魔獣の森のお嫁さん

天坂コーキ

お祭り広場の大勝負

ハンター協会から出ると、通りの人はさらに増えていた。
協会は森へとすぐに向かえるように、大門通りにある。
それなのに先に宿屋へ向かった理由はふたつ。ひとつは森の家から長距離を半日で移動してきたので、ジルバーの疲れを気にしたから。
私を抱えて、そして大荷物を背負っての移動は、普段ならジルバーには何も問題ないだろう。でもそこに初めての人ごみが加われば、いくらジルバーでも疲れるだろうと思って最初から宿屋へ行くことを提案してあった。
物珍しさもあってあまり気になってなかったようだけど、宿屋で長いため息をついていたので、やっぱり休憩を先にとってよかったみたいだ。

少しの休憩でも元気になったようで、協会でも何人かの顔見知りと話をしていた。
獣の素材価格とかの情報を聞いていたみたいで、なんだか本当にハンターになってきたんだなと感心してしまう。
かと思えば、祭りの楽しみ方なんかも聞いていたようで、協会から出る時になると待ちきれないように手を引いてきた。

「ノイン、知ってるか?広場のほうでゲーム大会をやってるらしいぞ。やるだけでいろいろもらえるらしい。行ってみよう」

「ゲーム大会?いいわよ。でもどうせ参加するなら優勝を狙おう」

「ゆうしょう?」

「そう、皆の中で一番すごいってことよ。ジルバーならきっと優勝できるわ」

「おう、わかった。ノインが言うなら、ゆうしょうしてやる!」

エイエイオーと気合いを入れたところで、騒ぐなら外でやれと協会を追い出された。

広場は大門通りから離れた、村の中心部分にある。
ジルバーは屋台やすれ違う人たちをキョロキョロと楽しそうに見ている。自然歩みは遅くなるけど、急いではないし別に大丈夫。ゲーム大会は、特に時間が決まったものではないから。
見たことないものを次々に聞いてきたり「すごいな」を何度も言うジルバーをかわいく思いながら、人の流れに合わせてゆっくりと進んだ。

やがて、人が集まっている広場が見えてくる。
普段なら閑散としている空き地に様々な物が建てられ、にぎやかな音が聞こえてくる。
色とりどりのテント、背の高い鉄柱、空に浮かぶ気球。
ほぼ毎年見ている私でもワクワクしてくるのだから、ジルバーは言わずもがなだった。

「おおお!なんだあれ、すごいな!空に浮かんでるあれが遠くからも見えてたから近くにいけば分かるかと思ったが、ここまで来てもさっぱりわからないな!」

「あれは、『ここには面白いものがありますよ』っていう目印よ。だから遠くからでも見つけられるように浮いているの」

「なるほど、そうなのか。ノインは物知りだな」

「当然よ。私は生まれてから毎回ここに来てるんだから」

そんなふうにジルバーと話しながら、広場の中へと入った。

広場は文字通りのお祭り騒ぎだ。
笛や太鼓が鳴り響き、あちこちから歓声が聞こえてくる。
派手な服を着て化粧をしたピエロが芸を披露し、回転木馬が音楽に合わせて動いている。

退屈で平凡な毎日を忘れられる特別な場所が、ここにはあった。

「ジルバーは何か面白そうなもの見つけた?」

そう聞いてみたが、返事がない。不思議に思って見上げた先には、真顔のジルバーがいた。

「ジルバー?」

「ん?ああ、なんだが今俺が見ているものが信じられなくてな。ここは本当に、森のそばにあるあの村の広場なんだろうか。俺は魔女に変な夢でも見させられてるんじゃないだろうか?」

本気で思っているようなその様子に、思わず笑ってしまう。

「ジルバーは大げさね。でも、もし夢だとしてもこれは悪いものじゃないわ。ここにあるのは、みんなで騒いで、歌って、踊れる夢。だから気にせずに楽しもう?」

「そう……なのか?でも、その……」

たぶんジルバーは、お祭りが生まれて初めてだから戸惑っているのだろう。
どこかでちょっと休めば落ち着けるんじゃないかと思って辺りを見回すと、見覚えのあるヤツと目が合った。

