魔獣の森のお嫁さん
ノインと手紙
◇◇
大門通りから1つ外れた道。そこにある肉屋に注文を届けると、時刻はもうお昼近くになってしまっていた。
「それじゃあ、よろしくお願いね」
「あいよ、夕飯前になっちまうだろうが、ちゃんと届けるぜ。あっ、ノインちゃん。これ持ってってくれよ。ウチの新作だから、あとで感想聞かせてくれよ」
「わあ、美味しそう。ありがと、オジさん」
小さなブロック状に切られたハムが混ざったマッシュポテトを、大きな木の葉で包んで手渡された。
まだ温かなそれは、包み越しにも香辛料の刺激的な香りが漂ってきて食欲をそそる。
私の手の中にあるそれを見て、通りがかった人がオジさんへ同じものをと注文していた。
大狩猟祭が本格的に始まって、村はよりいっそう人で溢れていた。
商人たちのおこぼれやこの期間だけの仕事を求めて、いろいろな所から人が集まってきている。
本当に観光だけで来ているのは、ごくわずかなお金持ちの人たちだけ。
ほとんどは仕事のため、そしてお金のために、この村にやってきている。
今もまた、大門の方から大きな声が響いてくる。
開かれた大門の外側には、森にしか生えない薬草や木の実などが次々と運ばれ、積み上げられていく。
積み上げられたそれらは品質のチェックをされた後、商人たちの競りにかけられる。
競り落とされたものの一部は、そのまま商人の荷車に乗せられて別の場所へ運ばれて行く。
また別の一部は村の中へ運び込まれ、村の中で加工してから外へと売られていく。
もちろん村でそのまま使われるものもあるけれど、全体から見たら少しだけだ。
大荷物を載せた荷馬車が走っていくのを横目に、私は女将さんの宿屋に向かって歩いていた。
大狩猟祭の期間は、宿屋もそれに併設されている酒場も両方書き入れ時だ。
食べ物もお酒も日用品も、どんどん使われ減っていく。
だからそれらが足りなくなると、誰かが直接お店に行って大量に注文してこなければならない。
私の両手じゃとても足りないし、そもそも足が悪いので重いものを持てない。
でも普通に歩くことくらいはできるので、慣れ親しんだ村の中、迷わずにいくつものお店を回るくらいとても簡単なことだった。
それでも人ごみの中を歩くのはとても体力を使う。
いくら普段は森の中で暮らしているとはいえ、足が悪いことを理由に歩く距離が減っていた私としては、全部の店を一気に回るのはさすがに疲れた。
「お昼は手伝いの人がいるからゆっくりでいいって言われたし、ちょっとだけ休んでいこうかな」
独り言をつぶやきながら、人の少ない所を目指して歩き出す。
地元の人しか知らない、家と家の隙間の道をを通り抜け、たどり着いたのは小さな広場。
周囲を家に囲まれてぽっかり空いた空間には、私と同じように喧騒から逃げてきた顔見知りがいた。
ハンターを引退したおじいさん3人組と、休憩しにきた近所の店の看板娘であるみっちゃん。
4人とも、置かれた木箱をイス代わりにして座っている。
「あ、ノインちゃん久しぶり。帰ってきてたんだね」
「久しぶり。ジルバー……私の旦那様が大狩猟祭の案内役で参加するから、その間私は女将さんの宿屋でお世話になっているのよ」
「そうなんだ。いいなあ、わたしにも早くいい人が来ないかなあ」
「大丈夫。みっちゃんは焦らなくても、なんとかなるわよ」
「もう!自分は焦る必要ないからって、気楽に言わないでよ。わたしは真剣なんだから」
ぷりぷり怒る様子はとてもカワイイ。でもみっちゃんはまだ12歳だから、さすがに結婚は早すぎると思うのよね。
こんなにカワイイんだから、何年か後には本当にいい人に巡り合えるだろう。
「なら、ウチの孫はどうだい?そろそろ嫁がいてもいい年ごろなんだがなあ」
「おまえんトコのはまだ結婚しとらんかったんか。なら、みっちゃん待っとる場合じゃなかろう」
「まったくじゃな。その点、ワシの孫ならみっちゃんと歳も近いし、いい感じなんじゃないかの?」
「おまえんトコのはまだ9つじゃろが。あまりにも気が速すぎるじゃろ」
「オマエはいちいち五月蠅いな。そんなに言うなら、オマエんトコはどうなんだ?」
「ウチの孫は、男はみんな嫁もろとるからの。残念やけど勧められないわい」
「まったくじゃな。なにせ自分の孫の結婚相手も見つけられてないからのう」
