魔獣の森のお嫁さん
ノインの剥ぎ取り教室
獣をさばくのには、血を洗い流すための水と、何よりよく切れるナイフがいる。
解体は時間との勝負。時間が経てば経つほど肉の質は落ち、味が悪くなっていく。その前にできるだけ早く血を抜いて肉の熱を取り、獣臭さを取らなければいけない。
まずは腹を縦に裂き、血抜きをしながら内臓を取り出していく。
肝臓は新鮮なうちなら生で食べられる。でも腸は無理なので、もったいないけど放置。ほかの獣のエサにするしかない。
そして内臓を取ったら水で洗い流す。
中がキレイになったら今度は外側。
河原に生えた木に逆さ吊りにして、後ろの足首から毛を剥ぎ取る。
お腹にも切れ目を入れ、そこから皮だけを引っ張ると、毛皮がきれいに剥がれていく。
慣れたもので、この程度の作業は苦にもならない。
力の入れ方も、剥がれにくい部分もよくわかっているから、ナイフで傷を増やす必要もない。
ウサギの関節を外して力を入れやすくして、前足も足首から皮を引っ張っていく。
顔の部分は慎重に剥き、耳は骨ごと切り離した。
「これで一羽分の剥ぎ取り終わり!耳付きの毛皮は川で洗って、血の汚れをしっかり落としてね。それが甘いせいで染みが残って、売る時に買い叩かれるのはいやだからね」
「すごいな、あっというまだ。けがわもなんだか、きれいなきがする」
ジルバーが感心した様子なので、私もつい胸を張る。
「でしょ?男どもに負けないために、一生懸命に練習したんだから。さて次はジルバーの番よ」
ナイフの柄をジルバーに向けて差し出す。
「おれよりも、ノインがやったほうが、はやいし、うまそうだ」
「そんなの当たり前よ。私は小さな頃からさんざん練習してきたんだから。でもね、それはつまりジルバーも今から頑張れば、私くらい上手にできるようになるってことよ。だから、いっしょにがんばりましょ」
私もお父さんにそう言われて頑張った。だから今の私がある。そんな思いを込めてジルバーを見つめると、うなずきながらナイフを受け取ってくれた。
「そうだな。おれ、やるよ」
ジルバーは横にしていたウサギを手に持つ。
私は大きめの石に腰掛けて、ジルバーの手元を見つめた。
ジルバーはウサギをかるく縊ってトドメをさした後、指平たい石の上に乗せてお腹にナイフを入れる。
よく研がれたナイフは、血を洗い流すだけで切れ味がすぐに戻ってくる。
ジルバーの手つきはちっとも危な気がない。力まかせな部分もあるけど、それでも問題なく内臓を取り出していた。
「けっこう慣れてるみたいね。全部が自己流ってわけじゃなさそうだけれど、どこまでハンターのやり方見てたの?」
「おおざっぱなうごき、くらいかな。はぎとりは、みんなまわりをきにしてる。だからあまりちかづけないんだ」
そう言いつつも、川につけて血抜きをする手つきに淀みはない。
でも、ウサギの後ろ足を縛って木に下げたところで、初めて戸惑いを見せた。
「ここからどうするんだっけか?」
「後ろ足の足首に切れ目を入れるの。そこから毛を剥いで、あとから取りやすくするのよ」
ジルバーは教えた通りに足首に切れ目を入れ、そこから毛を剥がし始めた。
ちょっと力を入れ過ぎているようにも見えるが、毛皮だけ剥がせているので問題ないだろう。
いろいろと言いたくなるのを堪えながら見ていると、もしかしたらお父さんたちが私に教えてくれた時も、こんな気持ちだったのかなと思えてくる。
そうじゃないとか、ちょっと違うとか言いたいけれど、なにも言わずに後ろから暖かく見守る。
私は、お父さんたちにどうやって教えてもらっただろうか?
