魔獣の森のお嫁さん
ふたりの夕食
楽しいおしゃべりの時間は、あっという間に過ぎていった。
窓から差し込む光が傾いて来たのを見て、魔女様がジャンヌちゃんを連れて立ち上った。
「予定より話は進まなかったけど、今日のところはこれで帰るわ。じゃあね」
「じゃあノインちゃんまたねっ!あとジルも」
「ジャンヌちゃんまたね」
「またな。魔女のいうことをよく聞くんだぞ」
「ほら、行くわよジャンヌ」
「魔女様もまた後日改めて」
「すぐに来るわよ。その時はメッサーもいっしょにね」
ジャンヌちゃんはしばらく魔女様の家に泊めてもらうらしい。
うちに泊まってもよかったんだけど、魔女様は他人との付き合い方を教育するつもりらしかった。
「はあ、騒がしいやつ、だったな」
二人が見えなくなると、ジルバーはため息をついた。
「明るくていい娘じゃない。ジルバーはああいう娘が好きなんじゃないの?」
「かんべんしてくれ。あの声は耳にキンキン響いて落ち着けない。俺はもっと落ち着いて話せるほうが好きだ」
頭をやさしく撫でられながら言われると、悪い気はしない。
今日のところは、そういうことにしてあげよう。
「じゃあこの後はどうしよっか?」
「ちょっと早いが、今日はもう、みせじまいだ。狩りに行く気分じゃなくなった」
「ならお酒取ってきてくれる?料理に使うと美味しくなるんだって。この前教えてもらったレシピにあったのよ」
「わかった。たくさんいるのか?」
「壺一つくらいでいいかな」
「それくらいならお安いご用だ。暗くなる前には戻ってこれる」
「ありがとね。私は他の作業から始めてるから、いそがなくてもいいわよ」
森に入っていくジルバーを見送って、家の中へと戻る。
日の光がまだあるうちに、レシピを見ながら作れるところまで作っておかないと。
◇
新作の料理は、思ったよりも美味しくできた。
ジルバーにも好評で、次はもっとたくさん作ろうと思う。
「今日はちょっと食べ過ぎたな。もうこれ以上入らないぞ」
「喜んでもらえてよかった。次は魔女様たちにも食べてもらおうかな」
「それはいいかもしれない。でもそしたら、もっと酒を持って来たほうがいいだろうな」
「確かにね」
私たちは、料理に使ってあまったお酒を飲んでいた。
ジルバーが気を利かせて、ジュースもたくさん持ってきてくれていた。
「でも今年はそこまで酒は造ってなかったな。飲む方の酒は、村で買ったほうがいいかもしれない」
「そうなの?私はお酒のことはあまり分からないんだけど」
「この前村で酒を飲ませてもらったんだが、アレはかなりうまかった。それに比べると、俺の方はまだまだだ。しょうしゅ?の所で造ってるらしいが、やり方は分からなかった。俺のはかなりテキトーだからな。道具も場所もすごいんだろうな」
ジルバーはけっこうなペースで飲んでいるせいか、口数が増えてる。
狼の顔だからわかりづらいけど、普段よりもちょっとだけ顔が緩んでもいる。
「りょうしゅ様ね。村からけっこう離れたところにある【領都】っていう大きな街に住んでるのよ。壁は石でできてるし、広さも村が3つは入るわ。それに人が多くて、外を歩けば必ず別の誰かがその辺にいるのよ」
「そうか、そんなにすごい所なのか。……そのすれ違う人はおなじ人間ってことないよな?」
「なに言ってるのよ。飲みすぎじゃないの?領都には他の村々やいろんな所から人が集まってくるのよ。兵士さんだけで百人もいるらしいから、普通の人はその何倍もいるはずよ」
「何百人も!?俺には想像できない。なんというか、すごい所なんだなあ」
ジルバーは宙をぼんやり眺めながら頷いていた。
「大狩猟祭には領主様が、軍の半分の兵士さんとお供の人たちをたくさん連れてくるわよ。それと商人たちも。毎年この時期だけ村の人の数がすっごい増えるの。一度観に行こうか」
「観たいぞ、それは。でもその、りょうとの、へいし、は分かるけど、そうじゃないのが来て、何をするんだ?」
「それはもちろん、狩りで手に入れた森の恵み目当てよ。獣を狩れば、毛皮や肉が手に入るし、獣がいなくなればハンターじゃなくても森に入れるようになるの。そうやって安全になった森の木を切ったり、野草や木の実とかを求めて、遠くからたくさんの人たちがやってくるのよ」
「しろうとが、森に入るのか?」
「もちろんハンターが先導するわよ。でもハンターじゃない人がすごく多いのは確かね」
「うーん。そんなたくさんの人が森に入って、森の怒りをかったりしないかなあ。森がダメになったら、あの村は大変だろ」
