魔獣の森のお嫁さん
家族の祝福
村の入り口の小さな扉。
その向こう側には、予想以上にたくさんの人が集まっていた。
「「「ノインちゃん、お帰りなさい!」」」
ハンターだけでなく、お爺さんお婆さんや子供までが口をそろえて歓迎してくれた。
「え、何でみなさんが、こんなにどうして?」
せいぜい暇なハンターたちしかいないと思っていたから、こんなに沢山の人が出迎えてくれて本当にびっくりした。
そんな中、お帰りとかおめでとうとか言いながら群がってくるハンターたちを押しのけて、酒場兼宿屋の女将さんが主婦仲間を連れて私の前までやってきた。
「よく帰ってきたねノインちゃん。疲れてないかい?」
「ただいま、おかみさん。部屋に荷物を置きっぱなしで、すいませんでした」
この女将さんがやってる宿屋は、初心者ハンターのほとんどが利用している。安いし、料理も美味しいし、なにより女将さんがとてもいい人だからだ。
ハンターはある程度お金を稼げるようになると、宿屋を出てアパートなり借家なり、自分の家を見つける。
宿屋を出ることが、一人前のハンターになるための条件の一つだったりする。
私もまだ宿屋に部屋を借りている身だったから、私がいない間はその部屋は誰も使えかったはず。
そのことを謝ると、女将さんは鷹揚に「いいのいいの」と手を振った。
「生きて帰ってきてくれただけで十分だよ。それよりも、もっと大事なことがあるんじゃない?」
「大事なこと、ですか?」
「そうよ。そのためにもまずは宿へ行かないとね」
「え、ちょっと待って下さい。その前に協会へ挨拶をしないと」
「そんなの後でいいわよ。ほらこっちよ」
女将さんに腕を掴まれ、有無を言わせずに引っ張られる。
「ノイン!まってくれ」
追って来ようとしたジルバーの前に、別なおばさんが立ちはだかった。
「大丈夫大丈夫、ここは私たちに任せてて。アンタはその間、この馬鹿どもの相手をしてて」
「だが、おれは……」
言いよどむジルバーの周りを、今度はハンターたちが取り囲んだ。
「そういうわけだから、たっぷり話をしようじゃないか」
こうなってはもう、私たちにはどうすることもできない。
ものすごく困った顔を向けてくるジルバーに、私は全てを諦めた顔で手を振った。
◇
「さあ、できたよ」
おばさんの宿に連れていかれておよそ一時間後、私の目の前には、キレイな白いドレスを着た私の姿が映し出されていた。
宿に一つしかない姿見の中に、まるで私じゃないような女の子が立っている。
「うんうん、よく似合ってるね。ぴったりでよかったわあ」
「あ、あの女将さん。これは一体……」
怒涛の展開について行けず、やっと意識が追いついてきて質問をする。
それに対して女将さんは、当然のことのように胸を張って答えた。
「なにって、ノインちゃんの花嫁衣装に決まってるじゃないか。アタシの昔のドレスだけど、大切に仕舞ってあったからね。キレイなもんだろ?」
女将さんは、酒場に来る男たちに負けないくらい立派な体をしている。
でもそれに比べると私は、やせっぽっちの子供と言われてもおかしくない。
だからこのドレスが似合っていた頃の女将さんの姿を、全く想像できなかった。
「なに呆けているんだい。大丈夫、お金の心配なんかいらないよ。どうせタンスの肥やしになってたやつだし、お祝いにあげるわ」
「え!?こんなキレイなものを貰うわけにはいきませんよ」
「いいんだよ。ウチの子供は男ばっかりだろ?それに宿に来るのは男しかいないハンターばっかり。小さいころからメッサーによく連れられて来てたノインちゃんは、アタシにとって娘みたいなもんだったんだよ」
「女将さん……」
たしかに昔から、この女将さんには良くしてもらっていた。
ハンターのことを教わるためにお父さんについて来た時も、見慣れない大人たちに戸惑う私を、女将さんが助けてくれたこともあった。
それにハンターになってからも、パーティーメンバーとの関係について、よく相談に乗ってもらってたりもした。
料理についても教えてもらったし、どうしてもお金が必要になった時は酒場で働かせてもらったりもした。
思い返せば、女将さんにはお世話になってばかりだ。
「私にとっても、女将さんは二人目のお母さんみたいなものです」
涙ぐみながらお礼を言えば、女将さんもまた目の端に涙をためて頷いている。
「うん、アンタはとっても素直ないい娘だよ。ウチの仕事を手伝ってくれたし、ホントだったらウチに嫁に来てほしいくらいだったさ」
「あはは、それについては、ごめんなさい」
「いいのよ謝らなくて。その代わり、アンタが決めたことなんだから、しっかりやるのよ」
「はい、ありがとうございます」
そうお礼を言った時、ドアをノックする音が聞こえた。
「おや、やっとお客様が来たようだね」
女将さんがドアを開けると、そこから花束を抱えた少女が飛び込んできた。