「あ、ノイン。おめーも来てたのか!」

そう言って綿菓子片手に駆け寄ってきたのは、元パーティーメンバーの一人、ディールだった。

「当然よ、2年ぶりのお祭りじゃない。それにしてもアンタ変わってないわね」

「勝手なこと言うなよ。オレはもうあの頃みたいな子供がきじゃない。大型に挑むことも許された、大物ハンターの一人なんだぜ」

「へえ、逃げ足疾風ディールもついに大物狩りか。頑張ってるじゃない」

「ばっかお前、逃げ足って呼ぶなよ。それに今回の大狩猟祭でも、オレらのパーティーで小隊の兵士の案内につくことになってんだ。でっかい獲物見つけて、報酬がっぽりもらってやるからな」

『大狩猟祭』の言葉で、今まで動かなかったジルバーが反応した。

「ディール。お前も、行くのか」

「お、おう。ジルバーだったな。そうさオレも、いやオレらも前線の案内を任されたんだよ。お前がメッサーさんのお気に入りだとしても、オレは負けるつもりないからな」

「案内するだけだ。勝負はそこにない」

「そういう意味じゃねよ。オレはその……とにかくお前には負けないって言いたいんだよ!」

ディールのおかげで、ジルバーがいつもの調子を取り戻したみたいだ。
もしかしたらジルバーは、ディールみたいに話せる友達がいたほうがいいのかもしれない。
ちょっと思いついた。

「ねえ、二人とも」

「どうした?」

「なんだよ」

「ここはお祭り広場なんだし、どうせなら勝負してみればいいんじゃない?」

そう提案すると、二人は顔を見合わせて、それから同時に口を歪めて笑った。

「よっしゃ、ならこのお祭り王であるディール様が相手になってやろうじゃないか」

「相手が誰だろうと、俺は優勝するぞ」

笑顔で睨み合う二人。
こういう時の男の子はとても楽しそうだ。

そして、二人の勝負が始まった。
ここ、お祭り広場では、様々な催しものがある。
どれだけ重い荷物を運べるかを競う荷運びレース。
空高くそそり立っている鉄柱を、時間内にどこまで登れるか競う鉄柱登り。
そして大狩猟祭の定番である、大食い大会。そしてその他多数。

どれも数時間おきに開催されていて、飛び込み参加はもちろん自由。
私たちはそんないくつもの競技を目にするたびに挑戦し、楽しく騒いで競い合った。

その結果、ディールが仰向けに寝転んで、肩で息をしていた。

「ジルバー、お前、けっこうやるじゃないか」

「ディールもなかなかだったな。まさか短距離走で俺に並ぶやつがいるとは思わなかったぞ」

ジルバーも息をきらせている。本当に全力で走っていたみたいだ。

「オレは足が自慢なんだよ。ってか走りがオレと同じで、それ以外はオレよりすごいとかお前バケモノかよ」

「当然だ。俺はすごい」

ポーズをとって胸を張るジルバー。
なんか余計な自信を持ってしまったっぽい。
それもこれも、どの競技でも他の参加者を抜いて、本当に優勝できてしまっているからだろう。
ジルバーならそれも当然なんだろうけど、あんまり目立ちすぎると正体がバレるかもしれないので、そろそろ止めておいた方がいいかも。

「よし次はあれやろう」

「やってやる、次こそ勝つ!」

「あ、ちょっと待ってよ」

歩きだそうとする二人をあわてて止める。
ジルバーを止めるには、アレしかない。

「もうすぐ重要な競技が始まるはずよ」

「じゅうような競技?」

「なにかあったか?」

「ふふふ、それはね……」

二人が注目しているのを確認してから、言った。

「なぞなぞ大会よ」

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