「おま……!よくも言うたな!?ちょっと表出ろや」
「くくく、いいじゃろ。久しぶりにやったろうか」
「待て待て、お前ら落ち着け。お嬢さんがたが引いてるぞ」
おじいさんたちがこちらを見て話しているが、みっちゃんはわざと無視しているようだ。
そういえば、新人ハンターに気になる人がいるとか話していたっけ。ここでそれを広める必要ないだろうし、それならば私もみっちゃんに合わせて、関係ない女子トークをしていよう。
お使いの途中でもらったり買ったりしたおかずを2人で分け合って食べながら、お昼ご飯を楽しんだ。
そんな風にすごしていたら、おじいさんの一人が声を上げた。
「む、あれは森ガラスか?巣を追われてここまで出てきたかな」
つられて上を見ると、高い所を飛ぶ黒い影が見えた。
「おお本当じゃ。よく見つけたのう」
「しかし人里まで来るとは、よほど人に慣れてるんやな。ひょっとしたら、魔女様の使いじゃないんか?」
おじいさんたちが騒ぐ中、そのシルエットに見慣れたものを感じて、指笛を吹いた。
長く、息の続く限り長く吹く。
みっちゃんとおじいさんの視線を感じながらも上を向いて待つ。
数秒から数十秒に感じられる時間の後、いったん視界から消えた影が再び現れた。
そして私と目が合うと、それは黒い羽をはばたかせながら降りてきた。
「やっぱり、ブラットじゃない!どうしてここに来たの?魔女様に言われて来たの?」
ブラットは地面に降り立つと、羽を広げて一声鳴いた。
森烏のブラットは家族ではあるけれど、村に連れてくると気軽に外へ出すことができなくなる。
特に大狩猟祭の期間は村の外の人がたくさんいるので、余計に人目につくわけにはいかなくなる。
だから私たちが森に帰るまで、魔女様の家で預かってもらっていた。
そのブラットがここに来たってことは、魔女様になにかあったのだろうか?
ブラットが足を差し出したのでよく見ると、そこには手紙が結び付けられていた。
手早く外してそれを読む。
これは、急いだ方がいいかも。
読み終えた手紙をおじいさんたちに見せながら言った。
「すいませんが、一緒にハンター協会まで来てもらえませんか。大至急でお願いします」
大門通りから1つ外れた道。そこにある肉屋に注文を届けると、時刻はもうお昼近くになってしまっていた。
「それじゃあ、よろしくお願いね」
「あいよ、夕飯前になっちまうだろうが、ちゃんと届けるぜ。あっ、ノインちゃん。これ持ってってくれよ。ウチの新作だから、あとで感想聞かせてくれよ」
「わあ、美味しそう。ありがと、オジさん」
小さなブロック状に切られたハムが混ざったマッシュポテトを、大きな木の葉で包んで手渡された。
まだ温かなそれは、包み越しにも香辛料の刺激的な香りが漂ってきて食欲をそそる。
私の手の中にあるそれを見て、通りがかった人がオジさんへ同じものをと注文していた。
大狩猟祭が本格的に始まって、村はよりいっそう人で溢れていた。
商人たちのおこぼれやこの期間だけの仕事を求めて、いろいろな所から人が集まってきている。
本当に観光だけで来ているのは、ごくわずかなお金持ちの人たちだけ。
ほとんどは仕事のため、そしてお金のために、この村にやってきている。
今もまた、大門の方から大きな声が響いてくる。
開かれた大門の外側には、森にしか生えない薬草や木の実などが次々と運ばれ、積み上げられていく。
積み上げられたそれらは品質のチェックをされた後、商人たちの競りにかけられる。
競り落とされたものの一部は、そのまま商人の荷車に乗せられて別の場所へ運ばれて行く。
また別の一部は村の中へ運び込まれ、村の中で加工してから外へと売られていく。
もちろん村でそのまま使われるものもあるけれど、全体から見たら少しだけだ。
大荷物を載せた荷馬車が走っていくのを横目に、私は女将さんの宿屋に向かって歩いていた。
大狩猟祭の期間は、宿屋もそれに併設されている酒場も両方書き入れ時だ。
食べ物もお酒も日用品も、どんどん使われ減っていく。
だからそれらが足りなくなると、誰かが直接お店に行って大量に注文してこなければならない。
私の両手じゃとても足りないし、そもそも足が悪いので重いものを持てない。