「お姉ちゃんおかえり!……うわっ何その格好、キレイ!ずるい!」
「こらエルフ、せっかくのお花を振り回しちゃダメよ」
騒がしい妹に続いて、お母さんも入って来た。
二人とも鮮やかな赤い長い髪をしている。以前の私はそれを羨ましいと思っていた。でも今はなぜか、そんなことは全然感じなかった。
「ノイン、お帰りなさい。大変だったわね」
「お母さん、心配かけてごめんなさい」
手を広げて抱きつくと、お母さんは優しく受けとめてくれた。
「本当に心配したのよ。でも無事でよかったわ」
「お母さんずるい!エルフも!」
お母さんから離れ、横で飛び跳ねているエルフを抱きしめる。
「ただいまエルフちゃん。いい子にしてた?」
「うん、いい子にしてたよ!お母さんのお手伝いもいっぱいしたんだから!」
「そっか、偉かったね」
胸を張る妹の頭をなでてから、お母さんに向き直った。
「お爺ちゃんとお婆ちゃんは?」
「二人とも教会の方で待ってるって言ってたわ。それにしてもノインがこんなに早く結婚するなんて思ってもいなかったわ。私のドレスは実家の方に貸したままになってるの、ごめんなさいね」
お母さんが謝ると、おかみさんが横で笑って言う。
「気にしなくていいよ。アンタの娘は他にもいるんだから、そっちに着させてやればいいさ」
「そうかもしれないけれど、なら今度どこかでお返しをさせていただくわ」
「そうかい?なら期待してるよ」
お母さんとおかみさんが、なぜか静かに張り合い始めてしまったので、慌てて二人の間に入る。
「そ、それにしてもなんで私の結婚式なんかやってくれることになってるの?いきなり連れて来られたからビックリしちゃったんだけど」
「それは、メッサーさんの頼みだったからだよ」
「お父さんが!?」
「そうさ。旅立つ娘に、なにか贈り物をしたかったらしいのよ。相談されたから、なら式を上げさせてやればいいって教えたのさ」
つまりはおかみさんのせいだったって訳ですか。
「私もすぐに賛成したわ。一生に一度のことですもの、大切にしたいに決まっているものね」
「エルフも!」
「そうよね」
私はなんて幸せ者なんだろう。
優しい人たちに囲まれて、こんなにみんなに良くしてもらって、ホントはこれが夢じゃないかって
怖くなってくる。
「あ、そうだ。ジルバーの方は大丈夫かしら」
「そうね。あっちも準備できてるころだし、そろそろ行こうかね」
そうして花束持った妹と手を繋いで、二人のお母さんと一緒に、ジルバーの待つ教会へと向かった。
その向こう側には、予想以上にたくさんの人が集まっていた。
「「「ノインちゃん、お帰りなさい!」」」
ハンターだけでなく、お爺さんお婆さんや子供までが口をそろえて歓迎してくれた。
「え、何でみなさんが、こんなにどうして?」
せいぜい暇なハンターたちしかいないと思っていたから、こんなに沢山の人が出迎えてくれて本当にびっくりした。
そんな中、お帰りとかおめでとうとか言いながら群がってくるハンターたちを押しのけて、酒場兼宿屋の女将さんが主婦仲間を連れて私の前までやってきた。
「よく帰ってきたねノインちゃん。疲れてないかい?」
「ただいま、おかみさん。部屋に荷物を置きっぱなしで、すいませんでした」
この女将さんがやってる宿屋は、初心者ハンターのほとんどが利用している。安いし、料理も美味しいし、なにより女将さんがとてもいい人だからだ。
ハンターはある程度お金を稼げるようになると、宿屋を出てアパートなり借家なり、自分の家を見つける。
宿屋を出ることが、一人前のハンターになるための条件の一つだったりする。
私もまだ宿屋に部屋を借りている身だったから、私がいない間はその部屋は誰も使えかったはず。
そのことを謝ると、女将さんは鷹揚に「いいのいいの」と手を振った。
「生きて帰ってきてくれただけで十分だよ。それよりも、もっと大事なことがあるんじゃない?」
「大事なこと、ですか?」
「そうよ。そのためにもまずは宿へ行かないとね」
「え、ちょっと待って下さい。その前に協会へ挨拶をしないと」
「そんなの後でいいわよ。ほらこっちよ」
女将さんに腕を掴まれ、有無を言わせずに引っ張られる。
「ノイン!まってくれ」
追って来ようとしたジルバーの前に、別なおばさんが立ちはだかった。
「大丈夫大丈夫、ここは私たちに任せてて。アンタはその間、この馬鹿どもの相手をしてて」
「だが、おれは……」
言いよどむジルバーの周りを、今度はハンターたちが取り囲んだ。
「そういうわけだから、たっぷり話をしようじゃないか」
こうなってはもう、私たちにはどうすることもできない。
ものすごく困った顔を向けてくるジルバーに、私は全てを諦めた顔で手を振った。
◇
「さあ、できたよ」
おばさんの宿に連れていかれておよそ一時間後、私の目の前には、キレイな白いドレスを着た私の姿が映し出されていた。
