魔獣の森のお嫁さん

天坂コーキ

ジルバー完全復活

大狩猟祭はちょっとの誤算はあったものの、例年以上の収穫になった。これはやっぱり去年は大狩猟祭をやらなかったので、草木も獣もかなり繁殖していたからみたいだ。一番数が多かったのはウサギやシカなどの、岩場の上や土の下みたいな手の出しにくい所に住んでいる草食の獣だった。
普段からハンターたちが狩っていたのに、どこに隠れていたのかと驚くくらい獲れていた。

「もし大狩猟をしなかった場合、来年になると草食の獣をエサにする肉食の獣が増えるの。そしてそのまま次の年になるとそのエサが不足して、肉食の獣たちが村へ出てくる。これが獣の大侵攻の正体なのよ」
「ふーん、そうなんだー」

ジャンヌちゃんがそわそわした様子で窓の外を見ながら答えた。

「ジャンヌちゃん、聞いてる?」
「うん、聞いてる。聞いてるよ。それよりさ、ジルたちはまだ来ないの?今日が大狩猟祭の最終日なんだから、早くしないと楽しめずに終わっちゃうじゃない」
「今日まで外に出れなかったのはジャンヌちゃんのせいでしょ。ジャンヌちゃんが余計なことをしなければ、魔女様にカンヅメにされることはなかったんだからね」

私がそう叱ると、ジャンヌちゃんは五月蠅そうに耳を塞いだ。

「わかってるわよ。だからちゃんと今日に間に合うように、ジルの【皮】を仕上げたじゃない。もう目が痛いし手が疲れたし、ちょー頑張ったんだから」

本人が言うとおり、ジャンヌちゃんはたった2日で【人の皮】を仕上げてきた。酸のブレスによって破けた上半身だけの簡易版だけど、その速度には魔女様も驚いたようだった。
今、ジルバーはそのジャンヌちゃん製【人の皮】の試着をしているところだ。魔女様はその最終的な調整と仕上をしてくれている。

「アレがダメだったら、ジャンヌちゃんはまた新しいの作り直しなんでしょ?」
「今度こそ、ぜったいダイジョーブよ。ちゃんと手順通りの材料で、手順どおりに作ったし。大釜とかローラーの準備とか後始末とかちょーメンドクサイから一度しかやりたくないし。あんなもの最初に作ったのってぜったいにマゾの悪魔だったに決まってるわよ。ジャンヌは悪魔の罠になんてかかりたくないから、マジでマジでちょーマジで作ったんだからね。やり直しなんて絶対にアリエナイわ」

過去を見ながら語る目は、かつて見たことがないくらい真剣だった。

「じゃあさ、大狩猟祭の勉強ももっとちゃんとした方がいいんじゃない?これの出来によって、魔女様からのお小遣いが決まるんでしょ?」
「うっ、そうなんだけど、ジャンヌは勉強とか好きじゃないし……」
「串焼き肉」
「えっ?」
「村の肉屋さんが屋台を出してるんだけど、そこの串焼き肉が美味しいんだ。この前試食させてもらったんだけど、森から採れたスパイスとか使っててすっごく刺激的なの。大狩猟祭の期間中しか作れないんだって」
「なにそれ、食べたい!」
「あと領都から来てるお菓子屋さんもあったわ。綿雲みたいなアメとか、宝石みたいな果物がのった焼き菓子とかあるの」
「ノインちゃんは食べたの!?いいないいな!」
「色んなものがたくさんあるのよ。全部食べるには、軍資金がたくさん必要よ」
「わかったわ。ノインちゃん、いえ、ノイン先生!ジャンヌに大狩猟祭のことをもっと教えてください!」
「まかせなさい!」

こうして、ジャンヌちゃんは勉強にも真面目に取り組んでくれるようになった。
魔女様による【人の皮】の最終調整は、それから数時間かかって終わった。戻ってきたジルバーが色々ポーズをとって見せてくれたけど、そこだけ見れば文句のつけようのない出来だった。

「でもちょっと、他の部分よりも血色がよく見えちゃうかな?」
「ええー?やっぱ健康的な方がいいじゃん。ジルは元気なんだし、このくらいの色合いがいいでしょ。そうよね?」

ジャンヌちゃんが心配そうに魔女様を見ると、魔女様は腰に手を当てて言った。

「やればできるじゃない。厚さにムラがあるし弾力が今一つだけど、見習い魔女が作ったにしては上出来よ」
「む、なにその言い方。ジャンヌは頑張ったんですけど」
「褒めてるのよ。この速さでこれくらいのが作れるのは魔女でもそうそういないわ。経験を積めば道具作成術ではすごいところまでイケるんじゃない?」
「でしょ!?さすがジャンヌは天才よね!」
「ノインもジルバーのことが心配なのは分かるけど、このくらいなら問題ないわよ。どうせ上から服を着るんだし、継ぎ目は包帯で隠せば目立たなくなるわ」
「そうですね。魔女様、ありがとうございました」
「作ったのはジャンヌなんだからねっ!」
「うん、ジャンヌちゃんもありがとう!このまま頑張って立派な魔女になってね」
「まっかせて!ジャンヌはすっごい魔女になるんだから!」

魔女様にも褒められて、ジャンヌちゃんは上機嫌だった。私もやっとジャンヌちゃんとの付き合い方がわかってきたところだし、彼女には本当に立派な魔女になってほしいと思ってる。

「ノイン。上着はこっちの袋の中か?」
「ちょっと待って。先に包帯を巻かないと」
「首と腰くらいなら後でもいいだろ」
「もし脱ぐことになったときに、一番ケガがひどかった背中がキレイすぎたらおかしいでしょ。しっかり巻いておかなきゃダメなんだからね」
「うへえ。締め付けられるのは好きじゃないんだよな」
「いいからここに座って」

不自然に見えないように包帯を巻いてから、ジルバーに服を着せた。最後にぐるりと回って見れば、やっといつものジルバーが戻ってきていた。

「どうです?魔女様から見ても元通りでしょう」
「そうね。いいんじゃない?」

魔女様の許可が出たので、ジルバーに服を着せて退院の手続きを始める。ジャンヌちゃんも一緒に出ようとしていたのだけれど、魔女様の「遊ぶためのお小遣いがなくてもいいのかい?」の一声で、渋い顔をして戻っていった。

「それじゃあ魔女様。私たちはこれで失礼したいと思います」
「気をつけて」

魔女様に見送られて、診療所を後にした。ジャンヌちゃんとは魔女様のテストが終わってから合流することになっている。

「ジャンヌは、大丈夫か?」
「今日遊ぶために一生懸命だったから、たぶん大丈夫よ。そう信じて私たちも待ってましょう」
「ああ、そうだな」

もしあまりお小遣いがもらえてなくても、楽しい遊びはたくさんある。今はお祭りの真っ最中なんだから、勉強の後は浮かれて騒いで、いっぱい楽しむ方法を教えてあげよう。


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