「そこはほら、魔女様がいるじゃない。それにハンターたちがいつも森の状態を確かめてるわよ」
「ああそうか。こんど魔女とメッサーさんが話しをしたい言ってたのは、それのことか」
「そうよ。森の奥のことに関しては、ジルバーの方が詳しいんだから。ちゃんと説明しなきゃダメよ」
「わかってるよ。ジャーディックにやられた森も、この一年ですっかり元通りになってる。むしろ前よりすごくなってるくらいだ」
ジルバーはお酒を呷ってから、ああそうかとつぶやいた。
「だから去年は大狩猟祭をやらなかったし、今年はやるのか」
そう、大狩猟祭は森を管理するためのもの。
森が人を傷つけないように、人が森を壊さないように、魔女様が人に伝えた方法。
私のお祖父さんのお祖父さんが獣の大侵攻と戦ったあくる年、魔女様が領主様のもとに現れて、この方法を伝えたらしい。
大狩猟祭という名前は後からつけられたもので、今ではその名前のとおり村はお祭り騒ぎになる。
「ねえジルバー、ほんとうに大狩猟祭を観に行かない?この時期だけ領都からいろんな珍しいものをいっぱい売りに来たりするんだよ」
「珍しいものか。……キレイな服とか、欲しいか?」
「ううん、私はそういうのはいいよ。でもさ、ジルバーは石を切る道具を欲しがってたじゃない。あと狩りの道具とか、村では作れないようなものもいっぱいあるんだよ」
「そうかなのか。へいしたちの狩りにも興味があるけど、珍しいものも見てみたいな」
「でしょでしょ?」
「ああ。じゃあ魔女と相談してみるよ。たぶんいいって言うだろうし」
そう言うジルバーの頭がぐらぐら揺れている。
目が閉じかかって、視線が安定していない。
「ジルバー、飲みすぎたの?」
「だいじょうぶ、だ。そんなに酔ってない」
「ウソよ、かなり眠そうよ」
「そうかな。かたずけたら、今日は寝よう」
「いいわよ、片づけは私がやっておくわ。先に寝てていいよ」
「わるいな、ありがとうノイン」
立ち上がったジルバーは、眠そうな顔のまま私を抱きしめてきた。
力が強くて、ドキドキして、ちょっと呼吸が止まってしまったので、あわててその胸を押し返す。
「いいって。そのかわり、大狩猟祭を楽しみにしてるからね」
「ああ、まかせとけ」
ジルバーは眠そうな笑顔でキッチンを出て行った。
私も少し酔ったのだろうか、いつもより顔がかなり熱い。
ちょっとだけウキウキしながら、食卓の片づけを始めた。
窓から差し込む光が傾いて来たのを見て、魔女様がジャンヌちゃんを連れて立ち上った。
「予定より話は進まなかったけど、今日のところはこれで帰るわ。じゃあね」
「じゃあノインちゃんまたねっ!あとジルも」
「ジャンヌちゃんまたね」
「またな。魔女のいうことをよく聞くんだぞ」
「ほら、行くわよジャンヌ」
「魔女様もまた後日改めて」
「すぐに来るわよ。その時はメッサーもいっしょにね」
ジャンヌちゃんはしばらく魔女様の家に泊めてもらうらしい。
うちに泊まってもよかったんだけど、魔女様は他人との付き合い方を教育するつもりらしかった。
「はあ、騒がしいやつ、だったな」
二人が見えなくなると、ジルバーはため息をついた。
「明るくていい娘じゃない。ジルバーはああいう娘が好きなんじゃないの?」
「かんべんしてくれ。あの声は耳にキンキン響いて落ち着けない。俺はもっと落ち着いて話せるほうが好きだ」
頭をやさしく撫でられながら言われると、悪い気はしない。
今日のところは、そういうことにしてあげよう。
「じゃあこの後はどうしよっか?」
「ちょっと早いが、今日はもう、みせじまいだ。狩りに行く気分じゃなくなった」
「ならお酒取ってきてくれる?料理に使うと美味しくなるんだって。この前教えてもらったレシピにあったのよ」
「わかった。たくさんいるのか?」
「壺一つくらいでいいかな」
「それくらいならお安いご用だ。暗くなる前には戻ってこれる」
「ありがとね。私は他の作業から始めてるから、いそがなくてもいいわよ」
森に入っていくジルバーを見送って、家の中へと戻る。
日の光がまだあるうちに、レシピを見ながら作れるところまで作っておかないと。
◇
新作の料理は、思ったよりも美味しくできた。
ジルバーにも好評で、次はもっとたくさん作ろうと思う。
「今日はちょっと食べ過ぎたな。もうこれ以上入らないぞ」
「喜んでもらえてよかった。次は魔女様たちにも食べてもらおうかな」
「それはいいかもしれない。でもそしたら、もっと酒を持って来たほうがいいだろうな」
「確かにね」
私たちは、料理に使ってあまったお酒を飲んでいた。
ジルバーが気を利かせて、ジュースもたくさん持ってきてくれていた。
