魔獣の森のお嫁さん

天坂コーキ

反省会


「それでそのまま連れて帰ってきたってのかい?アタシの時とほとんど同じじゃないか、アンタは進歩ないねえ」

「めんぼくない」

魔女様の辛辣な言葉にも、ジルバーは頭を下げるだけだった。
そこへ横からフォローの声がかかる。

「ちょっとー、ジルをいじめるのはヤメたげなよ。ジャンヌが勝手にきたんだしさ」

でもそれは逆効果みたいだった。
なにせジャンヌちゃんはお説教の一因だし、それなのにまったく悪びれている様子がない。
魔女様はこれ見よがしにため息をついて首を振った。

「他人の森で勝手に獣寄せをやるような半人前は黙ってて。今は懲りないコイツに説教するのが先だから」

「はあ?森はだれかの所有物じゃないでしょ?オバさんなに言ってるの?」

「あなた、言葉に気をつけた方がいいわよ?それ自分は尻の青いお子様ですって言ってるのと同じだからね」

「むぅ!ジャンヌのお尻は青くないですし。意味わかんないんですけど」

「縄張りの管理は遊びじゃないのよ。権利には義務が伴うの、それが魔女はいらないのよ。ああ、半人前にはまだ早かったかしらね」

「ジャンヌはもう一人前だし!それくらい分かるし!」

「なら、なんで勝手に獣寄せなんてしたの」

魔女様の鋭い視線に射ぬかれて、ジャンヌちゃんが言葉に詰まった。

「あのね、あなたは一人前だって言うけれど、やっていることがことごとく中途半端なのよ。一人前っていうのは、最初から最後まできっちりやり通せる人のことを言うの。問題が発覚したら、段取りしてから調査。そこから分析、原因の解明、対処法を考えて実行する。最後に経過観察と追跡調査。しかも関わるモノ全てに通知して了解を取った上でね。今あたしが言ったこと、あなたはどのくらいやったの?」

「あ、あの、えーと……」

ジャンヌちゃんは視線を宙に彷徨わせながら、ぶつぶつ呟いている。

「調査して、それでその途中にジルが来たから……」

視線を向けられたジルバーが、え?俺のせいなの?とあせっている。

「ジルバーの問題はあなたとは別よ。間違いの責任をとれないなら、やっぱり一人前とは認められないわ」

「え、そんな……」

ジャンヌちゃんが助けを求めるように私を見るので、魔女様に視線で聞くとうなずきを返された。

「ジャンヌちゃん。あなたは、そもそもなんでオオトカゲなんか呼んだの?」

「それはその……森よ!森の奥で獣が増えてて、奥で食料が不足しだしたから浅いところに出てくるのが増えてきたの。で、中にはけっこう危ないのもいるから、どんなのがどのくらいいるか調べて教えてあげようと思ってやったのよ」

「あのね、……」

「教えてあげよう・・・・って、ずいぶん上から目線なのね」

魔女様の言葉に、ジャンヌちゃんは身をすくませた。

「あのね、ジャンヌちゃん。森の獣の異常は、私たちも気づいているのよ。それで、その調査も近々する予定になってるの。近くの村のハンターたちで共同して、広い範囲をみんなで一気に調べるの」

「ジャンヌが調べれば、もっと詳しくわかるわ」

「それは、ハンターたちよりってこと?」

ジャンヌちゃんがちょっと引いたのを見て、つい視線に力を込めてしまったのに気がついた。
私だって元ハンターだから、自分たちがよく入る領域については、自分たちが一番知っているという自負がある。
魔女様だってずっとこの森を守っていたのだし、ハンターと情報交換もしてきた。
だからよそから来た人に偉そう言われたら、カチンとくるのは当然だろう。