宿に一つしかない姿見の中に、まるで私じゃないような女の子が立っている。
「うんうん、よく似合ってるね。ぴったりでよかったわあ」
「あ、あの女将さん。これは一体……」
怒涛の展開について行けず、やっと意識が追いついてきて質問をする。
それに対して女将さんは、当然のことのように胸を張って答えた。
「なにって、ノインちゃんの花嫁衣装に決まってるじゃないか。アタシの昔のドレスだけど、大切に仕舞ってあったからね。キレイなもんだろ?」
女将さんは、酒場に来る男たちに負けないくらい立派な体をしている。
でもそれに比べると私は、やせっぽっちの子供と言われてもおかしくない。
だからこのドレスが似合っていた頃の女将さんの姿を、全く想像できなかった。
「なに呆けているんだい。大丈夫、お金の心配なんかいらないよ。どうせタンスの肥やしになってたやつだし、お祝いにあげるわ」
「え!?こんなキレイなものを貰うわけにはいきませんよ」
「いいんだよ。ウチの子供は男ばっかりだろ?それに宿に来るのは男しかいないハンターばっかり。小さいころからメッサーによく連れられて来てたノインちゃんは、アタシにとって娘みたいなもんだったんだよ」
「女将さん……」
たしかに昔から、この女将さんには良くしてもらっていた。
ハンターのことを教わるためにお父さんについて来た時も、見慣れない大人たちに戸惑う私を、女将さんが助けてくれたこともあった。
それにハンターになってからも、パーティーメンバーとの関係について、よく相談に乗ってもらってたりもした。
料理についても教えてもらったし、どうしてもお金が必要になった時は酒場で働かせてもらったりもした。
思い返せば、女将さんにはお世話になってばかりだ。
「私にとっても、女将さんは二人目のお母さんみたいなものです」
涙ぐみながらお礼を言えば、女将さんもまた目の端に涙をためて頷いている。
「うん、アンタはとっても素直ないい娘だよ。ウチの仕事を手伝ってくれたし、ホントだったらウチに嫁に来てほしいくらいだったさ」
「あはは、それについては、ごめんなさい」
「いいのよ謝らなくて。その代わり、アンタが決めたことなんだから、しっかりやるのよ」
「はい、ありがとうございます」
そうお礼を言った時、ドアをノックする音が聞こえた。
「おや、やっとお客様が来たようだね」
女将さんがドアを開けると、そこから花束を抱えた少女が飛び込んできた。
「お姉ちゃんおかえり!……うわっ何その格好、キレイ!ずるい!」
「こらエルフ、せっかくのお花を振り回しちゃダメよ」
騒がしい妹に続いて、お母さんも入って来た。
二人とも鮮やかな赤い長い髪をしている。以前の私はそれを羨ましいと思っていた。でも今はなぜか、そんなことは全然感じなかった。
「ノイン、お帰りなさい。大変だったわね」
「お母さん、心配かけてごめんなさい」
手を広げて抱きつくと、お母さんは優しく受けとめてくれた。
「本当に心配したのよ。でも無事でよかったわ」
「お母さんずるい!エルフも!」
お母さんから離れ、横で飛び跳ねているエルフを抱きしめる。
「ただいまエルフちゃん。いい子にしてた?」
「うん、いい子にしてたよ!お母さんのお手伝いもいっぱいしたんだから!」
「そっか、偉かったね」
胸を張る妹の頭をなでてから、お母さんに向き直った。
「お爺ちゃんとお婆ちゃんは?」
「二人とも教会の方で待ってるって言ってたわ。それにしてもノインがこんなに早く結婚するなんて思ってもいなかったわ。私のドレスは実家の方に貸したままになってるの、ごめんなさいね」
お母さんが謝ると、おかみさんが横で笑って言う。
「気にしなくていいよ。アンタの娘は他にもいるんだから、そっちに着させてやればいいさ」
「そうかもしれないけれど、なら今度どこかでお返しをさせていただくわ」
「そうかい?なら期待してるよ」
お母さんとおかみさんが、なぜか静かに張り合い始めてしまったので、慌てて二人の間に入る。
「そ、それにしてもなんで私の結婚式なんかやってくれることになってるの?いきなり連れて来られたからビックリしちゃったんだけど」
「それは、メッサーさんの頼みだったからだよ」
「お父さんが!?」
「そうさ。旅立つ娘に、なにか贈り物をしたかったらしいのよ。相談されたから、なら式を上げさせてやればいいって教えたのさ」
つまりはおかみさんのせいだったって訳ですか。
「私もすぐに賛成したわ。一生に一度のことですもの、大切にしたいに決まっているものね」
「エルフも!」
「そうよね」
私はなんて幸せ者なんだろう。
優しい人たちに囲まれて、こんなにみんなに良くしてもらって、ホントはこれが夢じゃないかって
怖くなってくる。
「あ、そうだ。ジルバーの方は大丈夫かしら」
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