魔獣の森のお嫁さん

天坂コーキ

祭りの中のいつものこと

「これにて、なぞなぞ大会午前の部を終わりにいたします。皆様、ご参加ありがとうございました!」

舞台の上で、お姉さんが優勝者と一緒に頭を下げた。観客たちは歓声を上げながら拍手をして、大会が終わるのを惜しんでいた。
これで第一回は終わり。同じことを今日の午後に1回と明日2回やって、あさってにそれぞれの優勝者4人で最後の優勝者決定戦をやる。
それはそれで面白いんだけど、私たちにとってのメインイベントはそちらではなかった。

「ねえジルバー、なぞなぞ大会はどうだった?」

「なかなか難しかったな」

「オレにかかれば、まあこんなものだな」

「ディールはもっと頭使った方がいいんじゃないかな?」

「なんだと!?オレはけっこう当ててたぞ」

「誰でも解けるような問題よね。会場の人たちも正解率高かったし」

「そ、その誰でも解けるような問題をジルバーは間違えてたろうが!」

「ジルバーはずっと森に住んでたんだから仕方ないでしょ。こっちの常識と森の常識は違うんだから」

「まあまあふたりとも、ケンカは良くないぞ」

「はーい」

「ケンカじゃねえよ」

ジルバーのとりなしで、いったん距離をとる。
会場の人たちはそれぞれ別々の場所へと移動し始めていた。午後の部が始まるにはまだ時間があるので、みんなお昼を食べにいくのだろう。
私たちもまたその人並みに乗って移動することにした。

「で、なぞなぞの勝負はオレの勝ちだよな」

ディールがニヤリと笑う。
確かにジルバーは簡単な常識問題でつまづいていたので、正解数はディールが勝っていた。
でもそうじゃない。

「残念でした。優勝者は私です!」

「は?どういうことだよ」

「どういうこともなにも、言ったじゃない。誰が一番正解するかで勝負よっ、て」

「うん、たしかに言ってたな」

「でしょ?だから、常識問題も解けて、頭を使う問題もそこそこ解けた私が優勝なのよ」

「はあ?んなこと聞いてないし」

「だからディールは頭を使いなさいって言ってるでしょ」

「これはオレとジルバーの勝負だったはずだぜ!ノインは関係ないだろ」

「ちょっと、痛いじゃない」

ディールが興奮して、腕を強く握ってきた。
まだハンターをやってたころは鍛えてたから大丈夫だったけど、その頃と比べるとかなり筋肉が落ちてしまっている。
振り払うことができずにふらついた私を支えてくれたのは、ジルバーのたくましい腕だった。

「ケンカは、よくない」

ジルバーがにらむと、ディールは手を放した。

「ちっ、悪かったよ。明日からの大狩猟祭があるから、ちょっと気が立ってたんだ」

「……それは分かったけど、でもジルバーをバカにするのはやめてよね。ジルバーは本当にすごいんだから」

「あーはいはい、わかりましたよ。バカにしてごめんなさいね。じゃあ負け犬はとっとと消えるから、後はおふたりで仲良く楽しんでくれよ」

「あ、ちょっとディール!そんなつもりじゃなかったのよ、待ってよ、ねぇ!」

止めようとしたけれど、ディールは歩いていってしまった。
怒っているような、寂しそうなその後ろ姿は、人ごみに紛れてすぐに見えなくなってしまった。

「ジルバー……」

私が強く言い過ぎたの?そう聞こうとして見上げたけれど、ジルバーはゆっくりと首を横に振った。

「あいつもオスだ。こういう時は、そっとしておいてやるのが一番だ。つぎ会う時は、またいつも通りに話せるだろう」

「ほんとうに?」

「ああ、本当だ」

ジルバーが力強くうなずいた。私にはよく分からないけれど、とても自信があるみたいだ。

「わかった。じゃあ、ジルバーの言うことを信じてみる」

「ああ。じゃあ俺たちで、また祭りの続きを楽しもう」

「うん」

ジルバーが差し出す腕につかまって、私たちは人ごみのお祭り広場へと踏み出した。

◇◆

「ちくしょう、見せつけやがってよ」

ディールは、人ごみでごった返すお祭り広場を突き進んでいた。
訓練を積んできたハンターである彼は、イライラしていても難なく人の間をすり抜けていく。
お祭り広場には様々な店が並んでいる。
おもちゃの弓を使った的当てゲームや、色とりどりのひな鳥を売る店など。楽しいものが溢れている。
そしてそこで楽しむ人たちもまた、いろいろな者がいた。
例えば親子連れ、子供のグループ、そして男女のカップル。

「仲良く雷に打たれて天国へ行けばいいんだ、くそっ」

小さくつぶやいた言葉は、周りの誰にも気づかれなかったようだ。
ずっと祭りは好きだったが、今は嫌いだった。

そんな不機嫌そうなディールを気にする者はひとりもおらず、またそんな自分に自然とため息が出た時、誰かに呼ばれた気がして顔を上げた。

「おーい、ディール!」

「なんだ、ポンメスか」

出店の前で手を振っているのは、いつものパーティーメンバーの一人だった。

「ようポンメス。相変わらず食いまくってるな」

「当たり前だよ。なんたって明日からはまた森の中へ行かなきゃいけないんだからね。祭りの味が楽しめるのは、今日くらいなんだから」

「んなの、帰ってきてからでもまだ2・3日はやってるだろ」

「甘いね。ボクらが帰ってくる時は森の恵みをたくさん持って帰ってきてるから、メニューが大きく変わるんだよ。だから今は、熟成されたものが安く大量に食べられるのさ」

そう言いながらポンメスが出店の店主から受け取ったのは、塩の振られたマッシュポテトにチーズとバターが添えられたものだった。

「つまりそれって保存食の在庫処分ってことだろうが。そんなのに金を使うなよ」

「たくさん食べれば倉庫が空くから、その分またたくさん保存できるんだ。だから食べることにも意味はあるんだよ」

「さすがマッシュポテトポンメスだよ。オレにはマネできないね」

「今日はやけに機嫌悪いみたいだね。でもこれがボクのお金の使い方だ。別にディールもマネしろだなんて言わないよ」

ポンメスはそう言うと、マッシュポテトを口いっぱいに詰め込んだ。

(またやっちまった。まったく、今日のオレはどうかしてる)

話が途切れてしまったことに、ディールはちょっとだけ罪悪感を感じた。
またため息が出そうになった時、ふたたびポンメスが話かけてきた。

「ところでディールはあの話、知ってる?」

「あの話?」

「うん、明日からのボクらの移動ルートのことなんだけどさ」

翌日からの大狩猟祭本番、ハンターはそれぞれ数人組になって、領都から来た兵士に森の中を案内することになっている。
そのルートはあらかじめハンター協会によって決められていて、当日朝にハンターたちに知らされることになっている。

「その移動ルートが、ちょっと面白いことになってるんだよね」

「へえ、どんな風になってるんだ?」

「聞きたい?じゃあ別なのを食べながら話そう」

ポンメスは食べ終わったマッシュポテトの皿を店主に返すと、別の出店へと向けて歩きだした。

「おい、お前まだ食うのかよ」

「当然だよ。だってこれからお昼なんだし」

「ったく、仕方ねえなあ」

ディールはその後ポンメスといっしょに食べ歩きながら話を続けた。
いつものように話をしているうちに、ディールの中のイライラはいつの間にかどこかへ行っていた。

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