でもここで私まで怒っちゃダメだ。
大きく深呼吸をして心を落ち着けてから、ふたたび口を開いた。

「あのね、ジャンヌちゃん。例えばみんなでお菓子を食べてたとするでしょ?」

なにかいい例えはないかとキッチンの中を見回すと、置きっぱなしの木の実が入ったボウルを見つけた。
ジルバーをつついてそれを取ってきてもらい、それぞれの前にひとつかみずつ木の実が入ったお皿を並べる。

「みんな自分の量が決まっていて、それを考えながら食べてるの。それなのにいきなり横から誰かに取られたら、ジャンヌちゃんはどう思う?」

「……超ムカつく」

「でしょ?今回のジャンヌちゃんの間違いは、そういうふうに勝手に他人のものに手を出したことなのよ」

「ジャンヌが、……そっちの魔女とノインちゃんたちの森で勝手にした、から?」

「そうよ」

私がうなずくと、ジャンヌちゃんは目の前のお皿をにらみながら黙った。
魔女様はその様子を頬杖をついて見守りながら、木の実をポリポリと食べている。
ジャンヌちゃんがチラチラと魔女様を気にしているのを見て、私はジルバーをさそって静かに席を立ち、流しへ向かった。

「……ごめんなさい」

小さな声が聞こえた。

「ごめんなさい。ジャンヌが勝手に森で獣寄せをしました」

ジャンヌちゃんは魔女様を見て、頭を下げた。
魔女様は仕方ないとでも言いたげにため息をつく。

「ジャンヌ、あなたの師匠は山と石の魔女シュタインバッグでしょ?」

「え?山と石の魔女ピエレモンターギュよ」

魔女様が机を指で叩くと、魔女様の目の前のお皿がジャンヌちゃんへ飛んでいった。
ジャンヌちゃんはそれが顔に当たる直前で受け止めた。でも中に入った木の実が、勢い余って顔にぶつかった。

「きゃあっ!ちょっと痛いじゃない!なにすん……」

「そんなどうでもいいことはいいのよ。あなたの師匠は私たちの中で、最も古い魔女なの。その魔女の弟子はあなた一人だけなのよ。その意味は考えたことあるの?」

「意味って、なによ」

「森は迂闊に刺激すれば、災いを人の世に招くことになる。でも人は森なしには生きられない。だからその二つを吊りあわせるために、私たちがいるの。それくらい知ってるわよね?」

「うん、お婆ちゃんに何度も何度も聞かされてるし」

「森と人とを繋ぐのが魔女の仕事。あなたは、そのうちの人との繋がりが出来ているとは言えないわ」

「なんでそう言いきれるんですか」

「今なんで自分が説教されているのか分かってないようね」

ジャンヌちゃんはちょっと悩んでから、しまったというような顔をした。

「だから半人前って言ったのよ。それどころかその様子じゃ、森との付き合い方も分かってるのか心配だわ」

「も、森の方とは、大丈夫よ」

「なら人の方とは?」

「だいじょう、ぶ……じゃないです」

魔女様の視線に負けて、ジャンヌちゃんがうつむいた。
そしてさらに魔女様が続けようとしていたところへ、ジルバーが割って入った。

「まあまあ、落ち着け。ちょっと一休みしよう」

そう言いながら、手に持った木のコップを二人の前に並べる。

「果物を絞ったジュースだ。甘いものを食べれば、気持ちによゆうができるぞ」

「うう、ありがとうジル」

「あら、ジルバーにしては気が利くじゃない」

「まあ思いついたのはノインなんだがな」

別に言わなくてもいいことを言っている。まあそこがジルバーらしいんだけど。

「ああそういえばジルバー」

「なんだ?」

「そもそも最初はあんたの説教してたのよね?」

「げっ、そうだった」

「魔女様、それはいいですよ」

自分のとジルバーの分のコップを置いて、二人の間に入るように席につく。

「おお、ノイン本当か?」

「ジルバーは私から後できつく言っておきますから」

「ああそう。ならお願いね」

そう言われたジルバーは、ジャンヌちゃんといっしょにうつむいた。

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