それをなんとか思い出そうとする。
慣れないやり方だからか、力まかせなところが増えてきた。ナイフを使えばキレイに剥けるところでも、強引に引っ張って剥がしたりしている。あれだと毛皮が伸びて、質が落ちてしまう。
それじゃあダメだと言いたい、すごく言いたい。でも、言っちゃダメだよね。
「できたぞ!どうだノイン!」
そんな私の心も知らず、ジルバーは得意そうな顔で剥ぎ取った毛皮を見せつけてきた。
力いっぱい引っ張ったせいで、毛皮がけっこう伸びてしまっている。
血抜きも甘かったのか、毛皮が赤くまだらに染まっている。
でも、教えた後の一回目だと考えれば、悪くはないと思う。……たぶんそう。
「う、うん。キレイに剥けたと思うよ。あとはもうちょっと、えーと……そう、やさしくやった方がいいかな?」
「やさしく、か?」
「うん。筋がしっかり付いている所は、力を入れるよりもナイフを使った方がキレイに取れるの。例えば、こことかね」
ジルバーが差し出した毛皮の一部を指し示す。
「そっか。たしかにちょっと、かたかったな」
それ以外のいくつかの注意点を、できるだけ優しい言葉を選びながら教えていく。
ジルバーはそれを感心した様子でうなずきながら、一生懸命に聞いてくれていた。
「……これくらいかな。あとは今言ったことに気をつけて、数をこなしていけばいいと思うわ」
「なるほど、よくわかった。もういっぴきも、おれがやっていいか?」
「もちろん」
私がうなずくと、ジルバーは最後の一羽の剥ぎ取りにとりかかる。
そんなジルバーの手元が見えにくくなっていて、だいぶ暗くなってきたことに気がついた。
「ジルバー、日が暮れてきてるけど、灯りは要る?」
「大丈夫だ。これくらい、もんだいない」
ジルバーはそう言って、言葉通り淀みなくナイフを扱っている。
私は慎重に立ち上がると、作業がよく見えるようにジルバーの近くへと進んだ。
腹を裂いて内臓を取り出し、血抜きをする。
足を縛って木に吊るし、足首に切れ目を入れてそこから毛を剥がす。
腹の切れ目を広げ、そこから全体を丁寧に剥がしていく。
教えた通りの手順を守って、ジルバーが作業を進めていく。
さっき教えたところは、首をかしげながらもナイフを使って慎重に剥いでいった。
今度は上手くいったみたいだ。ジルバーは自分で満足そうにうなずいている。
私から見ても、さっきよりもだいぶキレイに剥ぎ取れていると思う。
太陽が沈んでしまえば、暗くなるのはあっという間だ。
私はどんどん暗くなってくる周囲を気にしながら、片づけを始めた。
剥ぎ取ったウサギの毛皮と肉を集めて並べる。
毛皮の血を改めてよく洗い流し、肉もできる限り血抜きをしておく。
赤いコートにもだいぶ血が跳ねたはずなので、少し離れたところでこちらも洗った。
ジルバーの方も剥ぎ取りが終わったようで、毛皮と肉を持って来た。
「おわったぞ。さっきよりも、うまくいったとおもう」
「うん。私も見てて、そう思った。明るい所で確認するから、まずは家にもどりましょ?」
「そうだな。けがわをあらったら、すぐにもどろう」
「ジルバーの服はどうする?けっこう血がとんでるけど」
ジルバーは力まかせな部分が多いので、結構な量の血で汚れている。
しかしジルバーは特に気にしてないようだった。
「あとであらうさ。ノインの目がみえるうちにもどろう」
そう言ってウサギの毛皮をザブザブと洗っていた。
ジルバーの服の下は、やっぱり毛皮なんだろうか?触り心地はどうだろうか。ふさふさして温かい?どうなのかとっても気になる。
「どうしたノイン?」
