ったところで、話を切り出した。
「先ほどなんですけど、この森ガラスのブラットが、こんな手紙を届けてきたんです」
「ふむ、拝見しましょう。ああ、みなさん座ってくださいね」
手紙を渡し、会長がメガネを調節しながら読み進めるのを見守った。
「森に、大型の獣ですか。トカゲ型の爬虫類で、大きさはおよそ森熊の二倍?それだと小さな家くらいありますねえ。数はおそらく1匹。……まあそうでしょう。2匹以上を賄える食料は、ここの森にはありませんからね。凶暴性は低いが、他の獣がたいへんに怯えている、ですか……ふむふむ」
重要な部分を拾って読み進めるあたり、さすがハンター協会の会長をしてるだけある。
会長は二度ほど読み直してから、やっと顔を上げた。
「これを書いたのは?」
「私の旦那の、ジルバーです。字の形を憶えてますから間違いありません」
「ジルバー……?ああ、今回一番奥への案内をしてくれている人ですね。なるほど、予定通りならあの辺りにいるはず。そうすると……ふむ、そういうことですか」
「そういうことって、なにか分かったんですか?」
詰め寄ろうとすると、イスに座って落ち着くように言われてた。
言われた通りに座って言葉を待つと、会長は言葉を選んで話し始めた。
「森の様子がおかしいのは、私たちも気づいていました。ですので、ベテランハンター数人にすでに調べさせています」
「なら……!」
「まあまあ、最後まで聞いてください」
会長は穏やかな調子で話している。
会長がこの様子なら、そんなに大事ではないのかもしれない。もしかしたら、すでに対応策が準備中なのかも。
「今回の大狩猟祭は2年ぶりなのですから、そうそう中止にさせるわけにはいきません。また、兵士の方々とも連絡を取り合い、決めてきた予定も崩すわけにはいきません。ですので、問題の獣討伐のためにわざわざ人員を割くことはできません」
「ええっ!?それってつまり、何もしないってことですか!そんなっ」
ジルバーの手紙には、大きなトカゲの獣が出たせいで、他の獣が逃げ出していると書いてあった。それだけじゃなく、彼は森の中で領都の兵士と2人きりでいる、とも。
大トカゲに追われて逃げ遅れた兵士を助けるために、彼は森に残ったんだから、領都の兵士とも協力して2人を助けるべきなんじゃないの?
そんな私の思いを知ってか知らずか、会長は話を続ける。
「ノインさん、あなたもハンターであったなら分かっているはずですよね。森は常に危険であり、いつ命を落としてもおかしくない場所であると。そして今回のことも、特に異常事態というほどではありません。いつでも起こりうることの範囲内なのです」
「……それは、そうですけど」
そうだった。森に住んでいたせいで、そのことについて危機感が薄れていたのかもしれない。元から森は、危険が潜んでいる場所だったんだ。
でも、それが分かっているからといって、この不安がぬぐえるわけではない。
ジルバーがわざわざブラットにこの手紙を運ばせたのには、何か理由があるんじゃないだろうか。
「おじさん、ノインちゃんをいじめないであげてよ!」
私がうつむいているのを、困っていると勘違いしたのだろう。みっちゃんが立ち上がって言った。
「ノインちゃんは、旦那さんがピンチだから心配だって言いにきたんだよ。だったら、それを安心させてあげるのがハンターの仕事じゃないの?そうでしょ?」
「みっちゃんありがとう。でも私は大丈夫だから」
「ノインちゃんもそこで諦めちゃダメだよ。みんな村の仲間なんだもん、助け合わなきゃ!」
みっちゃんの真っ直ぐな励ましのおかげで、元気が出てきた。
私が不安そうな顔をしていたら、みっちゃんを心配させてしまう。私はもっと頑張らないと。
みっちゃんをギュッと抱き寄せて、頭をなでた。
「ありがとね。そうだよね、諦めちゃダメだよね。私も、自分ができることをやるよ」
「うん、そうだよ。あたしも手伝うから、がんばろう」
2人で顔を見合わせてにっこり笑う。
「おう、ワシらも手伝うぞ」
「そうやな。ちょうどヒマで仕方がなかったところや。いっちょやったろうやないかい」
「おうとも。これでも少し前まで現役じゃったからな、今でも十分動けるところをみせてやるわい」
3人のおじいさんたちも声を上げた。
するとみっちゃんの腕の中で、ブラットが「カア」と一声鳴いた。
「ブラットも手伝うって」
「ふふふ、ありがとうね」
ブラットの羽をなでてやると、嬉しそうに目を細めた。
そうしていると、会長の大げさな咳払いが聞こえた。
「うぉっほん。んん。えー、みなさん盛り上がっているところ悪いですが、よく聞いてください」
「意地悪なハゲおじさんは黙っててよ」
「誰がハ……!!んんん。いいから、黙って最後まで話を聞いてらえるかな?」
みっちゃんの反論に、一瞬だけ鬼メガネの本性が出たが、すぐに相手が小さな女の子だと思い直したようだ。
でもその一瞬の怒気に当てられて、みっちゃんが怯えてしまっていた。
「先ほども言った通り、この程度のことは予想されていた誤差の範疇です。心配することはありません。調査に出しているハンターからも、大きな問題は発生していないと報告を受けています。だから、心配することはないんです」
ことさらに笑顔で優しく語りかけてくるが、みっちゃんはすっかり萎縮している。
そうだよね。私もあの鬼の顔を自分に向けられたら、怖くて動けなくなると思うよ。
みっちゃんの肩を抱いて、頭をなでてあげる。
「ノインさんのおかげで、問題の原因が特定できたことはとても大きな功績です。おかげで、被害をより小さくすることができるでしょう。私はこれから、その対策を兵士の方々と話し合いに行ってきます。ですがみなさんは、その結果を大人しく待っていることはできないですよね?」
会長の問いかけに、私とおじいさんたちがうなずく。
「でしたら、いくつか協力していただきたいことがあります。みんなで力を合わせて、この大狩猟祭を平和に終わらせましょう」
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