でも普通に歩くことくらいはできるので、慣れ親しんだ村の中、迷わずにいくつものお店を回るくらいとても簡単なことだった。
それでも人ごみの中を歩くのはとても体力を使う。
いくら普段は森の中で暮らしているとはいえ、足が悪いことを理由に歩く距離が減っていた私としては、全部の店を一気に回るのはさすがに疲れた。
「お昼は手伝いの人がいるからゆっくりでいいって言われたし、ちょっとだけ休んでいこうかな」
独り言をつぶやきながら、人の少ない所を目指して歩き出す。
地元の人しか知らない、家と家の隙間の道をを通り抜け、たどり着いたのは小さな広場。
周囲を家に囲まれてぽっかり空いた空間には、私と同じように喧騒から逃げてきた顔見知りがいた。
ハンターを引退したおじいさん3人組と、休憩しにきた近所の店の看板娘であるみっちゃん。
4人とも、置かれた木箱をイス代わりにして座っている。
「あ、ノインちゃん久しぶり。帰ってきてたんだね」
「久しぶり。ジルバー……私の旦那様が大狩猟祭の案内役で参加するから、その間私は女将さんの宿屋でお世話になっているのよ」
「そうなんだ。いいなあ、わたしにも早くいい人が来ないかなあ」
「大丈夫。みっちゃんは焦らなくても、なんとかなるわよ」
「もう!自分は焦る必要ないからって、気楽に言わないでよ。わたしは真剣なんだから」
ぷりぷり怒る様子はとてもカワイイ。でもみっちゃんはまだ12歳だから、さすがに結婚は早すぎると思うのよね。
こんなにカワイイんだから、何年か後には本当にいい人に巡り合えるだろう。
「なら、ウチの孫はどうだい?そろそろ嫁がいてもいい年ごろなんだがなあ」
「おまえんトコのはまだ結婚しとらんかったんか。なら、みっちゃん待っとる場合じゃなかろう」
「まったくじゃな。その点、ワシの孫ならみっちゃんと歳も近いし、いい感じなんじゃないかの?」
「おまえんトコのはまだ9つじゃろが。あまりにも気が速すぎるじゃろ」
「オマエはいちいち五月蠅いな。そんなに言うなら、オマエんトコはどうなんだ?」
「ウチの孫は、男はみんな嫁もろとるからの。残念やけど勧められないわい」
「まったくじゃな。なにせ自分の孫の結婚相手も見つけられてないからのう」
「おま……!よくも言うたな!?ちょっと表出ろや」
「くくく、いいじゃろ。久しぶりにやったろうか」
「待て待て、お前ら落ち着け。お嬢さんがたが引いてるぞ」
おじいさんたちがこちらを見て話しているが、みっちゃんはわざと無視しているようだ。
そういえば、新人ハンターに気になる人がいるとか話していたっけ。ここでそれを広める必要ないだろうし、それならば私もみっちゃんに合わせて、関係ない女子トークをしていよう。
お使いの途中でもらったり買ったりしたおかずを2人で分け合って食べながら、お昼ご飯を楽しんだ。
そんな風にすごしていたら、おじいさんの一人が声を上げた。
「む、あれは森ガラスか?巣を追われてここまで出てきたかな」
つられて上を見ると、高い所を飛ぶ黒い影が見えた。
「おお本当じゃ。よく見つけたのう」
「しかし人里まで来るとは、よほど人に慣れてるんやな。ひょっとしたら、魔女様の使いじゃないんか?」
おじいさんたちが騒ぐ中、そのシルエットに見慣れたものを感じて、指笛を吹いた。
長く、息の続く限り長く吹く。
みっちゃんとおじいさんの視線を感じながらも上を向いて待つ。
数秒から数十秒に感じられる時間の後、いったん視界から消えた影が再び現れた。
そして私と目が合うと、それは黒い羽をはばたかせながら降りてきた。
「やっぱり、ブラットじゃない!どうしてここに来たの?魔女様に言われて来たの?」
ブラットは地面に降り立つと、羽を広げて一声鳴いた。
森烏のブラットは家族ではあるけれど、村に連れてくると気軽に外へ出すことができなくなる。
特に大狩猟祭の期間は村の外の人がたくさんいるので、余計に人目につくわけにはいかなくなる。
だから私たちが森に帰るまで、魔女様の家で預かってもらっていた。
そのブラットがここに来たってことは、魔女様になにかあったのだろうか?
ブラットが足を差し出したのでよく見ると、そこには手紙が結び付けられていた。
手早く外してそれを読む。
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