「でも今年はそこまで酒は造ってなかったな。飲む方の酒は、村で買ったほうがいいかもしれない」
「そうなの?私はお酒のことはあまり分からないんだけど」
「この前村で酒を飲ませてもらったんだが、アレはかなりうまかった。それに比べると、俺の方はまだまだだ。しょうしゅ?の所で造ってるらしいが、やり方は分からなかった。俺のはかなりテキトーだからな。道具も場所もすごいんだろうな」
ジルバーはけっこうなペースで飲んでいるせいか、口数が増えてる。
狼の顔だからわかりづらいけど、普段よりもちょっとだけ顔が緩んでもいる。
「りょうしゅ様ね。村からけっこう離れたところにある【領都】っていう大きな街に住んでるのよ。壁は石でできてるし、広さも村が3つは入るわ。それに人が多くて、外を歩けば必ず別の誰かがその辺にいるのよ」
「そうか、そんなにすごい所なのか。……そのすれ違う人はおなじ人間ってことないよな?」
「なに言ってるのよ。飲みすぎじゃないの?領都には他の村々やいろんな所から人が集まってくるのよ。兵士さんだけで百人もいるらしいから、普通の人はその何倍もいるはずよ」
「何百人も!?俺には想像できない。なんというか、すごい所なんだなあ」
ジルバーは宙をぼんやり眺めながら頷いていた。
「大狩猟祭には領主様が、軍の半分の兵士さんとお供の人たちをたくさん連れてくるわよ。それと商人たちも。毎年この時期だけ村の人の数がすっごい増えるの。一度観に行こうか」
「観たいぞ、それは。でもその、りょうとの、へいし、は分かるけど、そうじゃないのが来て、何をするんだ?」
「それはもちろん、狩りで手に入れた森の恵み目当てよ。獣を狩れば、毛皮や肉が手に入るし、獣がいなくなればハンターじゃなくても森に入れるようになるの。そうやって安全になった森の木を切ったり、野草や木の実とかを求めて、遠くからたくさんの人たちがやってくるのよ」
「しろうとが、森に入るのか?」
「もちろんハンターが先導するわよ。でもハンターじゃない人がすごく多いのは確かね」
「うーん。そんなたくさんの人が森に入って、森の怒りをかったりしないかなあ。森がダメになったら、あの村は大変だろ」
「そこはほら、魔女様がいるじゃない。それにハンターたちがいつも森の状態を確かめてるわよ」
「ああそうか。こんど魔女とメッサーさんが話しをしたい言ってたのは、それのことか」
「そうよ。森の奥のことに関しては、ジルバーの方が詳しいんだから。ちゃんと説明しなきゃダメよ」
「わかってるよ。ジャーディックにやられた森も、この一年ですっかり元通りになってる。むしろ前よりすごくなってるくらいだ」
ジルバーはお酒を呷ってから、ああそうかとつぶやいた。
「だから去年は大狩猟祭をやらなかったし、今年はやるのか」
そう、大狩猟祭は森を管理するためのもの。
森が人を傷つけないように、人が森を壊さないように、魔女様が人に伝えた方法。
私のお祖父さんのお祖父さんが獣の大侵攻と戦ったあくる年、魔女様が領主様のもとに現れて、この方法を伝えたらしい。
大狩猟祭という名前は後からつけられたもので、今ではその名前のとおり村はお祭り騒ぎになる。
「ねえジルバー、ほんとうに大狩猟祭を観に行かない?この時期だけ領都からいろんな珍しいものをいっぱい売りに来たりするんだよ」
「珍しいものか。……キレイな服とか、欲しいか?」
「ううん、私はそういうのはいいよ。でもさ、ジルバーは石を切る道具を欲しがってたじゃない。あと狩りの道具とか、村では作れないようなものもいっぱいあるんだよ」
「そうかなのか。へいしたちの狩りにも興味があるけど、珍しいものも見てみたいな」
「でしょでしょ?」
「ああ。じゃあ魔女と相談してみるよ。たぶんいいって言うだろうし」
そう言うジルバーの頭がぐらぐら揺れている。
目が閉じかかって、視線が安定していない。
「ジルバー、飲みすぎたの?」
「だいじょうぶ、だ。そんなに酔ってない」
「ウソよ、かなり眠そうよ」
「そうかな。かたずけたら、今日は寝よう」
「いいわよ、片づけは私がやっておくわ。先に寝てていいよ」
「わるいな、ありがとうノイン」
立ち上がったジルバーは、眠そうな顔のまま私を抱きしめてきた。
力が強くて、ドキドキして、ちょっと呼吸が止まってしまったので、あわててその胸を押し返す。
「いいって。そのかわり、大狩猟祭を楽しみにしてるからね」
「ああ、まかせとけ」
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