「なんでもないわ。あとはその毛皮で終わりだから待ってるのよ」
「そっか。すぐやる」
私はジルバーのすぐ横にしゃがんで、彼が毛皮を洗うのをじっと見ていた。
解体は時間との勝負。時間が経てば経つほど肉の質は落ち、味が悪くなっていく。その前にできるだけ早く血を抜いて肉の熱を取り、獣臭さを取らなければいけない。
まずは腹を縦に裂き、血抜きをしながら内臓を取り出していく。
肝臓は新鮮なうちなら生で食べられる。でも腸は無理なので、もったいないけど放置。ほかの獣のエサにするしかない。
そして内臓を取ったら水で洗い流す。
中がキレイになったら今度は外側。
河原に生えた木に逆さ吊りにして、後ろの足首から毛を剥ぎ取る。
お腹にも切れ目を入れ、そこから皮だけを引っ張ると、毛皮がきれいに剥がれていく。
慣れたもので、この程度の作業は苦にもならない。
力の入れ方も、剥がれにくい部分もよくわかっているから、ナイフで傷を増やす必要もない。
ウサギの関節を外して力を入れやすくして、前足も足首から皮を引っ張っていく。
顔の部分は慎重に剥き、耳は骨ごと切り離した。
「これで一羽分の剥ぎ取り終わり!耳付きの毛皮は川で洗って、血の汚れをしっかり落としてね。それが甘いせいで染みが残って、売る時に買い叩かれるのはいやだからね」
「すごいな、あっというまだ。けがわもなんだか、きれいなきがする」
ジルバーが感心した様子なので、私もつい胸を張る。
「でしょ?男どもに負けないために、一生懸命に練習したんだから。さて次はジルバーの番よ」
ナイフの柄をジルバーに向けて差し出す。
「おれよりも、ノインがやったほうが、はやいし、うまそうだ」
「そんなの当たり前よ。私は小さな頃からさんざん練習してきたんだから。でもね、それはつまりジルバーも今から頑張れば、私くらい上手にできるようになるってことよ。だから、いっしょにがんばりましょ」
私もお父さんにそう言われて頑張った。だから今の私がある。そんな思いを込めてジルバーを見つめると、うなずきながらナイフを受け取ってくれた。
「そうだな。おれ、やるよ」
ジルバーは横にしていたウサギを手に持つ。
私は大きめの石に腰掛けて、ジルバーの手元を見つめた。
ジルバーはウサギをかるく縊ってトドメをさした後、指平たい石の上に乗せてお腹にナイフを入れる。
よく研がれたナイフは、血を洗い流すだけで切れ味がすぐに戻ってくる。
ジルバーの手つきはちっとも危な気がない。力まかせな部分もあるけど、それでも問題なく内臓を取り出していた。
「けっこう慣れてるみたいね。全部が自己流ってわけじゃなさそうだけれど、どこまでハンターのやり方見てたの?」
「おおざっぱなうごき、くらいかな。はぎとりは、みんなまわりをきにしてる。だからあまりちかづけないんだ」
そう言いつつも、川につけて血抜きをする手つきに淀みはない。
でも、ウサギの後ろ足を縛って木に下げたところで、初めて戸惑いを見せた。
「ここからどうするんだっけか?」
「後ろ足の足首に切れ目を入れるの。そこから毛を剥いで、あとから取りやすくするのよ」
ジルバーは教えた通りに足首に切れ目を入れ、そこから毛を剥がし始めた。
ちょっと力を入れ過ぎているようにも見えるが、毛皮だけ剥がせているので問題ないだろう。
いろいろと言いたくなるのを堪えながら見ていると、もしかしたらお父さんたちが私に教えてくれた時も、こんな気持ちだったのかなと思えてくる。
そうじゃないとか、ちょっと違うとか言いたいけれど、なにも言わずに後ろから暖かく見守る。
私は、お父さんたちにどうやって教えてもらっただろうか?
それをなんとか思い出そうとする。
慣れないやり方だからか、力まかせなところが増えてきた。ナイフを使えばキレイに剥けるところでも、強引に引っ張って剥がしたりしている。あれだと毛皮が伸びて、質が落ちてしまう。
それじゃあダメだと言いたい、すごく言いたい。でも、言っちゃダメだよね。
「できたぞ!どうだノイン!」
そんな私の心も知らず、ジルバーは得意そうな顔で剥ぎ取った毛皮を見せつけてきた。
力いっぱい引っ張ったせいで、毛皮がけっこう伸びてしまっている。
血抜きも甘かったのか、毛皮が赤くまだらに染まっている。
でも、教えた後の一回目だと考えれば、悪くはないと思う。……たぶんそう。
「う、うん。キレイに剥けたと思うよ。あとはもうちょっと、えーと……そう、やさしくやった方がいいかな?」
「やさしく、か?」
「うん。筋がしっかり付いている所は、力を入れるよりもナイフを使った方がキレイに取れるの。例えば、こことかね」
ジルバーが差し出した毛皮の一部を指し示す。
「そっか。たしかにちょっと、かたかったな」
それ以外のいくつかの注意点を、できるだけ優しい言葉を選びながら教えていく。
ジルバーはそれを感心した様子でうなずきながら、一生懸命に聞いてくれていた。
「……これくらいかな。あとは今言ったことに気をつけて、数をこなしていけばいいと思うわ」
「なるほど、よくわかった。もういっぴきも、おれがやっていいか?」
「もちろん」
私がうなずくと、ジルバーは最後の一羽の剥ぎ取りにとりかかる。
そんなジルバーの手元が見えにくくなっていて、だいぶ暗くなってきたことに気がついた。
「ジルバー、日が暮れてきてるけど、灯りは要る?」
「大丈夫だ。これくらい、もんだいない」
ジルバーはそう言って、言葉通り淀みなくナイフを扱っている。
私は慎重に立ち上がると、作業がよく見えるようにジルバーの近くへと進んだ。
腹を裂いて内臓を取り出し、血抜きをする。
足を縛って木に吊るし、足首に切れ目を入れてそこから毛を剥がす。
腹の切れ目を広げ、そこから全体を丁寧に剥がしていく。
教えた通りの手順を守って、ジルバーが作業を進めていく。
さっき教えたところは、首をかしげながらもナイフを使って慎重に剥いでいった。
今度は上手くいったみたいだ。ジルバーは自分で満足そうにうなずいている。
私から見ても、さっきよりもだいぶキレイに剥ぎ取れていると思う。
太陽が沈んでしまえば、暗くなるのはあっという間だ。
私はどんどん暗くなってくる周囲を気にしながら、片づけを始めた。
剥ぎ取ったウサギの毛皮と肉を集めて並べる。
毛皮の血を改めてよく洗い流し、肉もできる限り血抜きをしておく。
赤いコートにもだいぶ血が跳ねたはずなので、少し離れたところでこちらも洗った。
ジルバーの方も剥ぎ取りが終わったようで、毛皮と肉を持って来た。
「おわったぞ。さっきよりも、うまくいったとおもう」
「うん。私も見てて、そう思った。明るい所で確認するから、まずは家にもどりましょ?」
「そうだな。けがわをあらったら、すぐにもどろう」
「ジルバーの服はどうする?けっこう血がとんでるけど」
ジルバーは力まかせな部分が多いので、結構な量の血で汚れている。
しかしジルバーは特に気にしてないようだった。
「あとであらうさ。ノインの目がみえるうちにもどろう」
そう言ってウサギの毛皮をザブザブと洗っていた。
ジルバーの服の下は、やっぱり毛皮なんだろうか?触り心地はどうだろうか。ふさふさして温かい?どうなのかとっても気になる。
「どうしたノイン?」
「なんでもないわ。あとはその毛皮で終わりだから待ってるのよ」
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